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第278話 みんなでお見舞い

■その278 みんなでお見舞い■


『風邪、ひいちゃったんだって』


『主、いつも頑張ってるから疲れちゃったんですよ』


『双子君が心配してたね』


『ママさんに、「入っちゃダメよ」て、言われてたね』


 だぁれ…? 聞いたことのない声。お部屋に、何人居るのかな?


『お顔、真っ赤だね』


『熱が高いと、人間は赤くなるんだってさ』


 ああ、体が熱いなぁ。関節は痛いけど、寒気がなくなったから、熱は上がりきったかな? 咳と鼻に症状が出てないだけ、まだマシかな?


『秋君、主にお水飲ませてあげてください』


 また、誰かの声。


「わん」


 熱でボ~っとしていた私の耳に、秋君が優しく声をかけてくれました。秋君の声で、見慣れた天井が見えて… そうか、私、寝てたんだ。


「わんわん」


 ベッドの横に置いた子ども用の椅子は2つ。1つは秋君用で、もう1つはお薬とスポーツ飲料のペットボトル。秋君は小さな前足で、ペットボトルをチョンチョンしてる。私に飲んで、って言ってくれてるのかな?


「秋君、ありがとうね」


「わふ」


 体を起こして、ペットボトルの中味を少し飲むけれど、熱のせいかな? 味がしないなぁ。それにしても…


「秋君、誰かとお話ししてた? お母さんや美世さんはお店だし…」


 部屋の壁時計は、まだ午前11時を過ぎたばかりだから、忙しい時間よね?


「わんわん、わん」


 いけない、時計をみたまんま、ボ-っとしちゃった。秋君がお布団にポフポフって前足を置いているのは、寝なさいってことかな? はい、寝ます。


「わん」


「ふふ… 気持ちいいよ、秋君」


 私達が、いつも秋君にやっているからかな? 秋君のプニプニした肉球の感触が、ホッペやおでこにヒンヤリして気持ちいいなぁ~… 瞼の上から、目を押さえるなんて、秋君テクニシャンだなぁ。力加減も、丁度いいよ。


『秋君、寝かしつけ、上手ね』


『あらあら、可愛い足音が聞こえて来たわよ』


 足音?聞こえないよ? あ、ドアが開いた音は聞こえた。忍び足で来たのかな?


