目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

情報屋はじめました。

 モミアーゲさんはマリーモさんの追及にもどこ吹く風といった様子で、ソフィアさんに話しかけます。


「最近庶民の間で、こんな噂が広まっているんですよねぇ。『宰相閣下が皇帝陛下の失脚を目論んでいる』と。まぁ庶民は陰謀論が大好きですからねぇ」


「それはつまり、噂が真実ではないということですか?」


 モミアーゲさんの胡散臭い話から、別の意味で胡散臭さを感じ取ったアルベルさんが質問します。ちなみにマリーモさんは別のテーブルに行って飲み物を頼んでいます。別にサボっているわけではなく、そこのテーブルに座っている冒険者風の男性にお酒をおごって情報を聞き出そうとしているようです。手慣れてますね。


「まず宰相閣下はそんなことをする必要がないということはお二人ともよくご存知かと思いますが、まぁそれだけで疑いが晴れるわけではありませんねぇ」


 もったいぶってますね。マリーモさんといい、なぜそんなにもったいぶるんでしょうか。


「つまり、他の何者かがムートンに工作を仕掛けた証拠があるということでしょうか」


 ソフィアさんがもう一歩踏み込んだ質問をします。そうですね、宰相のユダさんが悪さをした証拠がないというだけでは、疑いが消える理由にはなりません。真犯人が分かっていないとここまで自信ありげに話せませんからね。ラウさんは話についていけないようで、話している人達の顔を交互に見つめています。


「そうですねぇ、ある人物がムートンに向かうのを商人ギルドが把握しています。ここから先は有料ですが、どうします?」


 おっと、モミアーゲさんは情報も売り物にするようです。さっきからもったいつけていたのは催促していたんですね。察しが悪いとみてはっきり伝えるようにしたと。マリーモさんもあっちの男性にお酒をおごってましたし、無料ただで情報を得ようというのは考えが甘いってことでしょうね。


「もちろんお金ならいくらでも出しますわよ!」


 ソフィアさんは本当にいくらでも出しそうだから心配です。その人、高値をふっかけてきますよー。


「さすがですねぇ。では結論から申し上げますと、ムートンに皇帝陛下の情報を持ち込んだのは確かに宰相閣下の姿をした人物です。ですが、同じ時期に宰相閣下がこのクレルージュにいたことも商人ギルドは把握しています。つまり……」


「つまり?」


「宰相閣下の偽者ですねぇ。お二人には心当たりがおありではないですか?」


 ミミック!


 つまり、ここにきてまた魔族が悪さをしているということですか。メヌエットでしょうか?


 ところで情報料はいくらなのでしょう?


「カイラスの町に現れた我々の偽者と同じか……魔族の目的はなんだろうな?」


 腕を組み、思案するアルベルさんの横でモミアーゲさんがソフィアさんに向けて手を伸ばします。お金の催促ですね。


「情報料は100デントですよぉ」


「あら安い」


 安くないですよ! モミアーゲさんと関わっていると金銭感覚がおかしくなってしまいますね。ソフィアさんは元からおかしい気がしますが。


「こっちも噂を聞いてきたのよー」


 モミアーゲさんがお金を受け取ってその場を離れると、マリーモさんが戻ってきました。何度も命を救われているのにつれないですねー、だいたい財布が空っぽになりますけど。


「どんな噂だった?」


 さっきの話についていけなかったラウさんが目を輝かせて聞きます。面白い話が聞きたいようですね。


「夜になるとコソコソしながらエロイズム大聖堂に入っていく宰相の姿が目撃されているらしいのよー」


 大聖堂ですか……もしや魔族はエロイズムに信者を装って潜入している?


「エロイズムでしたら、私も所属していますわ。まずは昼に中を見学させてもらうのはいかがでしょう?」


「さんせー! ラウくんのお鼻でくまなく調べてもらうのよー」


「ボクが役に立てる?」


「ああ、ここでは一番頼りになる」


 というわけで偽宰相と思われる人物(本物の可能性も否定できませんが)が夜に出入りしているという大聖堂を昼のうちに調べておこうという方針に決まりました。ラウさんが尻尾をブンブンさせています。


「気を付けていってらっしゃい」


 支部長のヘルミーナさんに見送られ、ソフィアさんパーティーは大聖堂に向かいました。


◇◆◇


 さて、ハイネシアン帝国で捕まっているコタロウさんの様子ですが、特に何もされていないようです。カリオストロが言っていたように、情報を聞き出すつもりは無さそうですね……っと、誰かが訪ねてきたようです。牢番の兵士がいきなり「異常なし!」と報告の声を上げました。


 そして入ってきたのは、あの何とも言えないボサボサ髪の男性。そう、バルバロッサです。


「やあ忍者くん。我々に協力する気になったかね?」


 どうやらバルバロッサは本当にコタロウさんをスカウトするつもりのようです。普通に考えて潜入していた諜報員が簡単に寝返ったりはしないのですが、世の中には服従の魔法なんてものも存在しますからね。私は使ったことないですけど、一応使い方は知っています。


「……」


「そうやって無言を貫くところが、そそるんだよね~」


 バルバロッサが口を堅く閉じたコタロウさんの顎に手を当てて、顔を自分に向けさせます。なんだか別の意味で危険な香りが……。


「まあいいさ、しばらくここでゆっくりしているといい。戦争の勝敗がついた後なら、君の考えも変わるだろう……義理立てする雇い主もいなくなるからな!」


 そう言いのこすと、バルバロッサは牢を出ていきました。一時は禁断の世界が広がるのかと期待……じゃなくって! バルバロッサは戦争に勝つ自信があるようです。あんな化け物みたいな将軍達を擁しているのだから当然ですが。


「これ以上、思い通りにはさせませんよ」


 思わず口に出して言ってしまいました。政治には関わりたくないと思っていたのに。


「♪~♪~」


 そんな私の後ろで、恋茄子は今日も歌い続けるのでした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?