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闇エルフの国

 ヨハンさん達はアレキサンドラ女王をジュエリアに送り届けようと、ヴァレリッツを脱出しました。


 黒エルフは撤退したようで、すぐにトウテツとアルベルさんが合流してきます。ここまでは何の問題もありませんね。なぜ別れたのでしょう?


 一行が南に向かって歩き始めると、すぐにヨハンさんが口を開きました。


「うーん、なんか変な匂いがするっす!」


 おっと、ヨハンさんの鼻が何かを察知したようです。


『おい、この辺りはヤツのテリトリーだ。気を付けろよ』


 ヤツ? トウテツがその辺を探りだしたヨハンさんに警告をしています。何がいるのでしょう?


「ヤツってなんすか?」


 コタロウさんがトウテツに聞きます。気になりますね。


『カーバンクルだよ』


!?


 カーバンクルと言えば、捕まえた人は大金持ちになれるという伝説の獣じゃないですか!


 人間に危害を加えた記録がなく、むしろ懐かれて巨万の富を手にした人物の伝説だけが残っているのでモンスター扱いはされていません。


 当然、その場にいる冒険者達も目の色を変えました。


「カーバンクルがいるぬー? 仲良くできるかぬー?」


 真っ先に反応したのがタヌキさんです。儲け話には食いつきがすごいちゃっかりさん。


『懐かれれば大金持ちだが、ヤツが誰かに気を許したのを見たことがねえ。気に入らない相手には幻を見せて追い払うんだ』


 なるほど……見えてきました。カーバンクルの幻ではぐれたんですね。ということは伝説の獣に出会えたということでしょう。期待が膨らみます!


◇◆◇


「目にお金のマークが浮かんでるわよ~」


「なっ!? ち、違いますよ。あくまで伝説の生き物を見てみたいという知的好奇心が……」


「うふふ~」


 恋茄子はニヤニヤしながら踊っています。ぐぬぬ……。


◇◆◇


「こっちっす!」


「あ、待ってー」


 ヨハンさんが走りだしました。シトリンがすぐに着いていき、タヌキさんとコタロウさんも後に続きます。ソフィアさんとアルベルさんはお金に興味がないのか、残りのエルフ達と一緒にその場にとどまりました。なるほどー。


「気をつけてくださいねー」


 ソフィアさんがのんびりと手を振って見送りました。


「トウテツ、あっちの面倒を見てやってくれないか?」


 アルベルさんが、呆れたようにため息をついているトウテツにお願いします。カーバンクルのことを知っているのは彼だけですもんね。


『しょうがねえな。お前らは先にエルフの国に向かってな。たぶん当分帰ってこれない』


 あら、もう先の展開が分かっているみたいですね。だからアルベルさん達は別れてジュエリアに向かったんですか。事情がすぐに分かってよかったです。


 あとは、ヨハンさん達がここからどこに向かったのか見てみましょうね。カーバンクルも見ておきたいですし。


 しばらくすると、ヨハンさん達の前に一匹の獣が現れました。白い狐のような姿で、額に赤い宝石がついています。あら可愛い。


「カーバンクルっす!」


 さすがにヨハンさんでも一目でわかるほど、どこからどう見てもカーバンクルです。さてどうなるのか……?


「きゅーん!」


 カーバンクルが可愛い鳴き声を上げました。うーん、これは確かにモンスター扱いにはならなさそうですね。


 さて、私がところ、これでヨハンさん達は幻覚症状に陥ったようです。


『ああ、言わんこっちゃない』


「うおおおお、待つっすー!」


「すばしっこいすね」


「追いかけるぬー」


「あーん、足速ーい!」


 ヨハンさん達があらぬ方向に走りだしました。カーバンクルの優しさか全員同じ幻を見ているらしく、同じ方向に走っていきます。


『やれやれ、しょうがねえな。またなカー公』


「きゅーん!」


 トウテツがカーバンクルに挨拶をしてヨハンさん達を追いかけました。普通に仲良しさんですか? 後で紹介して貰いましょうかねー。


◇◆◇


「悪い顔してる~」


「ちょっとお願いするだけですよ!」


 そうです、決してトウテツを脅して紹介させようなんて思ってないですよ?


◇◆◇


 さて、ヨハンさん達はまっすぐに北に向かっています。この先には……?


『おーい、このままだと闇エルフの領地に入るぞ!』


 なんと! 闇エルフの国、フローラリアに近づいているようです。これは奇遇ですねえ。


「闇エルフの国? 危ないんすか?」


 お、コタロウさんが早くも正気に戻ったのか、トウテツに返事をします。忍者は幻覚にも強いのでしょうか?


『危なくはないな。むしろそのエルフっが攻撃しないか心配だ』


 あー……エルフと闇エルフは仲が良くないそうですからね。


「闇エルフですって!?」


 そのシトリンが反応しました。どうやら皆さん幻覚が解けた様子ですが、トウテツの話に興味を示しています。


「黒エルフとは違うっすか?」


「見たことないぬー」


 そんな話をしていると、近くの茂みがガサガサと音を立てます。一斉にそちらを向き、武器を構えました。


「どちらさまですか? ハイネシアン帝国の人ではなさそうだけど」


 茂みから出てきたのは、人間の背丈より少し小さいぐらいの、ウサギでした。なんだか派手な服を着込んでいます。これは間違いなく、噂のモフモフさんですね。


「ウサギが喋ったっす!?」


「きゃー可愛いっ!」


「ウサギ族だぬー」


「どうやって服を着てるんすかね?」


『ああ、闇エルフとウサギは一緒に暮らしているんだよ』


 ふむ、面白い縁が生まれそうですね。ヨハンさん達は武器をしまいました。このまま闇エルフの国に招かれていきそうですね。


 これは、カーバンクルのおかげで幸運が舞い込んできたのかもしれません。

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