目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

奴隷商人ニャマンタバ

 潜入経路は皆さんが何度も繰り返しチェックしていたので迷うこともありません。ここにきてレナさんがキリッとした顔で足取りも軽く進んでいきます。たぶんウサギをモフるのが目的です。


「ここの主は奴隷商人のニャマンタバという男だ。奴隷を売るのではなく貸し出して労働の対価を自分が受け取り、奴隷には食料等を与えている。奴隷は外に出る時には魔法の首輪をはめられ、決まった場所から離れると首が絞められるという仕組みだ」


「酷いことしますね」


 サラディンさんが調査結果を説明すると、相槌を打つアルストロメリアさん。あなたも大概ですが。


「だが、中にはその境遇に満足している奴隷もいる。食うのに困らないし、逆らわなければ無意味な迫害は受けないからだ」


 なるほど、確かに奴隷はあくまでも労働力ですからね。意味もなく迫害して死なせたりしたら儲けが減りますし。


 そこがニャマンタバの悪どいところでもあるのかも知れません。奴隷から恨まれることもなく楽してお金が稼げるわけです。奴隷を提供した相手側にもきっと好評でしょう。奴隷の面倒を見なくて済むんですから。


 これが騙して連れてきた獣人達ではなかったら、我々も彼の行いを責める理由がないところです。


「じゃあ助けるのはうさちゃん達だけにしましょう。行くあてもない奴隷をただ解放しても余計なお世話ということになってしまうかも知れません」


 アルストロメリアさんはドライに言いました。賢明な判断だと言えます。面倒見れないのに『自由』なんて与えるのは、ただの自己満足で迷惑でしかないのです。


 そんな話をしながら、順調に管理施設の中まで入ってきました。奴隷達が入れられている場所はもうすぐそこです。


「クンクン、あそこから嫌な臭いがする」


 ラウさんが廊下の角を指差します。曲がった先に敵がいるのでしょう。でもそっちに行かないとウサギは助けられないんですよね。ここは戦闘ですかね?


「わかった、【アブラカダブラ】」


 と、相手も見ずにレナさんが妖術を使いました。いいんですかそれで。


「ぐおおおお、腹が痛えええ!」


 角の向こうから悲鳴が聞こえてきました。これは酷い。


「フフフ、こいつを使いましょう」


『オッパイ』


 コウメイさんがミミックを出します。何をするんでしょう?


「セレモニーの時に仕込んでおきました」


 えっ、まさか……?


 ミミックはすぐに人型を取り、ボサボサ頭の中年男性に変化しました。そう、皇帝バルバロッサです。


「ふむ、ニャマンタバは帝国臣民に貴重な労働力を提供してくれる大切な存在だ」


 なんか喋り始めました。コピーした相手の記憶を確認しているんですね。奴隷商人と面識があるか調べているようです。改めて目の当たりにすると、本当にとんでもないモンスターですね。


「よし、進むぞ」


 サラディンさんの合図で、奴隷解放チームは廊下を進みました。果たして曲がった先にいたのは……お腹を押さえて苦しむ武装した二人と、その間に立つ太っちょの男性。この太っちょがニャマンタバですね。いかにも奴隷商人っぽいです。


「やあ、ニャマンタバ君」


 バルバロッサに変化したミミックが話しかけます。ここは騙して戦闘回避ですか。悪くないですね。レナさんの幻覚は相手の判断力を低下させるのに役立ちます。


「こここ、皇帝陛下! なぜこのような場所に」


 驚いて直立の姿勢を取り、喋りだしたのは太っちょの向かって右側に立っていた精悍な男性です。なんか立派な剣を腰に差していますが、もしや国の騎士か何かでしょうか?


「実はな、ニャマンタバ君。こちらの闇エルフの方がウサギの獣人を迎えに来たと言うのだよ」


 ミミックはそのまま騎士っぽい男に話しかけます。えっ、こっちがニャマンタバなんですか!?


 その太っちょは誰!?


 何気にサラディンさん達の方から動揺の気配が伝わってきます。やっぱりみんなアレをニャマンタバだと思っていたようですね。もしかしたらそういう罠だったのかも知れません。


「そうでしたか、ですが彼等は自ら働きに来たのですよ、お嬢さん」


 ニャマンタバがアルストロメリアさんに正当性を主張します。騙して連れてきたのだから、ウサギが自分で来た形になるのは当然でしょう。


「ええ、ですからこちらも無料ただで連れ帰るつもりはありませんよ。お金を払って奴隷を買い取るなら、問題はないでしょう?」


 ほうほう。アルストロメリアさんがそう言って、ウサギさん達のところまで案内するよう交渉しました。腹痛で判断力の鈍ったニャマンタバはあっさりと応じ、奴隷達が閉じ込められている部屋を開けました。


「ああっ、うさちゃん達!」


「あっ、お姉ちゃんだ!」


 ウサギの獣人が数人出てきました。二本足で立つ、人間大のウサギです。なんとも可愛らしい服を着ていますね。奴隷のイメージとかけはなれていますが、物好きな貴族が喜んで雇うのかも。


「間違いありません、これで全員です」


 ウサギ達を確認し、アルストロメリアさんがそう言った瞬間、サラディンさんが剣を翻しました。


 不意をつかれたニャマンタバともう二人は、なす術もなくその場に倒れます。


「殺しちゃったの?」


「いや、気絶させただけだ。残された奴隷の面倒を見てもらわないと困るからな」


 ラウさんの質問に淡々と答えるサラディンさんの横で、アルストロメリアさんがウサギ達を抱きしめています。ついでにレナさんもくっついています。


「再会を喜ぶのは後にして、早くここを脱出しましょう。上手く逃げ出せて初めて任務成功ですからね」


 珍しくコウメイさんがたしなめます。ウサギはモンスターじゃないから冷静なのでしょうか。


 何はともあれ、我々の目的はついに達成されたのです。やっぱり争乱を起こす必要はなかったような気がするんですけど、逃げることまで考えたら仕方ないのでしょうか。なんかモヤモヤします。


 サラディンさん達はウサギを連れて奴隷の管理施設から脱出するのでした。捕虜の方はどうなっているのでしょう?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?