■その299 春と一緒に来た人■
こんにちは、ワンコのアキ君です。ボクのご主人様はミタカさんです。
でも、ご主人様は忙しいので、ボクはオウメちゃんのお家に預けられています。まぁ、預けられているというより、ここも自分のお家だと思っていますよ、ボクは。
今日、オウメちゃんは朝からお出かけです。ご主人様とデートで、昨日の夜からモモカちゃんとキャッキャしていましたね。最近、お家のお掃除やご飯の準備とかは、ほとんどオウメちゃんが頑張ってやっています。そのオウメちゃんがいない今日は、大学受験が終わったモモカちゃんが頑張ってます。双子のトウリュウ君とカコ君は、お手伝いです。
「桃ちゃん、おトイレとお風呂のお掃除、終わったよ」
「終了~」
このお家には2つのお風呂と、4つのおトイレがあります。ボクのおトイレは、1つです。
「はい、お疲れ様。後は、お洗濯ものを干せば一段落よ」
さっきまで、掃除機が大きな音を立てて床を行ったり来たりしてたんですけど、今はモモカちゃんが雑巾でゴシゴシ拭いてます。床、ピカピカですね。ボクのお顔が映ってますよ。
「桃ちゃん、僕お腹空いた~」
「僕も。お昼前に、何か食べたいな」
カコ君がボクの前でゴロンゴロンと転がります。ボクもつられて、コロコロコロ。トウリュウ君も一緒にゴロンゴロン。あんまりコロコロすると、テレビに当たっちゃいますね。
「お昼、早めに用意してあげるから、お買い物も頑張ってよ」
「「はーい」」
「わん」
あれ? 誰か来ますよ。足音が2つ、床から聞こえます。軽い人と、小さな足音。お家の誰でもないですけど… この足音、聞いたことありますよ。
「お邪魔します」
「こんにちは」
足音がどんどん近づいて、リビングのドアが開きました。大きな荷物を持ったカズミさんと、ナオちゃんです。
「わんわん! わんわん!」
ボク、ナオちゃん大好き! 尻尾をブンブン振ってナオちゃんの足元でピョンピョン撥ねると、ナオちゃんは優しく抱っこしてくれます。ナオちゃんの抱っこ、オウメちゃんの次に優しいんです。
カズミさんはミワさんの妹さんで、ナオちゃんはその娘さん。オウメちゃん、トウリュウ君とカコ君の叔母さんと従姉妹なんだよって、前に教えてもらいました。
「「
トウリュウ君とカコ君はビックリです。ゴロンゴロンしていたのに、パッと起き上がって、ボクみたいに駆け寄ってきました。
「予定より早く着いちゃったんだけれど… ごめんなさい、お邪魔じゃないかしら?」
「こんにちは。大丈夫ですよ。お昼はこれから作るので、お手伝いをしてもらえると、助かります」
モモカちゃんは、和美さんが持っていた大きな荷物を1個受け取ると、リビングを出ようとします。カズミさんとナオちゃん、今日はお泊りですか?
「もちろん、喜んでお手伝いするわ」
「その前に、お部屋にどうぞ」
お部屋? お泊りは、いつもこのリビングにお布団を引いて、皆で寝るんじゃなかったでしたっけ?
「秋君、これからよろしくね」
よろしく?
「「よろしく?」」
「わんん?」
ボクもトウリュウ君もカコ君も、首を横に倒しました。
「あ、良かった、
バタバタバタって、お仕事途中のミワさんがお店から上がってきました。ずいぶん、慌てていますね?
「今、お部屋に荷物を運ぶところ」
「ありがとう、桃華ちゃん。荷物は修二さんが後で上げてくれるって言うから、お昼の準備をしちゃいましょう。佐伯君、随分とお腹を空かせているみたいだから」
言いながら、ミワさんはお店のエプロンを外して、ご飯を作る用のエプロンを付けました。モモカちゃんも、持っていた荷物を階段のところに置いて、エプロンを付けます。
「私も、お手伝いするわ」
カズミさんは、持っていた荷物の中からエプロンを取り出しました。
「助かるわ~。今日、
ミワさんはパタパタと冷蔵庫を開けて、色々なモノを取り出します。モモカちゃんは、冷蔵庫から出たモノをどう料理するかカズミさんに伝えて、お洗濯ものを干しに行きました。
「桜雨ちゃん、デートかぁ。デートなのに、ここまで家の事して行ってくれたの?」
カズミさんは、モモカちゃんに教えてもらった通り、冷蔵庫から出たモノをフライパンやレンジで調理し始めました。トウリュウ君とカコ君とナオちゃんは、
「そうなの。初めてのデートなんだから、自分の事だけ考えていいのにね。今朝ね、ちょっと、緊張してたのよ」
「可愛いわ~」
ミワさんとカズミさん、そっくりな美人姉妹さんですね。並んでご飯作ってると、オウメちゃんかな?って間違えちゃいそうです。
「和桜ちゃんの学校、もう春休みに入ったの?」
「何回お泊りできるの?」
トウリュウ君とカコ君とナオちゃんは、大きな炬燵のテーブルを綺麗に拭いて、お箸や小さなお皿を並べ始めます。
ボク? ボクはお邪魔にならない様に、炬燵の隅っこで骨をガジガジしてますよ。
「春休みまで、あと1週間ぐらいだから、残りの日数は、ここから通うの」
ん? ナオちゃん、このお家から学校に行くんですか? トウリュウ君とカコ君も、お首をかしげてます。
「あ、
お顔に『?』が浮かんでいるトウリュウ君とカコ君に、ミワさんがキッチンで笑いながら教えてくれました。
「和美叔母さんと和桜ちゃんね、今日からこのお家で一緒に暮らすのよ。正確には、新しいアパートが出来るまでなんだけれどね」
「「えええええー!!」」
ボクも、ビックリです。
「よろしくね。冬龍君、夏虎君」
カズミさん、踊り出した2人には聞こえてないと思いますよ。
「なぁに? そのダンス」
「「喜びの舞」」
ヘンテコダンスです。トウリュウ君とカコ君は、手を握り合ってデタラメナなヘンテコダンスを踊っています。
「じゃぁ、私も、喜びの舞~」
さすが、従姉妹。ナオちゃんもヘンテコダンスに混ざって踊り始めました。
「わんわん! わん!」
ボクもボクも! 嬉しい時のヘンテコダンスなら、ボクも踊りますよ~。