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新たな決意

 あれから数日後、今回の指令に参加した皆さんに報酬が出ました。


「はい、ヨハンさん。100シエラと、エルフの襲撃を防ぐのに活躍したので500デント上乗せになりましたよ」


 私は大量の金貨と銀貨が詰まった袋をヨハンさんに渡します。かなりの大盤振る舞いですが、フォンデール王国としてはこれまでのギルドの功績に大変満足しているそうで、沢山の報酬を出してくれました。魔宝石の生産も始まって国家予算がかなり増加しているのも関係しているようです。


 宮廷ではコウメイさんに何か特別な勲章をと考えているみたいですが、当の本人は新しく捕まえたモンスターの研究に夢中でそういうのには興味がなさそうです。晩餐会ばんさんかいへの招待状が無造作にゴミ箱に突っ込まれていました。


「うおおー、金貨っすー!」


「ちゃんと働きは見ていますからね。防衛組もヨハンさんとアルベルさんには特別ボーナスが出ていますし貢献ポイントも大きく貯まりましたよ」


 その分エルフの罠にかかった人達は報酬無しです。自分の役目を果たしていない人にはそれなりのペナルティを与えなくてはいけませんからね。真面目に戦っていればたとえ活躍していなくても100シエラは払われていたんですけどねー。


 そうやって皆さんに報酬を配っていると、アルベルさんを従えたソフィアさんが嬉しそうに話しかけてきました。


「マスター、あの罠の転移先が分かりましたね! コストルはソフィーナ帝国の領内ですから、ご案内しますよ」


 ソフィアさんのことですから、そう言うと思っていました。この輝く瞳は何かの英雄物語と重ね合わせていますね?


「そのことですが、先輩の件はしばらく保留とします」


「ええっ!? どうしてですか?」


「本当にいいの~?」


 ソフィアさんが驚き、恋茄子が念を押してきますが、私の決意は変わりませんよ。


「私はこの冒険者ギルドを先輩に任されたんです。ギルドはまだやっと軌道に乗り始めたところですから、今が一番の正念場とも言えます。そんな時にギルドを放って遥か東の、それもまったく人の手が届いていない大陸を目指して旅に出るなんて無責任すぎるじゃないですか。それこそ先輩に怒られちゃいますよ。冒険者ギルドは先輩の夢だったんですからね」


 先輩に会いたい気持ちはあります。でも、今の私には先輩と同じぐらい大切な人達がいるんです。


 ギルドの運営も大事ですが、それ以上に私をここまで支えてくれた冒険者の皆さんとお別れしてまで会えるかもわからない先輩のところへ行く気にはなれません。


 辛いときに一緒に頑張ってくれたサラディンさんとミラさん。


 何も始まっていないうちにやってきて、どんどん成長してきたヨハンさん。


 いつもその高度な技能でギルドを支えてくれるコウメイさんにコタロウさん。


 変わった歌でいつもギルド酒場を明るく盛り上げてくれるマリーモさん。


 ギルドメンバーではないけど冒険者のピンチに備えて準備してくれているモミアーゲさん。


 どんな時も冷静に状況を見極めて、仲間達を導いてくれるタヌキさん。


 マイペースで自分の国も放っているけど、真面目にギルドのことを考えてくれるソフィアさん。


 女性の胸ばかり見ているけどやるべき時にはやるアルベルさん。


 いつもやる気無さそうにしてるけどクエストは毎回成功させているレナさん。


 本業の美容師そっちのけで没頭している趣味のために手伝ってくれる錬金術師のベルウッドさん。


 怪盗にはほど遠いけど、盗賊としてギルドに貢献してくれるゲンザブロウさん。


 他にも沢山の冒険者が、ギルドに参加してくれています。そんな皆さんのことが、私は大好きなんです。


「それに、これだけ頼りになる冒険者達が集まっているんです。もっと力をつけて、みんなで迎えに行った方が先輩も喜んでくれますよ」


 そう、元々私は先輩のいるところまで開拓してしまうつもりでした。こちらの大陸を全て制覇してから、とまでは言いませんがメンバーの皆さんが東の大陸まで冒険しに行けるようになってからでも遅くはないと思います。


 先輩のことだから、自力で帰ってくるかもしれませんしね。


「エスカがそう言うなら私達はこのままサポートを続けるだけよ。まあ、早く東の大陸に行けるようにこいつらをビシビシ鍛えてやるわ」


 ミラさんがギルドの魔法使いマジックユーザー達を見回しながら自分の胸を叩いて私に「任せろ」のジェスチャーをしました。


「えぇ……だるい」


 レナさんがぼやくのを聞いて、クスッと笑ってしまうのでした。


――先輩、すぐに行けなくてごめんなさい。でも、聞かせてくれた夢は絶対に叶えて見せますからね!


◇◆◇


 その頃、東の大陸某所にて。


 エメラルドグリーンの髪を持った青年が、何かの骨を大量に組み合わせて作られた禍々まがまがしい気配を放つ建造物に入っていく。


「目当てのものは見つかったかね? フィストル君」


 青年を出迎えたのは、年老いた老人。ローブから覗く手は、木乃伊ミイラのように干からびている。


「いやー、どこも魔族だらけでなかなか調べきれないですね……ジョージさんはどうです?」


「儂は面白いものを見つけたよ、廃墟の奥に隠された奥義書だ。これで研究が進むといいんだがね」


「それは良かった! いやー、ジョージさんがこちらに来ていたおかげで助かりましたよ」


「儂も君のおかげでここらの調査がやりやすくなっている。お互い様というものだ」


 禍々しい城の中とは思えないほどに明るい声で二人は笑い合う。


「ふふふ……を持って帰ったらエスカもびっくりするぞ!」


 本国でそのエスカがどれだけ心を痛めているかも知らず、不死王の協力を得て無邪気に探索を続けるフィストルなのだった。

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