■その311 未来へ続く朝■
『お母さん達にも、青春はあったのよ』
「お母さん達の高校時代… そうだよね、お母さん達にも私達と同じ時代があったんだよね」
自分と同じ年齢の美和さんを想像して、ちょっと不思議な感じでした。修二さんの高校生の姿は、佐伯君の存在と重なって、ちょっと可笑しくてフフフと笑っちゃいました。
お母さんは、高校時代をどんな風に過ごしたんだろう? 部活や趣味は? お友達とは、どんな風に過ごしたの? お父さんとは、その時には出会っていた? 制服は、セーラー服? ブレザー?
「私のセーラー服は、今日で着納めだな~」
お部屋の姿見の前で、真っ白なセーラー服を着た主がクルクルと回りました。昨日の夜、梅吉さんが丁寧にアイロンをかけてくれた制服です。袖と裾に朱色の細い3本のセーラーテープ。プリーツのスカートが空気を含んでまぁるく膨らみ、胸元の朱色のスカーフがフワフワと遊びます。
背中まで伸びた髪は薄く入れた紅茶色。猫の毛の髪はふんわりと広がって、毛先はキラキラと金色に見えます。覗く細い首筋は雪のように白くて、髪の隙間から見え隠れする頬は、うっすらと桜色。軽く下がった愛らしい焦げ茶色の瞳や、ふっくらとした小さな桜色の唇が、僕の主・白川
僕の主の桜雨ちゃんは、高校3年生。今日は、高校生活最後の日です。
「桜雨、用意できた?」
ノックされたドアが開くと、腰まで伸びた癖のないサラサラな黒髪が肩から滑り落ちました。黒髪から覗く長い首は乳白色で、切れ長ですっきりとした黒い瞳に、紅を引いたように赤い唇。主の大好きな従姉妹の東条
「桃ちゃん、コレコレ」
主は机の上から金色の
「はいはい」
桃華ちゃんはニコニコしながらそのブラシを受け取ると、主はベッドの縁にチョコンとお座りします。その髪を、桃華ちゃんは優しく優しくブラッシングします。慣れた手つきでハーフアップに纏めると、主がスッと簪を差し出して、桃華ちゃんはそれを
「ありがとう。はい、今度は桃ちゃん」
交代です。桃華ちゃんがベットの縁にお座りすると、主が立ち上がって桃華ちゃんの髪をブラッシングします。艶々でサラサラの髪の毛をハーフアップに纏めると、桃華ちゃんが朱色の細いリボンを差し出しました。それは、制服のスカーフやセーラーテープと同じ朱色で、合唱部が舞台に上がる時に付けるリボンです。そのリボンをハーフアップの飾りにキュッと結わくと、準備完了です。
「桃ちゃん、世界で一番綺麗」
「桜雨、世界で一番可愛い」
主と桃華ちゃんは向かい合って褒め合って、笑いながら抱き合います。ギュッと抱き合って…
「「学校、行こう」」
笑いながら仲良く手を繋いで、お部屋を出ました。
いつもの様に家族に「行ってきます」と言って、いつもの様にバスに乗って、いつもの様に学校の正門をくぐって…
「おはよう!」
昇降口や教室で、いつもの様にお友達と挨拶を交わします。昨日のテレビ番組やSNS、雑誌や恋愛、家族の話やご飯の話… 他愛も無い会話の中に、明日からの新しい生活への話題も混ざります。
不安と期待。ドキドキしてワクワクしてソワソワして… そんな雰囲気を、主はお気に入りの席で感じています。
クラスの一番後ろの、窓際。お日様の光が降り注いで、校庭や正門が良く見える、主の席。目の前に座る桃華ちゃんや、仲の良いお友達と雑談します。
皆と一緒に、真っ白なスカートの裾と、胸元を飾る朱色のスカーフを揺らすのも、今日が最後です。