「どこから脱出しましょうか?」
盛り上がったところに、ソフィアさんが冷静な口調で問いかけました。脱出のプランは特に話していなかったと思いますが、誰か考えているのでしょうか?
「また壁を越えて出たらいいんじゃないっすか?」
ヨハンさんは簡単に言いますが、それはどうでしょう。アレキサンドラ女王が否定しました。
「壁の向こう側には黒エルフが集まってきている気配を感じます。今壁の上に登れば彼女達の矢の的になるでしょう」
アルベルさんがどうなったのかは分かりませんが、黒エルフ達は中に戻ってきているようです。
「なら取るべき道は一つすね。ここから外に繋がる通路を正面突破しましょう」
コタロウさんが迷いなく言います。忍者の発想的には堂々と道を通る方が上手くいく可能性が高いという判断なのでしょう。他に取るべき選択肢もないので全員が同意しました。
「こちらから地下道に入ります。中は一本道で向こうの出入り口に見張りがいるはずです。確かめたことはないのでどれだけの戦力が待ち構えているかは分かりません」
「大丈夫です! 力づくで突破するなら最高の切り札がありますから!」
自信満々に言うシトリンですが、その切り札って私ですよね? あまり気軽に頼られても困りますよ。この任務を失敗させる気はないですけど、普通の依頼で助けに行くと思ったら大間違いですからね?
って、この子は冒険者ではなかったですね。なんかもうヨハンさんとセットの冒険者みたいな感覚になってました。
「では、先頭にコタロウくん、その次に俺とヨハンくんで行くぬー。ソフィアさんはその後ろで、女王様はエルフ達が守るぬー」
タヌキさんが隊列を決めます。罠や鍵外しでは盗賊系の冒険者が欠かせませんから、コタロウさんの位置はいつもここですね。
「もちろん陛下の身を守るのは我々の務めだ。あなた方は後ろを気にせず戦ってくれ」
サフィールが胸を張って言うと、シトリンが何となく不安そうな顔をしています。大丈夫でしょうか?
「じゃあ今度こそ行くっす!」
張り切るヨハンさんの号令で、タヌキさんの決めた隊列順に地下へと進んでいくのでした。
――で、特に何もなく出口です。まあ、通路に罠とか仕掛けたら自分達が通るのに邪魔ですからね。出口を見張っていれば十分ですし。
「女王様、この先に黒エルフの気配はするすか?」
扉を開ける前に、コタロウさんがアレキサンドラに聞きます。慎重ですね。
「いますね。それにこの気配……向こうの女王が待ち構えているようです」
黒エルフの女王ですか。そんなのが戦闘が起こりそうな場所にいていいんですかね? 冒険者やってる皇帝陛下もいますけど。
「話し合いをするため……ってわけじゃないですよね。黒エルフの女王は武闘派なんですか?」
ソフィアさんがアレキサンドラに尋ねます。
「そんなに武勇に秀でているわけではありませんが、自分で武器を持って戦う人物ですね」
ふむ。単に侮っているのか、それとも何か他の目的があるのでしょうか?
「なるほど、では召喚札を」
コタロウさんが躊躇なく手を伸ばし、召喚札をソフィアさんに要求しました。判断が早いですね。今が『使いどころ』だと考えたのでしょう。
◇◆◇
「恋茄子さん、お留守番をお願いします」
「は~い、いってらっしゃ~い」
私は出撃の準備をして、札が使われるのを待ちます。
◇◆◇
「お姉さまを呼ぶのね!」
シトリンが目を輝かせます。その呼び方何とかなりません?
「さっき話していたギルドマスター殿ですか。フォンデール王国の賢者エスカ・ゴッドリープと言えば大陸中に名が轟く最強の魔術師、一度会ってみたいと思っていました」
えっ、なんですかそれ。噂に尾ひれがつきまくってひれしかないような状態になってません?
とか言っているうちにコタロウさんが札を開いて合図しました。なんか気まずいんですけど!
「えー、初めまして。冒険者ギルドのギルドマスターをしております、エスカ・ゴッドリープです」
私は現場に転移すると、初対面の二人に自己紹介をしました。
「この扉の先に黒エルフの女王がいるようなので、説得か鎮圧をお願いします」
コタロウさん!?
淡々と要求を述べる忍者に促され、エルフ達と話をする間もなく開けられた扉の向こうへと歩き出しました。
「ふん、待っておったぞジュエリアの……って、誰じゃお主!?」
扉の向こうには、武装した十名ほどの黒エルフを引き連れて、一人の……ええと、これは何というか。
見た目は人間の十歳ぐらいでしょうか。黒エルフであることを示す黒い肌と銀色の髪に、黒エルフだからなのでしょうか、外見年齢のわりにちょっと目立つふくらみが二つ。なんでしょう、凄く腹が立ちますね?
そんな幼い少女が、自分の身体よりも大きい戦斧を担いでふんぞり返っていました。
「あなたが黒エルフの女王ですか? 私はエスカ・ゴッドリープ。冒険者ギルドのギルドマスターをしています。早速ですが、なぜジュエリアを攻めてアレキサンドラ女王を拉致したのですか?」
まあ、知ってますけどね。とりあえず会話の糸口をつかむために聞いてみます。
「なっ、お主があの魔術王エスカ・ゴッドリープじゃと!?」
なんですかその初めて聞く二つ名。一体噂の私はどんなバケモノになっているのでしょうか?