「ここまでが我々のテリトリーです。この先は黒エルフの領地になります」
テンコさんが先導をやめてヨハンさん達に言いました。地図を見ると結構距離がある感じですが、ここまで黒エルフの領地なんですね。
「ネーティアの森全部がエルフの領地だもの~」
なるほど。
「ありがとっす! テンコさんも冒険者にならないっすか?」
そんな話をしてましたね。でも簡単な話ではないですよ。
「そうですね、考えておきます。一族にとってあのギルドマスターとつながりができることは大きな利益になりそうですし」
テンコさんは笑顔で答えました。ううむ、私はそんなに凄い人間ではないのですが。でもギルドの冒険者が増えるのはいいことですから、キツネ族が参加してくれることを祈りましょう。
そんな話をして別れた後、ヨハンさん達は森の中を進んでいきます。エルフ二人も含めて全員初めて来た場所ですが、方角はコタロウさんが把握しているので道に迷わず向かっています。忍者って本当に便利ですね。噂のネコ忍者を是非ともスカウトしたいところです。
「ヴァレリッツに着いたみたい。あの
シトリンが説明します。なぜか得意気な表情ですが、彼女がまともな説明をしたのはこれが初めてな気がするので嬉しいのでしょう。
彼女が指し示す場所には、カルネの町を囲っていた柵と同じような形状の黒い杭がびっしりと並んでいます。
「入り口は向こうの方か。それじゃあ俺は先に行ってるぜ。せいぜい派手に暴れてやるさ」
トウテツが音もなく森の中を走って行きます。もう作戦はよく話し合っているので、連携を取るのはヨハンさんでも可能なぐらいになっています。
「よし、俺達も行くすよ。エルフの二人が先導してくれると助かるす」
「ああ、任せてくれ」
コタロウさんの要請にサフィールが真剣な顔で応えます。シトリンも無言で頷きました。女王様を助ける作戦ですから、緊張しているみたいですね。
「女王様が捕まってる場所の見当はつくかぬー?」
「ああ、アレキサンドラ様の魔力は特別だからな。ここからでも微かに感じる。侵入さえしてしまえば、見つけるのは容易いだろう」
そういえばアレキサンドラは遠隔魔法でエルフ兵の支援をしていましたね。黒エルフは彼女を捕まえてその魔力を利用しようとしているのでしょうか?
エルフはみんな女性ですから、どこぞの野蛮な国のように性的な辱しめをすることは無さそうですね。ああいうのは気分が悪くなるから勘弁して欲しいところです。
しばらくして、一同はヴァレリッツの入り口に到着しました。これも黒檀の大きな門がありますね、思ったよりかなり立派な城門です。
「門の陰に隠れて始まるのを待つすよ」
コタロウさんがうまく隠れる場所を見つけて誘導します。アルベルさんが先ほどから落ち着かない様子ですが、どうしたのでしょう?
『おらっ、くらえ!』
少し間を置いてトウテツが陽動を開始しました。なんと大胆にも城門を力一杯殴り付けています。さっきシトリンが説明した魔力の影響で反発が起き、かなりの轟音が森に響きました。
「トウテツが攻めてきたぞ! 迎え撃て!」
大勢の黒エルフが城門を開けて出てきました。同時に上から大量の矢が降り注ぎます。
『なんだぁ、そのヘナチョコは』
ですが、トウテツの身体を覆う毛皮が矢を全て弾きました。確かアルベルさんが傷をつけてませんでしたっけ? 今さらですけど、アルベルさんってかなり強いんですね。
そのアルベルさんですが……?
「こ、これは!」
城門から出てきた黒エルフ達を見ると、彼女達に向かって駆け出して行きました。
……あーあ。
「アルベル殿!? 一体何を」
サフィールが動揺しています。まあ理由は分かっていますが、彼と剣を交えたサフィールにはかなり衝撃的な展開ではないでしょうか。
アルベルさんが向かった先には、勇ましく剣を構えた、露出度の高い服に身を包む黒エルフ達がいます。
黒エルフの名の通り、黒い肌を持ち長い銀髪が目立ちますね。黒と白ってかなり派手な色合いなのですが、実は森の中だと意外に風景と同化してしまうんですね。世の中には白と黒の縞々な姿をした馬がいるとか。
まあ余談はさておき、黒エルフにはもう一つ、重大な特徴がありました。
つまり、胸が大きい!!
「なんと魅力的なお嬢さん達だ! ここは天国か?」
無防備で黒エルフの大群に突っ込んでいく黒騎士。そのまま天国に行って良いですよ?
「なんだこいつは! もしやトウテツの仲間か?」
黒エルフ達は困惑しながらもアルベルさんに一斉攻撃を仕掛けます。
『何やってんだお前!?』
予定外の暴走にトウテツも驚愕しています。すいませんねうちのおっぱい魔人が。
「……あれを囮にして侵入しましょう」
「そうですね」
コタロウさんが無表情で提案すると、ソフィアさんが即座に賛同しました。
「私の色仕掛けにも動じなかったアルベル殿が何故あんなことに?」
サフィールさん、それを追及すると怒りしか生まれませんよ?
「アルベルさんはおっぱい好きだからっすね」
「……は?」
ヨハンさんが一切気づかいなく説明すると、エルフ二人の顔から瞬時に表情が消えました。
「行こう、アレキサンドラ様はこっちだ」
「あれは放っといてさっさといきましょ!」
器用に致命傷は避けながら黒エルフから袋叩きにされているアルベルさんをその場に残し、ヨハンさん達はヴァレリッツに侵入するのでした。
結果的には見事に黒エルフの意識が別の方に向いて、うまく侵入することができましたね。ある意味アルベルさんの手柄と言えるでしょう。
生きて帰れるのかは分かりませんけどね。むしろ帰ってこなくてもいいですけど。