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第316話 お揃いのキャミワンピースはスミレ色

■その316 お揃いのキャミワンピースはスミレ色■


 今日の主の予定は、三鷹みたかさんと隣町にデート。何件かお店を回って、初めてのスーツを見立ててもらって、買ってもらう… はずでした。

 三鷹さんも、3学期の始業式の日に有給休暇の届を出していたんですけれど、日本の最北端に10日間の出張に行った2年生の先生数人の代打で、出勤になりました。三鷹さんは、授業に身が入らない程ガッカリしたみたいですけれど、それは僕の主も同じで…


「行こう、デート!」


 お家をピカピカにお掃除し終わってから、桃華ももかちゃんがデートに誘ってくれました。


 お揃いのミモレ丈のワンピースは、薄いスミレ色。Aラインのキャミソールワンピースは総レースで、後ろにはリボン。中に白いシャツ、上にバックリボンの白いパーカー。足元は黒の運動靴。小さめのショルダーバックを引っ掛けて、電車に乗って隣町にショッピングに行きました。


 桃華ちゃんとのお買い物はいつもの事ですけれど、いつもは食材やシャンプーや石鹸と言った、お家の消耗品のお買い物です。けれど、今日はアクセサリーや靴、メイク用品等々…。少し前に、大森さん達と行ったお店の物と比べながら、お買い物をしました。


「やっぱり、ピアス開けようかしら?」


 お店の壁一面に飾られたピアスを見ながら、桃華ちゃんが言います。ピアス、形も色も… 色々なデザインがありますね。


「笠原先生は何とも思わないだろうけれど、梅吉うめよし兄さんは怒るんじゃない?」


 言いながら、主は大きめのサクランボのピアスを、桃華ちゃんのお耳に当ててみます。


「桃ちゃん、大きめのピアスが似合うね」


桜雨おうめは、小さめのが似合うかしら? でも、水島先生は反対するわね。体に穴を開けるなんて! て怒って、でもピアスした桜雨が可愛い… って葛藤するのよ、きっと」


 桃華ちゃんは笑いながら、主の耳元に小さなお花のピアスを当てました。チラッと壁の方を見ると、小さな鏡が立てかけてありました。その鏡に映ったお顔を見て…


「桃ちゃん、私ピアスしたら、少し大人っぽく見えるかな?」


 髪が伸びて、少しは大人っぽくなったかな? スーツを着たら、もう少し大人に見えるかな? 三鷹みたかさんの隣に立ってても、妹には見えないかな?


 主、童顔を気にしてるんですよね。髪を伸ばしたのだって、少しでも大人っぽく見せたいからでした。

 お化粧や少しでも露出のある服装は三鷹さんはもとより、梅吉さんと修二さんからも怒られちゃうので、髪を伸ばすことしか思いつかなかったんですよね。


「おねだり、しちゃおうか? 今日のデートがダメになった穴埋めに、ピアス買ってもらおう。それぐらいの我儘言ったって、いいわよ」


「我儘かぁ…」


 言ってみようかな。と呟いて、主は桃華ちゃんと、どれをおねだりしようか? と、沢山のピアスを見ていました。


 雑居ビル内を、あっちのお店こっちのお店と楽しんでいた主と桃華ちゃんに、男の人が声をかけて来ました。


「君たち、女の子2人で買い物?」


「俺達も2人だからさ、一緒にカラオケでも行かない?」


 久しぶりに、声をかけられましたね。見るからに、遊んでいる風な男の人達です。体格は、梅吉さん達より少し小さめですかね。大森さんが居たら「チャラいわ!」って言って、片手で払いのけるでしょうね。


「デート中なので、邪魔しないで貰えますか?」


 桃華ちゃんは言いながらバイバイと手を振って、主を促して歩き出しました。


「おいおい、つれないじゃん」


「女の子2人じゃ、寂しいだろう?!」


 冷たくあしらわれても、男の人達は諦めません。


「デートなら、男がいた方が楽しいって」


 1人が桃華ちゃんの腕を獲ろうとした時でした。その腕を主がパシ! と掴んで、その大きな体を綺麗に宙に舞わせました。鈍い音を立てて床にお尻から落ちた男の人は、目が点です。まぁ、自分よりはるかに小さな女性に、綺麗に一回転させられたら、誰でも驚きますよね。


「私の桃ちゃんに、汚い手で触らないでくれますか?」


 止めに、掴んでいた手首の関節を決めました。


「いででででで!!」


 そこまで痛がる? て聞きたくなる程、男の人は顔を歪めていたがります。


「あのね、お兄さん達… 私達に手を出したら、怖いお兄さん達に病院に送られちゃうわよ?」


 言いながら、桃華ちