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討伐完了

「調子こいてすんませんっしたあああ!」


 失神していたトウテツを起こすと、その場に這いつくばって謝り始めました。そういうモンスターだそうですからね。


「もうタヌキさんやキツネさんに迷惑をかけてはいけませんよ」


「分かりました!」


 これでタヌキの族長はキツネ族に話を通してくれるでしょう。


「では私は帰りますね。ちょっとモミアーゲさんと話をしないといけませんから」


 主にお金の行先について。


「さすがギルドマスターだぬー」


「さすがですお姉さま!」


 あ、そういうのはいいんでさっさとキツネの森に行ってください。


「トウテツはどうするんすか?」


 コタロウさんが聞いてきます。このまま放っておこうかと思っていましたが、どうせ言うことを聞くならコウメイさんにでも引き渡しましょうか……あっ、そうだ!


「そうですね、トウテツさんは私のお願いを聞いてくれますよね?」


 トウテツに向かって微笑みかけます。


「ヒィッ! 聞きます聞きます、あねさんの命令ならどんなことでもいたしますぅぅっ!!」


 異常に怯えた様子で体を震わせています。ちょっと演出過剰でしたかね?


「そうっすよ、マスターに逆らったら死ぬより恐ろしい目にあうっすよ!」


「ヨハンさん?」


「ひええええ!」


 私がじろりと睨むとヨハンさんはダッシュで逃げていきました。まったくもう。


「それで、マスターはトウテツに何をお願いするんですか?」


 ソフィアさんが質問してきます。そうでした、問題児と遊んでいる場合ではありません。


「こほん、トウテツさんには皆さんと一緒にヴァレリッツに行ってもらいましょう。エルフの女王を助けるのにとても役立つと思います」


 単純に戦力としてもこのパーティーより上ですし、モンスターの襲撃ということで注意をそらしたりもできます。正直なところ、ヨハンさん達だけでアレキサンドラを助け出すのは無理そうですからね。


「なるほど。我々が束になってもかなわなかったモンスターが手伝ってくれるとなれば、やれることはかなり増えそうだ」


「ええ、後はお任せして私は帰りますので。トウテツさん、ちゃんとこの人達を手伝ってくださいね」


「分かりましたっ!!」


 こうして、私はギルドに戻り――


「また必要な時は2000デント払えば来てもらえるんですね?」


「ええーと、それはどうでしょう? 金額も金額ですし、あまり私に頼る前提で考えないようにお願いしますね」


 金銭感覚がおかしいソフィアさんは気安く呼びそうですけど、2000デントは一年遊んで暮らせるぐらいの金額ですからね? 具体的には四人家族でも一年間普通の暮らしが出来るぐらいの金額ですからね?


 何はともあれ、トウテツの問題は解決したのでギルドに戻りました。


◇◆◇


「おかえり~♪」


 恋茄子が相変わらず歌っています。念のため確認しましたが、客は来ていなかったようですね。モミアーゲさんはどこにいるのでしょう?


「上手くいきましたねぇ。はい、これがマスターの取り分です」


 私が探すまでもなく、モミアーゲさんが話しかけてきました。彼が渡してきたのは1500デント。紹介しただけで500デントも取るんですか? とも思いましたが、アイデアを出したのも彼ですし実際に現地に行って交渉をした手間を考えれば、まあ四分の一ぐらい持っていってもいいでしょう。絶妙に文句が出ないギリギリのラインを攻めてきていますね、さすがです。


「なかなかいいアイデアでしたね。今後他に強力な助っ人が呼べそうならお金の力で依頼を成功させられそうですね」


「マスターより強い人がいるとは思えませんけどねぇ」


 モミアーゲさんの言葉は無視して、再びヨハンさん達の様子を冒険者管理板で確認します。


◇◆◇


「おらガキども、とっとと行くぞ!」


 トウテツが尊大な態度でヨハンさん達を急かしています。分かりやすいですね。でもモンスターと一緒にタヌキとキツネのテリトリーに行ったら共犯だと疑われませんかね?


「よーし、急いでキツネの森に行くっすよ!」


 トウテツの態度を気にした様子もないヨハンさん。こういうところは評価できるんですけどね。


「長に話を付けてもらうぬー」


 パーティーはタヌキの森に討伐成功を報告しに行きました。対象のトウテツが一緒にいるのだから大丈夫だとは思いますが……虚偽を疑うかもしれませんね。


「よくやったぬー、顛末てんまつは監視させてもらっていたぬー。強くて優しい上司に感謝するぬー」


 タヌキの長は成り行きを見ていたようです。まあそうですよね。おかげで説明する必要はなさそうです。


「では長、キツネに話をしてくれるぬー?」


「それには及びません」


 タヌキさん達が話していると、聞き覚えのない女性の声が聞こえました。


「誰っすか?」


「私はキツネ族の長、テンコと申します。トウテツのことを監視していたのは我等も同じ。あなた方が我等のテリトリーを通り、危害を加えないというのなら、喜んでお通ししましょう」


 そこにいたのは、キツネの獣人です。こちらも人間のような身体に狐の顔を持つ獣人ですね。タヌキは上半身にベストだけ着ていましたが、キツネは貫頭衣を着ていますね。


「キツネ族は毛皮が人間に狙われるからね~、見えないように服を着込むのよ~」


 恋茄子が、ちょっと笑えない事情を教えてくれました。

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