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第301話 鎮守の神様とカエルの鈴

■その301 鎮守の神様とカエルの鈴■


 ワンコのアキ君です。

 お買い物帰りに、トウリュウ君とカコ君は神社に寄ってくれました。寄ってくれたって言うより、ナオちゃんを連れて行きたかっただけですね。


 この神社は、ここら辺では一番大きい神社なんだよって、前にオウメちゃんが教えてくれました。神社にはイチョウの木がたくさんあって、秋になると食べきれない程の実がいっぱい落ちるから、お裾分けで貰うんです。あ、食べるのは実じゃなくて、種。オウメちゃんとモモカちゃんが、美味しいご飯にしてくれます。ボクは、いつも匂いだけですよ。


 ご社殿って言うんですよね、神様にお願いするところ。お賽銭を入れる箱の奥の扉は閉まっているけど、中にいる神様からはよ~く見えてるんだよって、オウメちゃんが教えてくれました。だから、トウリュウ君もカコ君も、神様へのご挨拶はきちんとしてるんです。


鎮守ちんじゅの神様、鎮守の神様、こんにちは。白川花店の冬龍とうりゅうです。隣の女の子は、僕達の従姉妹の和桜なおちゃんです。お母さんの和美さんと、今日から僕達のお家で暮らします」


 トウリュウ君が、大きな声でご挨拶します。


「鎮守の神様、こんにちは。白川花店の夏虎かこです。和桜ちゃんと和美ママをよろしくお願いします」


「し… 白川和桜なおです。ママは和美っていいます。今日からよろしくお願いします」


 カコ君に続いて、ナオちゃんも戸惑いながら、大きな声でご挨拶です。こんなに大きな声でお参りするの、初めてですよね?


 3人揃ってぺこっとお辞儀をすると、ざわざわざわ~って風が周りの枯れ枝を揺らしました。神様に声が届いたかな?


「元気な声が聞こえると思ったら、花屋の双子だな。秋君も一緒か」


 トウリュウ君達の後ろから、小さなお姉さんが声をかけて来ました。長い黒髪で赤い袴姿の巫女さんは、オウメちゃんと同じぐらいの身長です。お顔はいつも光っちゃってぼんやりとしか見えなくて、年齢が分かりにくいんですよね~。ご主人様と同じぐらいか、もっと上に見える日もあるし、たまにオウメちゃんより年下に見える時もあって… こういうのを、年齢不詳って言うんですよね。サエキ君が辞書で教えてくれましたよ。この巫女さん、朝早くにお散歩に来ると会える時があるんですけれど…


「こんにちは。今日は、和桜ちゃんが僕達のお家に引っ越ししてきたから、鎮守の神様にご挨拶に来ました」


 トウリュウ君がご挨拶すると、カコ君とナオちゃんもペコってご挨拶します。


「わん」


 ボクも、ちゃんとご挨拶。


「白川和桜なおです。よろしくお願いします」


 巫女さんがナオちゃんの前にしゃがんで、下からしげしげとナオちゃんのお顔を眺めます。ナオちゃん、巫女さんのお顔、見えます?


「きちんとご挨拶出来て、良い子等だ。双子と姉の桜雨おうめと、よく似ているな。外も中もな。どれ、お守りをやろうな」


 巫女さんは、胸元から赤い紐の付いた、金色に光る小さなカエルを出しました。あ、カエルかと思ったら、鈴なんですね。小さくて可愛い音だけど、リンリンいい音ですね。


「わん!」

「良いであろう? 気に入ったのなら、秋君にもやろう。カエル護りの根付じゃ」


 巫女さんは優しい声で言いながらもう1つカエルの鈴を出して、ボクの首輪に着けてくれました。さっきのより、うんと音が小さくて、ボクのお耳にも優しいです。


「わんわん!!」


 ありがとうございます。ってご挨拶したら、巫女さんはニコニコしてくれました。ん? 見えてないよね? … ニコニコしてた気がする?


「和桜とやら、『無事カエル』ようにな。どこに出かけても、万が一迷子になっても、『無事カエル』のだぞ」


「… はい。ありがとうございます」


 巫女さんは、言いながらナオちゃんのスカートのベルトを通す穴に、カエルの鈴をつけてくれました。


「あの… 今度はママも一緒に来ます。ママ、まだ神様にご挨拶してないから」


「そうするのが良いだろう。そうさな、天の機嫌がよく、母君の体調の良い時に来るのが良いな」


「はい」


 ニコッと笑うナオちゃんは、本当にオウメちゃんそっくりです。


「では、そろそろ帰った方が良いな。桃華ももかが心配している」


 ざわざわざわ… 風が枯れ枝を大きく揺らします。これが夜だと、怖いんですよね。


「「「はーい。さようなら」」」


「わん」


「気を付けるのだぞ」


 巫女さんは鳥居の内側で、僕達を見送ってくれました。大きく手を振ってくれているんですけれど、やっぱりお顔はハッキリ見えないんですよね。神様って、皆、恥ずかしがり屋さんなんですかね?

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