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争いは更なる争いを呼ぶ

レジスタンス

『レジスタンスに協力の依頼をしてください』


 私は、ヨハンさん達にアルストロメリアさんからの伝言を伝えました。


「レジスタンスっすか! 悪の帝国と戦う勇者もいいっすね!」


 言うほど悪の帝国ではないのですが……いや、外から見てハイネシアン帝国の行いは悪と言われても仕方ないですけど。エルフの森を開拓しているフォンデール王国も大して変わらないですよ?


『ヨハンさん達はレジスタンスに用件を伝えたらそこから離れてサラディンさん達と合流してください。あくまで我々の目的は奴隷として連れていかれたウサギ族の救出ですからね』


 本当はギルドが暗躍していることをハイネシアン帝国に悟られないためなのですが、ヨハンさんにはこう言っておいた方がいいでしょう。


「……なるほど。陽動作戦ならなるべく派手に暴れてもらった方がいいすね」


 コタロウさんが何やら思案しています。何かいい案があるのでしたら提案しちゃってください。黒エルフの時も上手くいきましたし。


「ハイネシアン帝国の奴隷は待遇が悪いそうだからぬー、遠慮しないでいいと思うぬー」


 タヌキさんはけっこう乗り気なんですね。ギルドにやって来た経緯を考えても、獣人としてハイネシアン帝国にはいい感情を持っていないのは明らかですしね。コタロウさんもそうですけど、合理的な思考の方達はこの作戦に前向きなんですね。やっぱり私は甘いのかなあ。


「ハイネシアン帝国のせいで黒エルフがジュエリアを襲ったんだもんね。混乱すればいい気味だわ」


 シトリンもまあ、自分の国を侵略されたわけですからね。間接的にですが、ハイネシアン帝国には恨みがありますよね。


『クックック、魔族や闇の軍勢が森で活動してるってのに人間同士で争って、呑気なもんだぜ』


 魔族? トウテツの言葉で思い出しましたが、魔族がソフィーナ帝国の方で暗躍していましたよね。今はどうしているのでしょう?


 何となく不吉な考えがよぎりましたが、まずは目の前にある問題を解決しましょう。


「この先がレジスタンスの潜伏しているエリアすね。マスターに聞いた方法で連絡を取ってみましょう」


 コタロウさんがレジスタンスを呼び出す合図を始めました。アルストロメリアさんに聞いた方法ですけどね。まず適当な棒で三回地面を叩き、その次に塀を四回叩いた後で二回手を叩いてから「今夜は肉」と言います。なんで肉なんですかね?


「今夜は肉!」


「そうなの?」


 コタロウさんの合言葉に反応するシトリン。私の話を聞いていませんでしたね?


「……通れ」


 すると、壁の裏から赤髪の人達が現れてヨハンさん達を案内します。髪の色から考えて、ハイネシアン人のようですね。レジスタンスはハイネシアン帝国に攻め滅ぼされた国々の残党が集まった組織のはずですが、自国民の中でも不満が高まっているということでしょうか。


「レジスタンスの人達っすか? ハイネシアン帝国に捕まったお仲間を助ける計画があるそうっす」


 ヨハンさん!? こんな面倒くさい手順で連絡している理由を考えてもらえませんかねえ!


「……話はこの先で聞く」


 どうやらレジスタンスの人に攻撃されたりはしないようです。いきなり斬りつけられたらどうするつもりですか。何も考えていないんでしょうけど。


 しばらく複雑な道を進んだ後、ヨハンさん達の前に一人の獣人が立っていました。これは……ブタ? 二本足で立つブタがいます。かなりの巨体です。


「よく来たブゥー! 斥候からお前達のことは聞いてるブゥー!」


「ブ、ブタ!?」


 シトリンが驚きの声を上げます。確かエルフとオークは仲が悪いと聞きましたが、ブタの獣人とはどうなのでしょう?


「オークっすか?」


 人間の感覚だと、ブタの獣人とオークは同じようなものに思えるのですが、タヌキさんの説明ではまったく違う種族だそうです。


「オークではないブゥー、ブタのカリオストロだブゥー!」


 なんですかその名前。こう言ってはなんですが、似合わな……おっと失礼なことを言うのはやめておきましょう。


「エルフにとっては木を伐るからブタにもあまりいい印象はないのよ、今はそんなことを言ってる場合じゃないけど。それ以上に、ここにブタ族がいるのが不思議。テリトリーは大陸の東でしょ?」


 なるほど、ブタ族は木を伐って木材輸出で生計を立てているわけですか。それはエルフと仲良くなれそうもありませんねえ。


「ブフフ、よく知っているブゥー。ブーはここにあったバルモア国にお世話になっていたんだブゥー。それがハイネシアン帝国に滅ぼされてから、レジスタンスを結成して対抗しているんだブゥー」


 もしかしてブゥーは語尾でブーは一人称ですか? 真面目な話をしているのに、緊張感が薄れてしまいますね。


「ああ、肉ってそういうことすね」


 コタロウさんが何だか話と関係ないところに関心しています。こんな調子で大丈夫ですかね?


『それで、カリオストロさんよ、こいつらはアンタらに暴れてもらってる混乱に乗じてお仲間を助け出そうってハラだ。そこんとこどうなんだい?』


 なぜかトウテツが話を始めました。もどかしくなったのでしょうか? その気持ち、よく分かります。


「ケストブルグに捕まっている仲間を助け出してくれるというなら、ブーも作戦には賛成だブゥー」


 話が早いですね。組織のリーダーになる人は、そういう決断も早いということですか……。


「それなら、これを使うといいすよ」


 そしてコタロウさんが提案しました。さっき思案していたやつですね。なんでしょう、黒くて丸いものが懐から出てきました。


「これは金剛砂こんごうしゃと火薬を混ぜた破裂玉す。地面に叩きつけると大きな音を出すから大騒ぎするのにもってこいすよ」


 ほほう、忍者の道具でしょうか。音が出るだけなら派手な上に被害も少なくてありがたいですね。


……ん? もしかしてコタロウさん、私の心を見透かしてます?


「面白そうっすね!」


「便利そうだブゥー」


 ヨハンさんに交渉ができるが不安でしたが、カリオストロさんの心の広さに救われたようです。

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