フローラリアは想像よりもずっと都会でした。
エルフの国ってなんか森の中に集落的なものを作ってるイメージを持っていたんですけど、実際黒エルフの国はそんな感じだったし見てないけどジュエリアも似たようなものだと言っていましたし。
ですが、闇エルフの国は違いました。道は舗装されていて馬車でも楽々走れそうです。たぶんアーデン(フォンデール王国の首都。冒険者ギルドがある場所)よりも道が整備されています。その両脇には
そして道行く人々は真っ黒な服を着た闇エルフと、カラフルでひらひらとした装飾が大量にあしらわれた華やかな服を着たウサギ族です。色合いが違いすぎて目が慣れません。
「闇エルフは暗黒神を信奉してるから黒い服を着てるんすよね? ウサギも暗黒神を信奉してるのに、なんでそんなに派手な服を着てるんすか?」
コタロウさんがメルちゃんに尋ねました。神官戦士って言ってましたもんね。
「司祭様によると、趣味だそうよ」
まあ、アルストロメリアさんを見れば分かりますけど。いいんですかそれで?
「趣味なら仕方ないっすね!」
ヨハンさんは趣味で勇者にこだわってますからね。
「神様が怒らなければいいんじゃない?」
お、シトリンが至極まっとうなことを言っています。確かに聖職者が何のために決まった服装をしているかと考えたら、神様が認めていればどんな服装でも構わないはずですね。それに闇エルフの司祭はエレシュマから直接言葉を受け取っているようですし。
ところで闇エルフを見ても特に反応がないですね。どうでもよくなったのでしょうか? 道行く闇エルフもシトリンのことを気にした様子はなさそうです。まあ黒エルフと違って服装以外は同じエルフ同士ですし。
「それで、お願いってなんだぬー?」
道を歩きながらタヌキさんが用件を聞きます。どうやら目的地は町の中心部にある神殿のようで、暗黒神の神殿に入る前に聞いておこうとしているみたいですね。場合によってはそのまま逃げだそうと思っているのでしょう。さすがのしっかり者。
「実は、私達の仲間がハイネシアン帝国から来る奴隷商人に騙されて連れていかれたの。司祭のアルストロメリア様がエレシュマ様から人間の勇者に助けを求めるように言われたらしくて、一人で人間の国を目指して旅立ってしまって」
そして今はイヌに抱きついてモフモフしてます。
「その仲間を助けに行くってことっすね! 勇者の仕事っす!」
当然のようにヨハンさんがやる気満々です。道路上なので周りを歩いていた人々から注目を浴びています……って、闇エルフの皆さんの期待に満ちた目はまさか!
「あなたが噂の勇者様ですか!?」
違います。
『有名人じゃねえか。モンスターのうろつく森の中でエルフとイチャイチャしてるだけあるな』
それ根に持ってたんですね。寂しい独り身なんですか? 他に仲間もいなそうでしたし。ニヤニヤしながら言っているところを見ると、勘違いされているってことは分かっているようですね。
「そういえば隣のエルフは『闇の安息』の服を着ていないわ! 勇者と一緒にこの国まで助けに来てくれるなんて、優しい子もいるのね!」
反応が無いと思ったら気にもされていなかった様子。ウサギの派手派手服が沢山あるから服装の違いになかなか気付けないのかもしれません。
「えっ、いやー私もヨハンに助けられたから……」
なにやら照れた様子で自分がヨハンさんに助けを求めた経緯を語るシトリン。闇エルフやウサギ達の彼を見る目に熱がこもります。どうなっても知りませんよ?
「今日はなんて素敵な日なのでしょう! 女王様にもお伝えしなくては!」
そして闇エルフの一人が走っていきました。あーあ。
「女王様ってどんな方ですか?」
コタロウさんがちょっとだけかしこまった態度で他の闇エルフに尋ねます。どんなエルフでしょうね? アルストロメリアさんが女王様のように感じていましたが、あくまで司祭ですからね。
「『闇の安息』の法王も務められているお方です。とってもお優しいんですよ」
ほほう、それはそれは……。
「なんて名前っすか?」
「プロテア様といいます」
プロテア……なんか聞いたことがあります。宮廷魔術師をしていた頃に宮廷で話題に上がっていたような。
『相当な長生きだぜ。千年ぐらい生きてるんじゃねえかな』
エルフは長命ですからね。女王となればそんなものですよね。黒エルフの女王がおかしいだけで。
◇◆◇
「千年も生きていたら魔族との戦争に参加していたんじゃない~?」
「そうなんですか? というか、魔族と戦争!?」
恋茄子がまた謎の知識を披露します。魔族という種族自体が我々にとっては伝説の存在なんですけど、戦争とかしていた過去があるんですね。この子も何年生きているのでしょう。人の形をしているから少なくとも百年以上は生きているはずですが。
◇◆◇
「それじゃあ、改めて神殿に向かいましょ」
メルちゃんが案内して、一行は神殿にいるという女王プロテアに会いに行くのでした。