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地上の防衛戦

 あれから一部屋ずつ探索していくサラディンさんパーティーですが、凄いですね。全ての部屋が罠満載で、さらにガーゴイルのお出迎えがありましたよ。一体ずつならあっさり倒せるので特に苦戦することもなく進んでいきます。


 サラディンさん達の探索はかなり時間がかかりそうなので、その間に他のところも見てみましょうか。


「そういえばエルフはどうなったのでしょう?」


「地上がエルフに制圧されてたりして~♪」


 そうなってたら困りますからね、ちょっとアルベルさんに視点を移します。


 迷宮の入り口には、今まさにエルフと戦っている最中のアルベルさんとヨハンさんがいました。他にも沢山の冒険者が防衛してますね。戦闘職はほとんどこちらに向かったので増援がどんどんきてエルフの方が攻めあぐねている状態です。


「くっ、次から次へと仲間を呼びおって!」


 前にきた剣士エルフが苦々しげに吐き捨てています。前回も指揮していたし、このエルフが隊長的な存在なのでしょうね。別に仲間を呼んでいるのではなく、最初から来る予定の冒険者が時間差で到着しているだけですが。


 エルフの方は人数が前と同じです。恋茄子が言っていたようにエルフが一枚岩ではないのなら、この方達はそんなに兵力がないのかもしれません。


「待つっすー!」


「誰が待つか、バカー!」


 あ、ヨハンさんとエルフが追いかけっこをしています。またあの弓手エルフですか。遊んでいるようにしか見えませんが、当人達は真剣なのでしょう。


「うひひひ、カワイ子ちゃんが一杯だ!」


「捕まえろー!」


 他の冒険者達は相変わらずエルフに欲情しているようです。と言ってもこの前罠にかかった人達はまだ復帰していないので別の人達ですが。


「欲情するには足りないな」


 そんな中アルベルさんが冷静に剣を振り、隊長格のエルフをどんどん追い詰めていきます。何が足りないのかは言わなくていいですからね?


 この調子ならエルフを捕獲出来るかもしれませんね。冒険者達が無体なことをしようとしたら雷でも落としましょうか……。


『サフィール、作戦は失敗です。撤退しなさい』


 そこに新たな女性の声が響きました。この声の調子からすると、遠隔魔術で声だけ届けているようですね。あちらにも同じことをしている者がいるようです。


「申し訳ありません、アレキサンドラ様」


「逃がすか!」


 サフィールと呼ばれた隊長格のエルフが声の主に謝罪をして身をひるがえしました。様付けということは相手は偉い人でしょうか。もちろんアルベルさんが簡単に逃がしたりはしないのですが――


『ダンシング・リーフ』


 アレキサンドラが呪文を唱えると大量の木の葉が森の中を舞い踊ります。これは……危険ですね。


『ダイアモンド・ウォール』


 舞い踊る木の葉が鋭い刃であることに気付いた私は、硬さ重視の物理防御壁で冒険者一人一人を囲みました。透明な壁が突然現れた格好になるので、追いかけっこをしていたヨハンさんが勢いよくぶつかります。


「ふぎゃっ!」


「や~い、バーカバーカ」


 その姿を見てここぞとばかりに挑発する弓手エルフ。前もそうでしたが、他のエルフより精神的に幼いようですね。見た目はあまり変わらないので実年齢は分かりませんが。


「シトリン、早く離脱しろ!」


「あ、待ってー!」


 シトリンというのがこのエルフの名前なのでしょう。先に走るサフィールに怒られて逃げていきました。


『ほう、人間にも遠隔魔術の使い手がいるのか』


 アレキサンドラの声。あちらにも私の存在がバレてしまいましたね。でもそれっきり声が聞こえなくなったので、何かをしてくることはなさそうです。


「さて、そろそろサラディンさん達も奥まで進んだ頃でしょうか?」


「ボス戦ではピンチになっても私の出番は無いんですよねぇ。買い物してる余裕がないので」


 さっき呼んだモミアーゲさんが管理板を覗きこみながら言いました。そうですね、道具を買うならボス戦の前か、戦闘後にポーションを欲しがるぐらいでしょうか。


「適度に苦戦してダンジョンの深部で困ってる冒険者が狙い目なんですよ」


「じゃあもっと大きいダンジョンを攻略する頃になったら程よい場所にあらかじめ店でも構えておくといいかもしれませんね」


「なんか悪だくみしてるわね~♪」


「悪だくみじゃないですよ、冒険者達の手助けですよ。苦しい時に補給ポイントがあると助かるでしょう?」


 そこに行商人がいたら助かる命が沢山ありますからね。ギルドとしても大切なのです。


「でもぼったくるんでしょ~?」


「ダンジョン価格ですねぇ、需要が高ければそれだけ値段が上がるのは仕方のないことなんですねぇ」


 モミアーゲさんは平然と言いますが、この人の要求金額は間違いなく高すぎですけどね。まあ命を落としたらお金なんていくら持っていても無駄ですから、助かる存在です。


 そしてサラディンさんパーティーに視点を戻しました。ちょうど最後の部屋に向かうところのようです。いいタイミングですね!


「さて、どんなボスが待っているかな?」


「燃える奴だといいんだけど」


「ああっ、ダンジョンボスとの戦い! これぞ冒険者の醍醐味ですわね!」


 ソフィアさんが変なテンションになっています。大丈夫でしょうか?


「でっかいアリジゴクが待ち構えてたら嫌だぬー」


「フィストルさんの行方が分かるといいんすけどね」


 口々に思いを呟いて通路の行き止まりにある部屋を開けます。部屋の中は前回魔法無効空間化していたので見えなかったんですよね。


 コタロウさんが扉を開け、サラディンさんとタヌキさんが足を踏み入れると部屋の中が映りました。よかった、魔法が届くようです。


 部屋の中は他の部屋と違って彫像(だいたいガーゴイル)や祭壇(だいたい罠)もないシンプルな空間――に、多数の骨が散らばっています。形状からして獲物は人間だけでは無さそうですね。


『キャキャキャキャキャ!』


 耳障りな甲高い声が響きました。

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