「ボク達はこう見えて実力主義なんだ。仲間の中で一番強い奴がリーダーになるんだよ」
サラディンさんを案内しながら、ラウと名乗ったイヌの獣人が言いました。この子達もトウテツのように強い相手に従う習性があるんですね。サラディンさんがリーダーにされたりして。
イヌ族のリーダーはすぐ近くにいました。ラウさんに連れられていったサラディンさんを見るなり、尻尾を振って駆け寄ってきてものすごい勢いで手を舐め始めたのでリーダーと分かるまでに数分かかりましたが。
「ラウから聞いてるだろ? 俺達は匂いで何でもわかるんだ。最高の出会いにちょっと興奮しすぎてしまったよ」
やっと落ち着いたらしくキリッとした表情で話すイヌのリーダーはすらりと伸びた鼻先が特徴的な灰色の毛皮の美形イヌなのですが……先ほどの姿が頭から離れません。やっぱりイヌはイヌですね。
「私達はハイネシアン帝国で奴隷にされているウサギ族を助けに行くところなんだ。君達のその能力で手助けをしてもらえないだろうか」
サラディンさんは平然として要求を伝えます。さすが。
「いいよ、ラウ行ってくれる?」
「いいの!? やったー!」
あっさりと話がまとまり、ラウさんが同行することになりました。相手の性質まで匂いで分かってしまうとなると、話が早くなるのは当然といえるでしょう。ところでリーダーの名前は?
「あ、俺はグレイっていうんだ。ハイネシアン帝国はこっちにも領土を広げようとしているし、南の人間達と協力できるとこちらとしてもありがたい」
灰色だからグレイですね。古代バルトーク語を使ってそれっぽくしてるけど、はっきり言って安直ですね。分かりやすいのはいいことですけど。ハイネシアン帝国の出方によっては長い付き合いになりそうです。
頼りになる仲間が加わったのはいいのですが、勇者様達は使い物になるのでしょうか? とても心配です。
「ボクは縄張りから出るの初めてなんだ!」
元の場所に帰る道すがら、手にした
「君は戦闘面ではどんなことができる?」
「ボクは魔法は使えないし力も強くないけど、動きの早さは仲間の中でも一番だよ!」
なるほど。だいたい見た目通りの能力ですね。獣人は種族の元になる動物と近い能力を持つので、体力はありそうです。
「そうか。私は見ての通り剣で戦う戦士だ。コウメイは素手で岩を砕く怪力の持ち主なので我々二人の後ろに隠れるように戦うといい」
コウメイさんが戦っているところはあまり見ないのですが、相当な怪力の持ち主なんですよね。どういう鍛え方をしているのでしょうか?
「すごいなー、ボクも力が強くなりたい」
「何事も向き不向きというものがある。君には我々が真似できない特技があるのだから、そちらで助けてくれ」
ムキムキなイヌというのもちょっと怖いですしね。動物の犬はけっこう筋力があるから、イヌ族もたぶん鍛えればムキムキになるのでしょうけど。というかムキムキなワンコも世の中にはいるそうですけど。
そんな話をしながら元の場所に戻っていくと、そこには満足したのかモンスターについて語るコウメイさんとそれをキラキラした目で聞いているイヌ族数人。女性陣は離れたところで相変わらずモフモフを堪能しています。この人達はここに置いていってもいいのではないでしょうか。
「このラウ君が一緒に来てくれることになった」
「よろしくね!」
そんな仲間達に新たな仲間を紹介するサラディンさん。すると全員が嬉しそうに反応しました。
「おお、イヌ族の嗅覚は実に素晴らしいですからね。頼りにしてますよ!」
頼りにするのはいいですが、捕まえて研究しないでくださいね。モンスターじゃないから大丈夫なのかもしれませんが。
「モフモフ!!」
レナさんの語彙力が戻りませんね。これはずっと戻らないかもしれませんね。
「話をつけてきたの? さすがサラディンは頼りになるわね!」
ミラさんもサブマスターなんですからもうちょっとしっかりしてくれませんかね。あとその抱えているイヌさんを離してあげてください。
「ああ、これは間違いなく神の思し召しですね!」
暗黒神ですけどね。そういえば匂いで危険な相手が分かるイヌ族が普通になついていますね。人を騙すような方ではないのは私も分かっていますけど、暗黒神を信奉していることはイヌ族にとっては減点対象にはならないようです。気にしているのは人間とエルフだけだったりして……。
そんなこんなで、一行は名残惜しそうにイヌ族のテリトリーを出発するのでした。ウサギのことも心配してあげてください。
「とうとうハイネシアン帝国に入るのね~」
「そうですね。とにかく評判が良くない国ですが、一応フォンデールと国交もあるのでエルフの森ほど危険ではないでしょう」
「だといいけどね~」
恋茄子が不吉なことを言っていますが、ハイネシアン帝国は一応外交も行う国なので旅人をいきなり攻撃してきたりはしないでしょう。たぶん。