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無帰還の迷宮攻略パーティー

 今回は人類共通の開拓目標となっている無帰還の迷宮ですから、ギルドの総力を挙げて攻略しなくてはいけません。ですが、前回の探索により、無闇に人数を増やせば致命的な罠を発動させてしまう可能性が増えるということが分かります。


 となれば、盗賊職を中心にした少人数のパーティーを複数送り込むのが基本となるでしょう。


「……というわけで、コタロウさん、サラディンさん、ミラさん、ソフィアさん、アルベルさんの五人をメイン攻略パーティーとします。他の人も全員参加可能ですが、必ず盗賊職の人を含む五人以下のパーティーを作ってください」


 私の発表を受けてにわかにギルドがざわつき始めました。メインパーティー以外の冒険者達が仲間を探しているのです。


「誰か俺と組もうっすー!」


「罠だらけの迷宮でヨハンと一緒はちょっと……」


 あ、問題児が他の冒険者から敬遠されています。命に関わりますからね、仕方ありませんね。意外と罠の臭いとか分かるかも知れませんけど。


「ではあぶれた戦闘職の方はエルフの襲撃から迷宮入り口を守る役目をお願いします。ちゃんと報酬も出ますよ」


 盗賊職は少ないのでヨハンさんだけでなく多くの戦闘職が余りましたが、そんな皆さんにはネーティアのエルフと戦ってもらいます。ここまでエルフの妨害もなく順調に開拓してきましたが、私達の開拓はエルフからすれば領土侵略に他なりませんので、そろそろ出てきてもおかしくありません。


「エルフっすか! ついにあの性悪女どもと戦う日が来たっすね!」


「おや、ヨハンさんはエルフに会ったことがあるんですか?」


 エルフとにするために連れ去られそうになっていたりしますし、意外と因縁があったりするのでしょうか?


「ないっす」


 ないんですか。


「……そうですか。性格はヨハンさんの言う通りあまり好ましくはないですが、彼女達は見た目が美しいので攻撃を躊躇ためらってやられる人が後を絶ちません。気を付けてください」


 美しいというのはそれだけで強力な武器でもあり防具でもあるのです。何故か女性のエルフしか存在が確認されていませんが、ドライアドのように女性しかいない種族なのかもしれません。それでどうやって種を保てるのかは疑問ですが。樹木の姿をした光明神トゥマリクの生み出した種族なので、今もトゥマリクが作り続けているのかも。


 魔族が人間とエルフのハーフを作ろうとしていましたが、これまでにも人間とエルフのカップルは少なくない数が確認されています。また北のハイネシアン帝国ではエルフを捕まえて玩具にしていると聞きます。嫌われて当然ですね。


 我がフォンデール王国はエルフと交易をしてきましたが、最近開拓が進んで関係が悪化しています。魔宝石の製法も手に入れたので経済的な面でもかなり敵視されているそうですね。だいたい冒険者ギルドのせいですが。


「エルフには胸がないから問題ないな」


「……ではアルベルさんにはエルフと戦ってもらいましょうか。ポンポ・コタヌーさんと交代してください」


 獣人だからか、実力があるのにあぶれていたタヌキさんとおっぱい魔人を交代させます。ソフィアさんの護衛がどうとか言っていますが知りません。


「私のことは心配しないでエルフから迷宮を守っていてね」


 ソフィアさんからも笑顔で言われ、がっくりと肩を落とすアルベルさんでした。わりと真面目に、エルフに誘惑されない戦闘員は貴重なので、ここは彼の性的嗜好がプラスに働いたと考えておきましょう。


「しっかり守ってねー」


 マリーモさんは別パーティーで迷宮を探索するようです。同じパーティーにはコウメイさんと、防御に特化した錬金術の使い手であり街の美容師でもあるミズ・ベルウッドさん、そして敵に幻覚を与える妖術師のレナ・グルカゴンさん、自称怪盗の盗賊ゲンザブロウさんといったメンバー。ええと、戦闘員はいないんでしょうか?


「我々は財宝収集とモンスター捕獲に特化しておりますので」


 コウメイさんが眼鏡をクイッとしました。まあこの人は強いから何とかするでしょう。


「オッパイ」


 ミミックも連れていくんですか!? 冒険者じゃないから人数にはカウントしませんけども。


「俺に任せとけぇ、罠なんかチョチョイのチョイさぁ」


 ゲンザブロウさんがニヤニヤしながら胸をはりますが、すいません。こう言ってはなんですが見た目貧相なオジサンなのでまったく安心できません。盗賊としての腕は確かなんですけど。


「迷宮に出るモンスターはインプだけだぬー?」


 迷宮に行くことになったタヌキさんはサラディンさん相手に情報収集を始めています。さすがですね。他の人達もこれぐらいちゃんとやって欲しいものです。


「地下二階にはたぶんガーゴイルがいると思う。あとは魔族と関りがある可能性が高いので魔族と戦う覚悟をしておけ」


「あのメヌエットとかいう奴もかなり強かったからね。気を引き締めていきなさいよ!」


「ミラさんは森を焼かないように気をつけてくださいね」


「うぐっ」


 こうやって無帰還の迷宮を攻略する準備が整えられていく中、コタロウさんが話しかけてきました。


「マスター、フィストルさんの手がかりについてなんすが、罠を調べれば飛んだ先は分かると思います」


「……ありがとうございます。でも、今回の目的は迷宮の攻略です。罠の解除とモンスターの掃討を第一に考えて行動してください」


「大丈夫すよ。主の無理難題をこなしてこその忍者すから。もっと俺に命令してください」


 私はコタロウさんの主ではないのですが……。


「分かりました。ではお願いします」


 コタロウさんが、右手の人差し指と中指を顔の前で立てました。これは彼の国での『命令を承った』という意味のジェスチャーだそうです。

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