「なぜフォンデール王国の宮廷魔術師がエルフの国の争いに首を突っ込むのじゃ! どうせ森を焼き切り拓いて人間の領土にするつもりのくせに、ジュエリアに恩を売って善人気取りか」
黒エルフの女王は至極まっとうな批判をしてきました。それを言われると痛いところなのですが、成り行き上仕方ないんですよ。あと森を焼いてるのはただのノーコン魔術師ですからね、別に焼こうと思って焼いてるわけじゃないですから……って、今エルフの森焼いてるんですか? あっちの様子全然見てないから不安になってきました。
「フォンデール王国としてではなく、冒険者ギルドに出された依頼で来ているのです。私はギルドマスターですから」
とりあえず国家が介入しているわけではないと伝えておきましょう。どちらかというと後ろにいるソフィアさんの方が立場的に問題ある気がしますけど。
すると女王は顎に手を当て、考えながら言葉を続けます。
「ふーむ、その冒険者ギルドが依頼を引き受ける条件は? ここでジュエリアより多額の報酬を約束すればお主はこちらの味方になるのかの?」
ふむ。この女王、見た目によらず頭が回るようですね。
「特に肩入れする理由がなければ早い者勝ちと言ったところでしょうか。傭兵と同じで信用問題がありますから、どんなにお金を積まれようと既に引き受けている依頼を反故にすることはありませんよ」
金次第で裏切るとなったら国や貴族達が安心して依頼できませんからね。そこはきっちりしないと。
「ところであなたはヴァレリッツの女王様ということでいいのでしょうか? お名前を聞いても?」
一応名前を聞いておきます。この国の置かれている状況から考えても、将来に渡って敵対し続ける必要はなさそうですし。
「そうじゃった、名乗っておらんかったの。儂はこのヴァレリッツの女王トリウムじゃ。改めて聞くが、そこにいるアレキサンドラをこちらに渡す気はないということじゃな?」
戦斧を握る手に力が入るのが
「お待ちください、トリウム様」
そこに、トリウムの横にいた大柄な黒エルフが口を挟みました。こちらは典型的な黒エルフと言った感じで、ボンキュッボンですね。これ以上詳しく説明したくはありません。
「なんじゃ、アンチモン。説得が無理なら戦うほかなかろう」
ですよね。
「ですが、魔王エスカ・ゴッドリープにたったこれだけの兵で戦いを挑むのは自殺行為です」
なんか文字数が減ってるんですけどー!?
「魔術王じゃ」
「どちらでも構いません。現在大陸で唯一と言われる
アンチモンと呼ばれた黒エルフは女王を説得しつつ、最後は私に向けて確認の言葉を投げかけてきました。支配魔術のことも知っているんですか。あれは世間で思われているほど強力な魔術ではないのですが、誤解させていた方が得かもしれませんね。
「ええ、そうですね。なので、彼女を連れて帰るところまでは私が責任を持ちますよ」
その後のことまで面倒を見る義理はありませんからね。アンチモンの言う通り、黒エルフが改めてジュエリアを攻めてもギルドの冒険者が防衛にあたるということはないでしょう。まあ、攻めてくると分かっているところに女王が大人しくとどまっているわけもないのですけど。
なんにせよ、ここでの戦闘は私も望みません。
「お姉さま、支配魔術って何ですか?」
「なんか凄そうな名前っす!」
話がまとまりそうなところに、面倒なのがやってきました。我慢できずに前に出てきたシトリンは目を輝かせて質問してくるし、ヨハンさんは支配魔術という名前の響きが気に入ったようです。
「むっ、エルフ! お姉さまとはどういうことじゃ、ただの依頼関係ではなく、ふ、深い関係になっておるのか」
なんですか深い関係って。ていうかなにもじもじしてるんですか変な想像しないでください。
「いえ、この人が勝手にそう言っているだけです。というか私の方が絶対に年下ですよね」
この際なのでずっと気になっていたことを抗議しますが、シトリンに通じるわけもなく。
「お姉さま、こんな奴等吹っ飛ばしちゃいましょうよ! いきなり襲ってきたような連中と話し合いなんて無駄です!」
あなたもいきなり襲い掛かってきましたよね?
「ほら、こやつの言葉など信用できん。戦い以外の選択肢などないのじゃ! 弓隊、撃て!」
あああ、トリウムが変な勘違いから完全に戦闘モードに入っちゃったじゃないですか! アンチモンも含めて他の黒エルフ達が弓を引き絞り、矢を放ってきました。
「あーもう、『ダイアモンド・ウォール』!」
硬質化した空気の壁を出現させ、飛来する矢の数々を弾き返します。こうなったらもう戦うしかないですね。
「なんという術展開の速さ……なるほどな」
サフィールが何やら感心していますが、完全に傍観者モードですね? 他の皆さんも一切手を出す気がなさそうです。私が一人で黒エルフを蹴散らすと信じて疑わないのでしょう。
はあ、もうあの召喚札は禁止にしましょうかね……?
「いくぞ、魔王!」
トリウムが斧を振りかぶって駆け寄ってきます。あなたさっき訂正してませんでしたか!?