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第281話 ストーカー少年の看病方法3

■その281 ストーカー少年の看病方法3■


 同居している俺の従妹は、無鉄砲なところがあると思う。その無鉄砲さは、家族思いな所からくるもので…

 今日も、泣いている弟達に、仕事で忙しい母親の代わりにミルクをあげようとしたらしい。テーブルに広がっているスーパーのチラシに、弟達の飲んでいるミルクの特売を見つけて、買い物用の財布を首から下げて、買い物に出たと。自分が風邪を引いて、39度近い熱を出して、学校を休んだことも忘れて。


「この子ったら、いつもこうなんだから」


 桜雨おうめのお母さんの美和さんは、真っ赤な顔をして寝ている桜雨の顔を、優しく撫でた。その顔は育児疲れで少し痩せちゃっているけれど、ホッとはしているみたいだ。

 フウフウ、荒い呼吸を繰りかえす桜雨の隣には、俺の妹の桃華ももかが寝ている。こっちも、真っ赤な顔をしているけれど、桜雨に比べたらまだマシかな。桃華が寝ているうちに、桜雨が戻ってきて良かった。桜雨が居なくなったなんて分かったら、捜しに出るって騒いでるところだった。


「梅吉君、ありがとうね」


 2人の様子を見に来た俺に気が付いて、美和さんが手招きしてくれた。


「違うよ、美和さん。家の手伝いを、いつも桜雨や桃華の分を自分たちがやろうと言ったのも、桜雨を助けたのも、三鷹みたかだよ」


 俺は、妹達は大切で心配だったけれど、母さん達の事までは考えてなかった。小さな手が、甘えるように美和さんの手を握ってる。


「三鷹、君? 最近、よく遊びに来る梅吉君のお友達の?」


「そう。今も、母さんが俺に送った買い物リスト見ながら、買い物してると思う」


 タイミングよく、玄関の呼び鈴が鳴った。たぶん、三鷹だ。


「美和さん、俺が出るから、ここに居てあげて」


 そう言って、美和さんの代わりに玄関を開けると…


「桜雨の具合は?」


 やっぱり、三鷹だった。大きな買い物袋を左右の手に下げて、この寒い空の下、顔にいっぱい汗をかいていた。桜雨が心配で、全速力で来たんだろうな。


「落ち着いて、寝てるよ。今、桜雨のお母さんが看てる。俺も、お前に言われた通り、掃除は終わらせたよ」


 買い物袋を1つ受け取って、三鷹を家の中に促した。2階に上がって、リビングに続くドアを開ける。短い廊下の左右にキッチン。右が俺の家用で、左が桜雨達家族用。キッチンの横を通って、2家族分のリビング。右にはダイニングテーブルで、左には6人用の炬燵が2台並んでいる。その炬燵の近くの壁に置かれているベビーベッドで、同じ顔で同じ寝相で、双子がスヤスヤ眠ってる。お揃いの青いベビー服は、俺の母さんが作ったモノだ。


「やあ」


 三鷹は双子に短い挨拶をすると、俺に買った物を仕舞えと、残りの買い物袋を差し出してきた。それぐらい口で言えよと思うし、分かっちゃう俺も俺だなと思う。因みに、玄関で渡された荷物が俺ん家用の買い物で、今差し出されたのが桜雨の家の分みたいだ。

 俺は2家族分の買った品物を仕舞って、三鷹は俺の家のキッチンで溜まった食器を洗う。棚や冷蔵庫の開閉の音、荷物のガサガサする音、食器がカチャカチャと触れ合い、流水でピカピカになる音、たまに、双子のオナラ。

 それにしても、乾燥饂飩やスパゲティや缶詰めとか、日持ちするものが多いな。


「なぁ…」


 話しかけても、返事が返ってこないのはいつもの事。


「桜雨の事については納得できるんだけどさ、何で母さんや美和さんの事まで気にとめるんだよ?」


 水が止まった。俺は品物を仕舞い終わったから、三鷹の隣に立った。今度は、2人で洗い終わった食器を拭き始める。


「具合が悪い時は、母親に甘えたいものなんだろう?」


 言われて、寝ている桜雨が美和さんと手を繋いでいるのを思い出した。


「弟は可愛いし、母親の力にもなりたい。自分はお姉ちゃんなんだから、頑張るんだ。

 … 桜雨は、毎日そんな純粋な気持ちで頑張っているんだ。具合が悪い時ぐらい、お姉ちゃんは休んで、娘として甘えればいいんだ。でも、母親が忙しかったり、疲れた様子なら、あの子は素直に甘えないし自分がもっと確りしなければと思う」


 成る程ね。確かに、そうだな。… 生まれた時から一緒に暮らしてる俺なんかより、よく分かってる。いや、そこまで中学生が分かるか? 本当にコイツ、桜雨だけしか見てなくないか?


「ごもっともなんだけどさ、なんでそこまでうちの従妹に執着してんのさ? ちょっと、怖いんだけど?」


「… 桜雨しか、いないから」


重い! 重すぎる!! なんだ、その答え?! ちょっと、病的じゃない?


「え-…」


 返す言葉が思い浮かばないんだけど?


「あら、随分と働き者ね」


 天の助け。店から上がって来た母さんが、ほぼ片付いたキッチンを見て、大げさに驚いて見せてくれた。もしかして、聞いてたかな?


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