■ その244 小さな恋心3■
カコ君の上がってた肩がストンって下がって、ボクの横の椅子に座ると、ちゃんと女の子の顔を見ました。
「ご飯は、食べれてる?」
「病院のご飯、あんまり美味しくなくって。たくさん残すと、お母さんが心配するから、頑張って食べてるけどね。前に、
カコ君がバレンタインにチョコレートをプレゼントしたの、この子だったんですね。
「僕、クリスマスに、ケーキ、作ってくるよ」
カコ君、ギュってお膝の上に置いてた手を握りしめて、力強く言いました。
「退院するまで、病院のご飯以外、ダメなんだって。… また、食べたいなぁ。夏虎君の作ってくれた、トリュフチョコレート」
女の子は、ちょっと寂しそう。
「じゃぁ、退院したら作るからさ、食べてくれる?」
「本当? 夏虎君、作ってくれるの?」
嬉しそうに笑う女の子に、カコ君は何度も頷きました。
「僕、ケーキ作った事ないから、お姉ちゃんに教えてもらって、いっぱい練習する。それで、奈美ちゃんが退院したら、すんごく美味しいケーキ、作ってあげる。だから… だからさ…」
カコ君、一生懸命お話しします。お顔が怖くなるぐらい一生懸命で、お目の縁に涙が溜まってます。
「ゴホゴホ… ごめん、夏虎君… ゴホゴホ… ゴホゴホ…」
女の子は体が動くくらい、大きな咳を何度もしました。大丈夫ですか? 苦しいですよね?
「奈美ちゃん、大丈夫だよ、落ち着いて…」
カコ君は、そんな女の子の背中を優しく撫でてあげます。オウメちゃんが、カコ君達にしてくれてるから、知ってますもんね。
「ありがとう、夏虎君」
女の子の咳が落ち着いたら、カコ君はゆっくりゆっくり、女の子を寝かせてあげました。ちょっと、お顔が青いですね。
「僕が、急に来たから… ごめんね、疲れさせちゃって」
「大丈夫。夏虎君が会いに来てくれて、とっても嬉しいよ」
「あのね、これ… これを渡そうと思って」
カコ君、コートのポケットから、少し小さめの袋を出しました。ピンクの水玉で、赤いおリボンがついてて可愛いです。
「開けて、いい?」
女の子は、カコ君からその袋を貰うと、ゆっくりと赤いおリボンを取って、中身を出しました。
それは、スズランテープで編んだ小さなカエルさんです。緑・黄色・ピンクの三色のカエルさんが、ボールチェーンで一つのキーホルダーになってます。
「お家に、カエル。学校に、カエル。無事、カエル。… 僕が、作ったんだ」
マツハシさんに教えてもらって、作っていたモノですね。凄い! とっても上手です!!
「… ありがとう。頑張って、帰るね。だから、夏虎君、ケーキ作ってね」
女の子は、カエルのキーホルダーを両手でギュ! って握りしめて、ちょっと泣いてます。
「うん。ちゃんと美味しく出来るように、練習しておくね」
ニコって笑うカコ君も、泣きそうですよ。でも、2人でお顔を見合わせて、フフフ… って笑ってるから、いいのかな?
「ごめんな、遅くなっちゃって」
そう言いながら、サエキ君が花瓶に入ったお花の束を持って来ました。ベッドの横の机にお花を置くと、サエキ君はボクをジャンパーの中に入れてくれました。
「じゃぁ、確かにお届けしました。ああ、お母さんは明日の朝一番で来るって。だから、ちゃんと寝て、ご飯もしっかり食べなさいって。はい、伝言終わり。では、失礼しま~す」
「奈美ちゃん、またね」
カコ君、サエキ君にツンツンって袖を引っ張られて、慌てて椅子から立ち上がります。
「うん。今日は来てくれてありがとう。プレゼントも、ありがとう。大事にするね」
女の子の笑顔を見て、カコ君は少しホッとしたのかな? でも、お部屋を出て、ドアの影で待っていたトウリュウ君の顔を見て少し泣いちゃったのは… やっぱり、心配なのかな?
「
涙声で、カコ君が言います。
「んじゃ、アイス食って帰ろうぜ~。俺が、奢ってやるからさ」
そんなカコ君と、カコ君の頭をナデナデしていたトウリュウ君と、サエ君は手を繋いで元気に歩き出しました。ボクは、病院を出るまでは、縫いぐるみです。