ソフィアさん達はエロイズム大聖堂に向かいました。昼の大聖堂に入るのは自由ですし、ソフィアさんが信徒でもあるので危険なことはないでしょう。
その一方で、ハンニバル将軍のチームは三つ目のダンジョンに進入したようですね。なんと、湖の中にあるダンジョンです。島があるとか、地下にあるというわけでなく、水で迷宮が作られているのです。
ちなみに湖も最近になって現れたようです。ムートンの方に魔族が関わっている可能性が出てきたら、ここら辺もかなり怪しく感じます。まあ、調査はハンニバル将軍にお任せしておけば大丈夫でしょう。
うーん、第一印象はあまり良くなかったハンニバル将軍があんなに頼りになる人だったとは、世の中分からないものですねー。
さて、大聖堂です。ソフィアさん達が近づくと、入口に立っていた神官が恭しくお辞儀をしました。ここでは完全に皇帝陛下として扱われるみたいですね。その方が都合がいいようです。
なんというか、この国の人達は全員一丸となって皇帝陛下に
「ようこそいらっしゃいました。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「私のお友達に大聖堂を案内したいと思いまして」
「それはそれは、大変素晴らしいことです。慈愛神もお喜びになりましょう」
そう言って神官さんはエロイゾン信仰のシンボルとなる、両手の人差し指と中指の二本を伸ばした先を合わせるハンドサインをしました。ソフィアさんも同様にすると、アルベルさん、マリーモさんも続きます。ラウさんは見よう見まねでそれっぽい手の形を作りました。
「まずは祈祷室に行きましょう」
入口から入ってすぐにある大きな部屋のことを、信徒達は祈祷室と呼んでいます。以前この場所を礼拝堂と言ったら訂正されました。良く分からないですが、呼び方の決まりがあるようです。
「うわー、でっかい!」
はしゃぐラウさんに、アルベルさんが尋ねます。
「変わった臭いは感じないか?」
いきなり核心に迫ろうとするのは良くないですね。周りに無関係な信徒も沢山いますし。
「ううん、変な臭いはしないよ。なんか優しい匂いがあそこからしてくる」
ラウさんが祭壇を指差すと、近くにいた神官が笑顔で話しかけてきます。
「さすが、イヌ族の方にはエロイゾン様の気配が分かるのですね。エロイゾン様は慈愛に満ちた獣の女神ですから、貴方様には親しみやすいのではないでしょうか」
狼と犬は似たようなものですからね、確かに相性が良さそうな気がします。獣人にはエロイゾンを信奉する者が多いとタヌキさんに聞きましたし、それが理由でソフィーナ帝国は獣人の各種族と仲良くしているのだとか。
それなのに光明神トゥマリクと関わりの深いエルフと同盟を組んだら、ブタさんだけでなく多くの獣人が反発するかもしれませんね。
神話では夫婦仲はあまり良くないというか、トゥマリクが太陽でエロイゾンが月なので世界にとっては対照的な存在と言えます。
そういえば、エルフのシトリンさんと共にムートンを訪ねると言っていたヨハンさんはトゥマリクの加護がある光の剣を持ってましたね。全てにおいて反発される要素しかありませんね。
「ボク知ってるよ、獣人はみんなエロイゾン様が作った生き物なんだって。だから魔法の素質が無くてもエロイゾン様のために祈るんだ」
なんとラウさんが神話を語り始めました。これまでの態度から、あまりものを知らないのかと思っていたのですが、大変失礼しました。
神官もラウさんの話に感銘を受けたのか、大きく頷きながら例のハンドサインをしています。
「ではそろそろ奥に行きましょうか」
ソフィアさんが奥にある歴代皇帝の墓碑群を指し示します。どうやらあちらが本命みたいですね。
「我等が母の愛が貴方と共にありますように」
神官がエロイズムお決まりの挨拶をして離れていきました。外から見ているぶんには、こういう雰囲気も楽しいですね。
「この世界は『創造神ソクレース』が作ったとされますが、そこに生きる者達はそれぞれの神が作ったと言われています」
広い大聖堂を歩きながら、ソフィアさんが神話を説明し始めました。ラウさんがあんな話をしたから気分が盛り上がっているのかもしれません。
「エルフは『光明神トゥマリク』が、獣人は『慈愛神エロイゾン』が、ドワーフは『創造神ソクレース』が作ったそうです。ですが、人間を作ったのがどの神なのかは伝えられていません。ラウさんは聞いたことがありますか?」
神話トークをする相手を見つけて嬉しそうですね。でも私もちょっと興味があります。人間を作った神が誰なのかは、何故か神話で語られていないんですよね。
「聞いたことないなー、『正義神ヴォルカー』なんじゃないかな?」
「だがヴォルカーは鳥の姿をした神だ。人間のような飛べない種族を作るだろうか?」
ラウさんは消去法で言いましたが、アルベルさんは神様の姿で話していますね。分かりますけど、人間と似た姿をしたエルフを作ったトゥマリクは巨木の姿をしているそうですよ。
「そんなことより、変わった臭いはしないのかしらー?」
マリーモさんは吟遊詩人なのに神話に興味が無さそうです。なんか不思議ですね。
「うーん……まだよく分からないけど、あっちの方に嗅いだことのないにおいがあるような」
ラウさんは、墓碑の方を向いて鼻をクンクンさせています。やはりそちらですかー。
「うふふ、悪だくみをするならやはり墓地ですね」
何故か嬉しそうなソフィアさんでした。そこ、貴女のご先祖様の墓碑ですよね?