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ネーティアの森

 冒険者達は各々目的地に向けて出発しました。一年前は何もなく迷宮に到着しましたが、あそこはエルフ領ネーティアの中なのでエルフが襲って来る可能性が高いのです。


「まずは対エルフ組が陣地を構築しなくてはいけませんね。あそこまでの範囲も同時進行で工芸者に整備してもらわないと」


 本命のサラディンさんパーティーを見送り、冒険者管理板を見ながら恋茄子に話しかけます。この子が何か相談に乗ってくれるわけではないのですが、言葉にして話しながらの方が考えをまとめやすいのでひとりごと代わりに彼女へ声をかけているのです。


「でもエルフの国があるのはもっと内陸の狭い範囲だから気にしてないんじゃないかしら~?」


 と思ったら恋茄子がまともな返事をしてきました。なんですかその情報、初耳なんですけど。


「エルフの国ってどんなところなんですか?」


 百年生きてるし、植物情報網みたいなものでもあるのかもしれません。


「んー、人間の都市と同じぐらいの大きさの集落がいくつか森の中にあって、それぞれが国になってるわ~♪」


 ほうほう、なかなか興味深い話ですね。


「その国同士は仲が良いんですか?」


「仲が良かったら別の国になってないわ~♪」


 ですよね。そうなると、思ったよりくみやすい相手かもしれません。エルフが脅威なのは、巨大な森を領有している大国家だ(と思われている)からです。個々の戦闘力も高いですが、もっと強力なモンスターが闊歩かっぽする森を開拓する冒険者にとって、単独で脅威になる相手ではありません。だから見た目の美しさを利用してくるわけですけども。


「エルフの国に名前とかあるんですか?」


「分からないわ~♪」


 さすがにそこまでは分かりませんか。


 とりあえずアルベルさんとヨハンさんの組を見てみましょう。


「エルフはどこっすかねー、オークもいるんすかねー」


 ヨハンさんが先頭を歩いています。ゴブリンの次はエルフにオークですか。オークはモンスターというより豚の獣人ですが、こちらも人間に敵対的な種族です。エルフとオークも互いに嫌いあってるみたいですね。


「オークはもっと東だな。ソフィーナ帝国の東部から更に北東の方で目撃情報が多い。ちなみにオークから見たらエルフはかなりのブサイクらしく、互いをみにくいとののしっている現場を狩人がよく目撃している」


 それはそうでしょうね。通常は自分の種族やそれに近い姿の者を美しいと感じるものですから。ゴブリンが異常なんですよ。


「そうなんすか!? じゃあオークがエルフを捕まえてエロエロしたりしないんすか?」


「よほどの変わり者ならあるかもしれないが、まずないな」


……何の話をしてるんですか。まあ、この二人はまだ冒険者の中では上品な方ですけどね。エルフ対処に自ら名乗りを上げた男性の多くは明らかにそっちの方を期待している人ばかりです。そこにつけこまれるんだって言っているのに、まったくもう。


 というか、女の子にモテモテとか言っていたわりにヨハンさんはあまり性的な話をしないんですよね。それも彼の勇者観から来ているのでしょうか?


「隠れろ!」


 突然、アルベルさんが警告を発しました。冒険者達がとっさに散開し木の影に入ると、さっきまで彼等がいた場所の地面に何本もの矢が突き刺さります。


「エルフだ!」


 出ましたね。さすがに恋茄子が言うように気にしてないということはなかったようです。


「ふん、下劣な人間どもが我々の森をずいぶんと荒らしてくれたわね」


 進行方向からは、剣を構えたエルフが一人現れました。透き通るような白い肌に腰まで届く長い金髪、そして髪の間から顔を出す尖った耳はまさしく森のエルフです。機敏さを重視しているのか、身体には薄い布の服一枚だけを着けていて、防具はありません。さっきの矢を見る限り、他にも数人のエルフが木陰から弓で狙っているのでしょう。


「おおっ、これがエルフっすか! 確かに美人っすね!」


「だが胸が無い」


「うるさい! これだから人間の男は下品で嫌いなのよ」


 剣のエルフがアルベルさんの暴言に激昂しました。当然です。ちょっと矢の数十本ぐらい刺してやってください。


「はぁっ!」


 エルフがしゃべっているのを見たアルベルさんが素早く飛び出し、得意の三段斬りを繰り出します。ルール無用の対人戦としてはセオリー通りというか、しっかりと隙をついて攻めるところがさすがの帝国護衛兵ですね。さっきのは挑発でしょう。たぶん、きっと。


 剣のエルフは焦ったように剣で弾きながらバックステップで距離を取りますが、避けきれずに一撃食らいましたね。


 でも、弓兵は?


「そこだああああ!」


 ヨハンさんが木々の間を駆け抜けて弓エルフの一人が隠れている場所に突進していきます。臭いを感じたんですかね? かなり便利なギフトですが、これはもはや犬ですね。


「きゃあああ!」


 驚いたエルフが逃げ惑います。やはり個々のエルフはそれほど強敵とは言えませんね。


 ところで先ほどアルベルさんの攻撃を受けたエルフですが、剣で斬られたために服が盛大に破れて下着が露出しています。出血は見られないので、たぶん魔法で肉体を強化しているのでしょう。


 そこに、他の冒険者達が殺到しました。


「うおおお、ヤッちまえー!」


「犯す犯す犯す!」


……一瞬この連中を魔法で攻撃しそうになりましたが、大半の冒険者はこんなものです。だから美しい見た目に気を付けろと言ったのに。


「……ククク」


 エルフが、笑いました。


「離れろ!」


 アルベルさんが警告を発して距離を取りますが、反応したのはヨハンさんだけです。


女神の蝿取り器エロイゾン・トラップ


 エルフの呪文で地面に落とし穴が現れました。下品な冒険者達が落ちると、穴の壁から無数のもりが飛び出し彼等の身体に突き刺さります。返しのついた先端部は肉に食い込み、抜こうとすれば傷が広がる仕組みですね。


「厄介なのが二匹残った、撤退するぞ!」


 剣のエルフが号令を出すと、エルフ達は一斉に逃げていきました。敵もやるもんですねー。


「あーん、待ってー!」


「こら、逃げるなっす!」


 おや、さっきの弓エルフが逃げ遅れてヨハンさんに追いかけられてます。でも危ないですよ。


「えいっ、氷の矢アイシクルアロー


「おわっ!」


 エルフが放った魔法の矢を辛うじて剣で弾きました。おお、ずいぶん上達しましたねー。


「へへーんだ、あっかんべー」


 舌を出してヨハンさんを挑発しながら逃げていくエルフですが、なんでしょう、微笑ましいやり取りに見えます。


「くっそー、逃がしたっす!」


「捕まえるのが目的じゃないから構わないさ。しかしこいつらはどうしたものかな」


 アルベルさんは敵の罠にかかって呻き声を上げる冒険者ハエ達を見下ろしてため息をつきます。一応助けてあげてくださいねー。もうこの指令には参加出来ないでしょうけど。


「第二陣が来る前に迷宮攻略パーティーを送り込みたいところですね」


「そうね~♪」


 私と恋茄子は救助活動をするアルベルさんとヨハンさんを見ながらお茶をすするのでした。

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