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第248話 忘年会という名のカクテルパーティ

■その248 忘年会という名のカクテルパーティ■


 僕の主の桜雨おうめちゃんと従姉妹の桃華ももかちゃんは、お料理が得意です。今日のクリスマスパーティ兼忘年会のために、いっぱいのお料理を前日から下ごしらえしていました。

 学校から帰ると、早々に仕上げにかかって、美味しそうなお料理はどんどん出来ていきました。なんてったって、キッチンが2つあるのが、頼もしいですよね。お料理はあまり得意じゃない先生組は、主と桃華ちゃんの手となり足となり… アシスタントを頑張っていました。

 今年は、主のお母さん方の従妹の和桜なおちゃんと、急遽参加が決まった小暮先生と三島先生もいて、いつも以上に賑やかでした。


 主と桃華ちゃんのお父さんお母さん、坂本さん達のお仕事組が来た時には、高校生組はお帰りの時間でした。双子君達と佐伯君、和桜なおちゃんとワンコの秋君は、4人で頑張って飾り付けたツリーの下で、仲良く熟睡していました。

 ここからは大人の時間、忘年会の始まりです。炬燵こたつに入って、美味しい料理と美味しいお酒で、静かに楽しみます。

 主と桃華ちゃんは、炬燵側のキッチンでゆっくり大人用のお料理を作りながら、楽しくおしゃべり。三鷹みたかさんと笠原先生と梅吉さんは、反対側のキッチンで、パーティの後片付けです。山のような洗い物を、笠原先生が試験管を洗うように素早く優しく洗い上げていきます。それを梅吉さんが流して、三鷹さんが拭いて… と、役割分担は完璧です。


「白川さん、パートになっちゃったんですって?」


 お料理を作りきって主と桃華ちゃんが炬燵に入ると、三島先生が聞いて来ました。同じタイミングで梅吉さん達も炬燵に入って、お酒を呑み始めました。パーティの時は、吞まなかったんですよね。


「はい、ヴァージンマリー。レモンジュースとトマトジュースにカットレモンを入れた、ノンアルコールカクテルよ」


 三島先生は、自分の後ろにおいたクーラーボックスから出したジュースを混ぜて、主と桃華ちゃんにノンアルコールカクテルを作ってくれました。このクーラーボックス、三島先生の持ち込みです。持って来たのは、小暮先生ですけれど。


「ありがとうございます、頂きます。

 就職先が、かたむいちゃったんです。でも、パートでも雇ってもらえるし、絵も描けるから、いいかな~って思って。お父さんとお母さんには、まだしばらすねをかじらせてもらう事になっちゃうんですけど」


 主は三鷹みたかさんと桃華ちゃんに挟まれながら、トマトジュースとレモンの風味を楽しみながら、答えました。


「お父さんの脛なら、いくらでも、いつまででも、かじっていいんだからな! 桜雨おうめちゃんは、お家の中に居ればいいんだよ」


 主のお父さんの修二さんは、三鷹さんと感覚が同じですもんね。お酒も結構吞んでいるから、言いながら半べそです。


「でも、皆は大学とか専門学校とか、就職とかするから」


「お母さんは、すっごく助かってるわ~。家の事、桜雨や桃華ちゃんがちゃんとやってくれるから、修二さんとお仕事出来るんだもの。それに、桜雨はただのパートさんでも、家事手伝いでもないじゃない」


 ちょっとだけシュンとした主に、お母さんの美和さんが三島先生の作ってくれた『ウオッカ・マティー二』を楽しみながら答えました。


「そうそう、なんてったって『桜雨画伯』じゃない。今日も、あの青い絵を見たくて来ましたーってお客さん、結構いたのよ」


 美世さんは『ギムレット』を、作ってもらったみたいです。

大量に作ったはずの『鶏モモ肉の蜂蜜レモンソテー』が、気が付けば半分も残っていません。カクテルとの相性がいいんですかね? 修二さんと桃華ちゃんのお父さんの勇一さんは、お箸とビールが止らないみたいです。


「そうそう、あの結婚式の様子、お店のSNSに上げさせてもらったじゃない? おかげで、ブライダルの問い合わせもそこそこ頂いてて、来年にはブライダル部門を立ち上げることにしたのよ」


 坂本さんの言葉に、主と桃ちゃんと、先生組はビックリです。


「え、ブライダル部門て…」


「そんなたいそうなことは出来ないけれど、喫茶店と花屋と業務提携させてもらう事にしたのよ。ようは、喫茶店でやった結婚式をするの」


 一気に、お話しが大きくなりましたね。


「うっそぉ…」


「ほんとぉ~」


 桃華ちゃんの呟きに、アルコールでホッペをほんのり赤くした高橋さんが答えます。その顔には、疲労が色濃くこびりついています。


「店の新人教育もあるし、店も回さなきゃいけないし、ブライダル部門の打ち合わせもあるし、年末だし… 良い事は、給料アップすることだな」


「今年は、スタッフの夜逃げがありませんように…」


 岩江さんも、高橋さんと同じ顔です。高橋さん、遠くを見つめながら、小さくお願い事を呟いてます。お2人、ものすごくお疲れみたいですけれど、年内のお休み、もうないんですよね?無事に年越し出来るんですか?


「大森さんも、狙われてる」


 高橋さん、お酒もですけど、お料理もモリモリ食べてます。隣の恋人の工藤さんが、いそいそとお料理を取ってくれているのが微笑ましいと言うか、何と言うか…


「あら、失礼ね~。専門学校での勉強と同時は大変だろうけれど、実地経験に勝る勉強はないし、時々だし、何て言ったってアルバイト代が入るんだから、あの子にとっても悪い話じゃないでしょう?」


 優雅に『マリブ・モヒート』を呑みながら、坂本さんが言います。


「それ、本人には?」


「専門学校の入試が終わってから言うわ。今言っても、プレッシャーになるだけでしょう? 落ちても受かっても、あの子にやる気があるのなら、お願いしたいのよね」


 笠原先生の鋭い声に、坂本さんも真面目に答えました。


「だからね、桜雨おうめちゃんが家に居てくれるのは、とっても助かるのよ。お仕事終わって、お出迎えしてくれるだけで、凄くホッとするし」


「分かる!!」


 美世さんの言葉に、一斉に皆が頷きました。主は皆の視線を独り占めしちゃって、ちょっと恥ずかしくなって、俯いてチビチビと『ヴァージンマリー』を飲みました。

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