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アレキサンドラ救出

 アルベルさんを犠牲にして無事ヴァレリッツへの潜入を果たした一行ですが、アレキサンドラ女王を見つけるのには苦労しています。何故なら……。


「おかしい。確かにこの壁の向こうからアレキサンドラ様の魔力を感じるのに、どこにも入り口がないぞ」


 そうです、目的の場所は分かっているのですが、そこに行くための道が見つからないのです。ヴァレリッツの奥にある扉の無い壁の中にアレキサンドラ女王がいるようなのですが、そこに入る入り口は恐らく別の場所にあって、地下を通って行くのでしょう。


「この壁は壊せないっすか?」


 ヨハンさんが分かりやすく短絡的な解決方法を提案しますが、そう簡単にはいかないでしょうね。たところ頑丈な石壁を魔力で補強しています。これを力づくで破壊するのは現実的ではありません。


「壁全体から魔力を感じるわ。たぶん全員で力を合わせても傷一つつかないと思う」


 シトリンが壁に手をついて言います。腐ってもエルフ、壁に込められた魔力を感じ取れるようですね。ここでコタロウさんが前に出ます。困った時のコタロウさん。


「どこにあるか分からない入り口を探している暇はないすよ。ここは壁を越えて上から行きましょう」


 そう言って懐から取り出したのは鉤爪かぎづめのついたロープでした。これを投げて壁の上に引っ掛けて登るということですね。視点を変えて壁の上から見てみると、いくらか小さい小屋の周りを高い壁がぐるっと囲っている形状になっているようなのでこの方法で侵入可能ですね。


 なんでこんな形にしているんでしょう? 箱型の建物にすればどうやっても入れないでしょうに。


「なんで壁の上に屋根がないって分かるっすか? 閉じ込めるならどこからも入れないようにした方が良いっすよね?」


 ヨハンさんが私と同じ疑問を口にします。ヨハンさんと同じ発想をしてしまうとは、ちょっとショックです。


「我々エルフはこう見えても光明神トゥマリク様の加護を受ける木の妖精だから、定期的に太陽の光を浴びないといけないのだよ。黒エルフもそれは変わらない。それに、エルフはドワーフと違って石造りの建物を作るのは得意じゃないんだ」


 サフィールの解説。なるほど、人間も太陽の光を浴びないと具合が悪くなりますもんね。エルフはそれがもっと顕著なのでしょう。技術的に難しいというのも言われてみればそうですね。他の建物はみんな木製ですし。何はともあれ、コタロウさんのおかげで壁を乗り越えられました。


「ついに女王様とご対面っすね! 美人っすかね?」


 エルフの女王なんだし、美人なんじゃないですかね。そんなことを言っているヨハンさんをシトリンが白い目で見ています。まあヨハンさんは元からこんな感じですけどね。シトリンにとっては救いの手を差し伸べてくれた勇者様ですから、もうちょっと勇者っぽく振舞ってはいかがでしょうか。


「エルフはみんな美人だぬー」


 タヌキさん、このところ口数が少ないと思ったらそこに乗るんですか。アルベルさんの代わりなんかしなくてもいいんですよ?


「本当にここまで来れるなんて……あなた方はジュエリアの恩人だ。この恩は決して忘れません」


「そういう話は女王様を助けて無事に帰ってからにしましょう」


 女王が捕まっていると思われる小屋を前にして早くも感謝の言葉を述べるサフィールを、ソフィアさんがたしなめます。そうですよ、もしかしたらこの小屋も罠だったりするかもしれませんし、女王を助けてもここからジュエリアまで無事に帰れるかは分かりませんからね。というか脱出が一番の難関です。


「まずは小屋の中を確認するすよ」


 無駄話をしている面々を尻目に、コタロウさんが小屋を探ります。罠がないかを調べて、中に敵がいないかを確認し……躊躇なくドアノブに手をかけて入り口を開けました。


 中を見ると、そこには椅子に座った状態で縛られているエルフがいます。見た目の年齢的にはサフィールとあまり変わりませんが、どことなく威厳を感じさせる顔立ちをしていますね。長い金髪に青い目は変わりませんが、なんというかキリッとしています。


「アレキサンドラ様!」


「サフィール、シトリン。よくここまで来られましたね。ハイネシアン帝国が攻めてくる前に出られるとは思っていませんでした」


 ずいぶんゆったりとした喋り方をしますね。余裕がありそうですし、拷問されたりはなさそうです。ところでなんだか気になることを言っていますが、ハイネシアン帝国がこんなところまで攻めてくるんですか?


「ハイネシアン帝国? 何かあるっすか?」


「あの帝国はすぐ軍隊を出すぬー。タヌキの森も危ないぬー」


 そういえばそんなことを言ってましたね。ヨハンさんとタヌキさんが一気に話しかけてもアレキサンドラは動じた様子もなく質問に答えます。


「近々、かの国がここまで侵攻を始めます。ヴァレリッツが私を捕縛したのも、交渉材料にして戦争を回避する目的でした。私を貢物として差し出し、命乞いをするつもりだったのです」


「徹底抗戦する気はないのか。プライドの欠片もない連中だ!」


 アレキサンドラの話にサフィールが憤慨しますが、現実的に考えてハイネシアン帝国相手にこの程度の国が対抗できるとは思えません。本当に狂犬のような国ですね、あそこは。皇帝のバルバロッサは何を考えているのでしょう?


「エルフの女王様は遠くのものが見えるんすよね? ここから安全に脱出する経路は分からないすか?」


 コタロウさんは女王様相手でも普通の喋り方ですが、普段からちょっとズレているのでどういうつもりなのかちょっと分かりませんね。


「そうですね……ある程度は分かりますが、道具がないと完全には分かりません。いくらか危険を回避することは可能だと思います」


 それは便利そうですね。私は冒険者管理板がないと分からないので、ちょっと彼女の遠隔魔法が気になります。


「ところで、黒騎士さんとモンスターが暴れているのは放っておいてもいいのですか?」


 そんなことも分かるんですね。黒騎士は放っておいていいですよ。


「アルベルなら私達の脱出を察知すれば自力で戻ってきますよ。あれでも帝国護衛兵ですから」


 ソフィアさんが自信満々に言いました。愛想をつかして見捨てたんじゃなかったんですね。すごい信頼です。


「よーし、急いで帰るっすよ!」


 ヨハンさんが元気よく腕を振り上げると、みんなが頷いて応えるのでした。さて、無事に帰れるのでしょうか?

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