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第245話 息抜きも大切です

■その245 息抜きも大切です■


 12月、いつもの主達は学期末テストでバタバタしているんですけれど…

 今年の主達は高校3年生。部活も引退して、お勉強が生活の中心だった2学期なので、慌てることも焦ることもありませんでした。そもそも、僕の主の桜雨おうめちゃんは卒業後の進路が決まりましたし、松橋さんは第一希望のお店に就職内定、田中さんも第一希望の大学に受かりました。後は、桃華ももかちゃんと佐伯さえき君の大学受験と、近藤先輩と大森さんの専門学校受験です。受験生にとっての2学期の学期末テストは、肩慣らしや確認といったところらしいです。なので、テスト勉強も普段のお勉強と変わりがなく…


「勉強、飽きたよ~」


 炬燵こたつに入って教科書とノートを広げて… 朝から2時間、とっても頑張りました。集中力が切れた大森さんは、教科書の上に頭を落とします。ゴン! って音に、隣で炬燵から頭だけ出して寝ていたワンコの秋君が、ビックリして目を開けちゃいました。けど、すぐにまたトロトロトロトロ… 目が閉じて、小さくイビキをかき始めました。炬燵って、ワンコもダメにするんですね。


「ここにⅹを入れて…」


 佐伯君、はまだまだ頑張れそうですね。皆、今日も主のお家のリビングで、炬燵に入ってお勉強です。テスト、明日からなんですよね。


「田中っチ、私、今日はもうダメ~。頭の中、空き容量ないよ~。日曜日も勉強してたらさ、青春が終わっちゃう~」


 大森さん、教科書の上でそんなに頭をグリグリしたら、紙がグチャグチャになっちゃいますよ?


「大丈夫、貴女の青春の中で、勉強はほんの一握りよ。… ここまで進んだのなら、休憩していいわ」


「やった!」


 田中さんが、大森さんの進捗状況しんちょくじょうきょうをチェックして、ノートに大きな花丸を書きました。


「じゃぁ、大森さん、こっちこっち」


 大きく背伸びをした大森さんを、ダイニングテーブルで双子の弟君達と料理の準備をしていた主が呼びます。


「「こっちこっち」」


「なになに~?」


 双子君達に手招きされて、大森さんはちょっとだけ後ろ髪を引かれる思いで、炬燵から出て双子君の横に行きました。


「あ、今日のデザート? 苺のゼリー?」


「イチゴムース。僕達が作るからね」


「最近、お姉ちゃんにお料理を教えてもらってるんだ」


 卓上IHコンロ、18個のココット、大きなボールに、牛乳、生クリーム、イチゴ…。大森さん、テーブルの上に並べられている材料から、何が作られるか予想します。


龍虎りゅうこ君、お料理するの? スゴーイ!!」


「気分転換に、一緒に作ろう?」


「作る作る~」


 大森さん、主や双子君達に誘われて、ご機嫌にイチゴムース作りに参加しました。


 佐伯君や近藤先輩の集中力が切れ始めた頃、テスト対策で三鷹みたかさんのお家でお仕事をしていた先生組も、お昼を食べに来ました。


「お、頑張ってるね、感心感心」


「兄さん、ちゃんと寝た?」


 梅吉さん、桃華ちゃんの隣に座ると、両手も炬燵の中に入れて温めます。目の下にすんごいクマ、出来ていますよ。


「田中さん、進捗状況は?」


「大森さんは全体の7割、佐伯君は9割、東条さんと近藤先輩は、テスト範囲終了です」


 何時にもまして猫背な笠原先生は、桃華ちゃんの隣に座って、田中さんから皆のお勉強の出来上がり具合を聞きます。


「桜雨、腹が…」


 少しやつれた感じの三鷹さんは、真っすぐ主の隣に立ってお昼ご飯の催促です。三鷹さんの両手がワキワキしてるのは、主を抱っこしたいんですかね? ダメですよ、皆が見てるんですから。


「は~い。すぐ、ご飯作ります。炬燵で、温まってね」


 主にポン!って背中を押されて、三鷹さんは少しションボリして炬燵にモゾモゾ入ると、ゴロンと横になりました。


「あ、三鷹さん、寝ちゃ駄目よ。梅吉兄さんも、笠原先生も、すぐご飯にしますから、寝ないでください」


 見ると、梅吉さんも笠原先生も、コックリコックリ頭が船をこいでます。


「10分だけ~」


 そう呟くと梅吉さんは後ろに、笠原先生はテーブルの上に、それぞれ体を倒して寝始めちゃいました。だいぶ、お疲れみたいですね。先生達、イビキが聞こえてますよ。


「龍虎、掛けるもの、持って来て」


 しょうがないんだから、って溜息をつきながら、桃華ちゃんは双子君に毛布をお願いして、主と一緒にキッチンに立ちました。


「今は、俺達より、先生達の方が大変そうだな」


 テーブルを片付けながら、佐伯君が言います。


「でも、成績付けちゃえば、後は暇なんでしょ?」


 大森さんは、テーブルを綺麗にフキフキ。


「そんな訳、ないでしょう。高校3年生を受け持っているのだし、担任と副担任よ。全員の進路が決定するまで、大変に決まっているでしょう」


 田中さんは、食器やお箸を並べ始めます。


「えー、ヨッシー義人先生はそうかもしんないけど、梅吉ちゃんや水っチ水島先生は、絶対違うよ!」


 大森さんが、ケラケラ笑いながら否定した時でした。


「お、皆いたいた」


 下のお店から、主のお父さんの修二さんが来ました。


「お父さんも、お昼食べちゃう?」


 キッチンから主が声をかけると、修二さんは悪い目つきをニヤッとさせて、手に持っていた紙を、顔の高さまで上げました。… まるで、『この顔にピンときたら110番』って感じです。


「皆、正月は気分転換に、ここに行こうぜ!」


 ババババッ!!って、主達が修二さんの前に集まって、その紙を凝視しました。


「うっ… そぉ」


「マジ?!」


「まぁ、気分転換なら…」


「い、いいのかな?」


 皆が口々に感想を呟く中、主と桃華ちゃんは…


 お正月、楽ちんだわ。


って、その紙を見ながら思いました。


「皆で、正月は温泉だ!!」


「わーい!!」


 修二さんと皆は、バンザイをしながら喜びます。


「「えっ?! ちょっ… 待って…」」


 その歓声に、ビックリして起きた梅吉さんと笠原先生でしたけど、皆の喜ぶ姿を見て、


『受験生!』


 という言葉を飲み込んで、また炬燵の中に意識を溶かしました。



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