「秋君、お姉ちゃん、お熱下がった?」


「わんわん」


「入らないよ~」


 この声は、冬龍とうりゅう夏虎かこね。学校は… そうだ、今日は成人の日でお休みだったね。お腹、空いちゃったかな? お昼、お母さん達作る時間、無いだろうし…


『ちょっと、私達の声聞こえちゃってるみたいだから、誰かオウメちゃんに教えてあげなさいよ。ご飯、梅吉さんが作って行ったって』


『主、高菜とジャコのチャーハンがありますから、大丈夫ですよ~』


 あー、梅吉兄さんが作ってくれたんだ。良かった~。


「わんわん」


「だから、入らないよ」


 そうね、感染うつしちゃったらたいへんだもの。あらあら… なんだか声があっちこっちから聞こえてるみたい。


「あのね、お姉ちゃんが起きて「お腹空いた」って言ったら、教えてね。

お姉ちゃん用のお粥あるから」


「わん」


「よろしくね、秋君。僕達、リビングに居るから」


 ドアの閉まる音… 秋君、隣に戻ってくれたんだね、鼻息が聞こえるよ。

 お粥… 梅吉兄さん、お粥まで作ってくれたの? 忙しいのに。


『この間違いは、三鷹みたかさんが拗ねるわよ』


『食べれば、分かるんじゃない?』


 … 本当に、誰だろう? 聞いたことのない声が、3~4人するんだけどな。


『春風さんは、まだ来ないわよね?』


『まだよ。まだ北風さんが頑張ってるじゃない』


『北風さんに、フーって風を吹きかけてもらって、熱をとってもらったらどうかしら?』


『それで熱、飛んでいくの?』


『さらに高くなったら、桃華ももかちゃんの心配が爆発して、明日の共通テスト受けないかもよ?』


『共通テスト… あ、そうか。だから今日、桃華ちゃんお家に居ないんだ』


 共通テスト… そうだよ、桃ちゃん、今日は大事な日だったのに。私の心配して、十分な力が出せなかったらどうしよう… あれだけ頑張ってたのにぃぃ…


桜雨おうめ、辛い?」


「… お母さん」


 お母さんの声に目を開けたら、新しいスポーツ飲料のペットボトルを持って来てくれていた。


 お母さんだぁ~。


「様子を見に来たら、泣いてるから…」


「桃ちゃん…」


「桃華ちゃん?」


「今日のテスト、大切なのに、私のせいで動揺しちゃって、いっぱい間違えちゃったらどうしよう…。あんなに一生懸命、頑張ってたのにぃぃ」


 ポロポロ涙が出て来る。ポロポロ止まらなくて、呼吸も苦しくて、頭も居たくて…


「大丈夫。笠原先生が、ちゃんとフォローしてくれるわ。それに、桃華ちゃんは出来る子だもの、信じてあげなきゃね」


 お母さんは、涙と一緒に汗を拭きながら、オデコの冷却シートを変えてくれた。冷却シート、ついていたの、忘れてたや。


「うん…。ごめんね、お母さん、忙しいのに」


 頭を良い子良い子してくれる手が、気持ちいいなぁ…


「大丈夫よ。朝、梅吉君と三鷹みたか君が、家の手伝いをして行ってくれたから、お母さん楽ちんよ」


「三鷹さんが?」


 驚いて目を開けると、お母さんがニッコリ笑ってた。


「あら、言ったことなかったかしら? 三鷹君、昔から貴女が熱を出すと、家のお掃除とかやってくれていたの。私がやるからって言っても、

「俺が掃除すれば、おばさんの時間が空くから、桜雨の傍に居てあげてください。桜雨、お母さんに一番側に居て欲しいだろうから」

そう言うから、お母さんお言葉に甘えてたの。あ、お粥も作ってくれてたのよ。教えたのは、私だけどね」


 三鷹さん… どうしよう、三鷹さんに会いたいよう… 声が聞きたい、手を繋いで欲しい、ギュって、抱きしめてもらいたい… ありがとうって、言いたい。


「ほらほら、そんなに泣いたら、頭が痛いの治らなくなっちゃう。三鷹君、お仕事終わったら飛んで帰って来るだろうから、寝て待っていればいいわよ。あっという間だから」


「わん」


 ごめんね、秋君。秋君にも心配かけてるね。でも、涙が止まらないんだよぉ~。


「むかしむかし、ある山に…」


「あら?」


 声がして、お母さんが部屋のドアを開けると、廊下に座り込んで絵本を読んでる冬龍と夏虎が見えます。


「2人とも、こんな所でどうしたの? 冷えちゃうわよ」


「お姉ちゃん、寂しいでしょう? お部屋には入らないけど、ここで本を読めば声は聞こえるから、少しは寂しくないかなって思って」


「お尻の下、フカフカのマット引いたし、靴下2枚履いたし、ほら、ちゃんと毛布も掛けたから」


「… 長居、しちゃ駄目よ」


 そう言って、お母さんがお部屋から出ていくとドアは閉まったんだけれど…


「むかしむかし、ある山に、お祖父さんとお婆さんが住んでいました」


「昔ってさ、どれくらい昔だと思う?」


「絵は、着物着てるから、ずっと昔じゃない?」


「だから、それがいつ?」


アハハ… コントみたい。


 耳では冬龍と夏虎の読み聞かせを聞きながら、お顔は秋君が肉キュウでプニプニしてくれて… 私はいつの間にか寝ていました。


『オウメちゃん、来たわよ』


『本当に、飛んで帰って来たね』


『主、帰って来ましたよ』


 また… あの声。でも、皆優しい声。誰? 誰が帰って来たの? 瞼が重くて、目が開かないよ。


「ただいま、桜雨」


「わふ、わふ」


「秋、シィー…」


 … 三鷹さんだ。お帰りなさい、三鷹さん。ごめんなさい、眠くて眠くて… どうしても目が開かないの。


「ゆっくり、お休み」


 三鷹さんの大きな手、大好き。頭を優しく撫でてくれるのも、手を握ってくれるのも、とっても気持ちいいの。

 ふふふ… 手にキスしてくれた? おひげがチクチクしてくすぐったい。


『オウメちゃん、良かったね』


『明日には、元気になるよ』


『おやすみなさい、主』


おやすみなさい、皆。おやすみなさい、秋君。おやすみなさい、三鷹さん。



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