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ボス部屋の調査

「ほい、【アブラカダブラ】」


「ウホッ!? ウ……ホゥ……」


 不思議な呪文が唱えられると、猩々が苦しそうにうずくまりました。レナさんですね。コウメイさんパーティーが合流したようです。ということはさっきのアルベルさんはミミックですか。


「はい捕まえるよん、【鋼の檻】アイアンケージ


 続けて猩々の周りに鋼の檻が生まれて閉じ込めてしまいました。すごいけどそれのどこが錬金術なんですかベルウッドさん。私の認識が間違っているのでしょうか?


「眠るといいのよー」


【子守歌】


 マリーモさんの歌で眠りこんだ猩々は、みるみる小さくなって元の猿に戻りました。


「ご苦労様、じゃあこれは貰っていきましょう。あ、ゲンザブロウ君はこの部屋の調査に協力してくれたまえ」


 そう言って猩々の入った檻を軽々と持ち上げるコウメイさん。そのパワーはどこから湧いてくるんですか?


 それにしても、ギルドの精鋭パーティーがあんなに苦戦したモンスターをあっさりと戦闘不能にして捕獲するなんて、かなり予想外の展開でした。


「相性の問題ね~♪」


「そうですね、猩々には力押しよりからめ手が有効だったようです。単純な戦闘力だけで攻略パーティーを決めるのは必ずしも良い手では無いということですね。いい学びになりました」


 檻を担いで意気揚々と帰るコウメイさんとその仲間達ですが、ゲンザブロウさんだけ残ります。


「任せとけぇ、怪盗と忍者でボス部屋を丸裸だぁ」


「そうすね、手分けして調べましょう」


 盗賊職の二人が協力してボス部屋の仕掛けを探るようです。念を押しておきますが、ゲンザブロウさんはただの盗賊です。


「我々は邪魔にならないように入口で待とうか」


 サラディンさんの提案で、他のメンバーは一応何かあった時に助けに入れるぐらいの距離から彼等の仕事を見守ることにしました。


 さて……どうなるでしょう?


「行き先、分かるかしらね~?」


「あまり期待はしてないですけどね。偽メヌエットから引き出した情報から考えれば、先輩は恐らく東の大陸に行ってます。直接飛んだのかどこか別の場所から連れて行かれたのかは分かりませんが」


 そんな話をしていると、忍者と盗賊が同時に何かを見つけたようです。


「ああ、このスイッチすね」


「こっちにもスイッチがあるぜぇ」


 ちょうど部屋の両側に分かれて立つ二人が指し示す場所には、よく見ると壁の一部にほんの少し色が違う場所があります。言われないと分かりませんね、これは。


「連動してるなぁ」


「連動してるすね」


 二人で顔を見合わせ、うなずいています。よく分かりませんが、彼等には何か彼等だけにしか分からない感覚があるのでしょう。


「ラ・デル・コストル……ってどこだぁ?」


「コストルなら分かるすよ、この大陸の東の方にあるちっちゃい国すね」


 コストル……確か、エルフの森ネーティアを挟んだ反対側にある、ソフィーナ帝国の属領ですね。カーボ共和国との境界にあったはずです。


「なるほどなぁ、そんな遠くまで飛ばせるもんかぁ?」


「この仕組みだけでは無理そうすね。さっきの猿が凄い魔力を持っていたので、あいつとその飼い主の魔力で転移を可能にしたんでしょう」


 なるほど、コタロウさんの説明で状況が分かりました。あの猩々はミミックと同じように魔族に飼われていたペットですね。それでここからコストルまで手頃な人間を送って、そこから海を渡って東の大陸に連れて行ったのでしょう。


「どうするの~?」


「どうする……とは?」


「先輩を探しに行く~?」


「商人ギルドならコストルに船を用意することは可能ですねぇ。それなりにお金はかかりますが」


 モミアーゲさんの合いの手が入りました。


「ソフィーナ帝国の領地なら皇帝さんもいるし、簡単に行けるわよ~♪」


 そうでした。ソフィアさんがいれば、あちらの帝国内は自由に動けるでしょう。ソフィーナ帝国の広大な領地は大陸の東側に集中しています。


 今のギルドメンバーでは東の大陸に行ったら生きて帰るのは難しいでしょうが、私が自分で出向けば……。


「でも、そうしたら最低でも数ヶ月はギルドを留守にしないといけなくなります」


「大丈夫よ~、みんな喜んで協力してくれるわ~♪」


 そうでしょうね。たぶんギルドの皆さんは快く私を送り出してくれるでしょう。それに何人かは一緒に行くって言うと思います。ヨハンさんとか。


 サラディンさんとミラさんがいれば、ギルドの運営も安泰でしょう。たぶんサリエリ先生も助っ人に来てくれるのではないかと思います。


 あれから一年ほど経ちました。エメラルドグリーンの髪をかきあげて穏やかに笑う先輩の顔が思い出されます。


 いつも、自分の夢を語って遠くを見ていた先輩。


 戦闘はからっきしだけど、不思議な自信に溢れてて、どんな困難も知恵と勇気で乗り越えて行った先輩。


 そして、幼い頃から宮廷に連れて行かれて同年代の友達がほとんどいなかった私を優しく相手してくれた先輩。


――やっぱり、会いたいよ。


「私は……」


 心を決めた私は、恋茄子に告げました。

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