本命のサラディンさんパーティーに先んじて、コウメイさんのパーティーが無帰還の迷宮に到着しました。迷宮の周りにエルフはいないようですね、あれで諦めたとは思えませんが。
「まずは罠の解除をお願いねー」
「任せておけぇ、この怪盗ゲンザブロウにかかればあっという間さぁ」
ゲンザブロウさんは怪盗を名乗っていますが、職業はただの盗賊です。ヨハンさんと同じ系統の人ですね。ただ、盗賊としての腕は本物です。罠や鍵の解除能力はコタロウさんよりも上かも知れません。猫背で貧相な身体に無精ひげを生やした小柄のおじさんという見た目がいかにもコソ泥って感じなのでパーティーを組みたがる人があまりいないのですが。
「良い材料が見つかったら教えてねン」
銀色のサイドテールを揺らして声援を送るミズ・ベルウッドさんは自分の錬金術に使う材料を集めるために冒険者をやっている美容師さんです。職業としては
「……よろ」
レナ・グルカゴンさんは
そして吟遊詩人のマリーモさんと学者のコウメイさん。改めて、
「入り口の罠は外したぜぇ」
そんなことを考えていたらいつの間にかゲンザブロウさんが罠を外していました。あの床から槍が出てくる罠ですね。
「情報によるとすぐにインプが襲ってくるはずだ。ベルウッド君、グルカゴン君、出番ですよ」
コウメイさんが眼鏡をクイッとします。うわー、なんか悪者っぽーい。
「オッケー、任せといてン!」
「……だるい」
二人がそれぞれの術を準備すると、あわれな
『キシャアアア!』
【
インプが手に持った小さな弓から矢を放ちますが、ベルウッドさんが空中に生み出した鋼の盾が弾きます。ええと、錬金術ってそういうものでしたっけ?
【アブラカダブラ】
レナさんがよく分からない呪文を唱えると、インプがビクリと身体を震わせお腹を押さえて
「さーて、おねんねしようねー」
【子守歌】
「オッパイ」
空中で眠りに落ち、落下するところをミミックが受け止めました。見事な連係プレーですね。
「よくやった。これでインプは確保できたので、今後は構わず仕留めてくれたまえ」
「オッパイ」
インプを箱の中に入れたコウメイさんが笑顔で指示を出すと、ミミックが一声返事をして身体を震わせます。数秒後、そこには黒い全身鎧に身を包んだ騎士が立っていました。なるほど、これで前衛職を補うんですね。
「さあ、迷宮の制圧はサブマスター達に任せて私達はお宝を探すのよー」
うきうきと歩き出すマリーモさんの後を追うようにゲンザブロウさんが小走りで進みます。
「一人で行くとあぶねぇぞぉ」
そうですね、罠を解除して貰わないと。またひどい目に遭いますよ?
そしてそんなことを言いながらマリーモさんの後ろに位置して前に行かないゲンザブロウさん。これはあれですね、前の人のお尻を見てますね。
「尻より胸の方がいいぞ」
変身早々ろくでもないことを言い出すアルベルさん(偽)。
「ちょっと、どこ見てるのよー!」
「形のいいお尻よねン」
「……どうでもいい」
賑やかなパーティーを後ろから腕組みして眺めながら、コウメイさんは満足げです。
「ふふふ、この調子で新たなモンスターを見つけたら捕まえてくれたまえ」
まあ、ギルドにとっては制圧よりも研究の方が重要だったりしますからね。国家事業だからボスは倒さないといけませんけど。
……手がかりも欲しいし。
ところでコウメイさんは完全に高みの見物ですけど、このメンバーの中で一番強いんですよね。何気にレナさんよりずっと人任せですねこの人。
「順調みたいね~♪」
「そうですね、ですが油断は禁物です。この迷宮の本番は二層目ですし、どんなボスが待っているかはまだ分かっていませんからね」
歌いながら楽観的なコメントをする恋茄子ですが、あのテレポーターのせいで二層目がどんな場所かよく分かっていないのが現実ですし、ダンジョンの性質としてボスモンスターが待ち構えているのは確実でしょう。サラディンさん達には頑張ってもらいたいものです。
「じゃあそっちのパーティーを見たらいいんじゃない~?」
「そうですね。コウメイさん達は大丈夫そうですし、サラディンさん達をメインで見ていきましょうか」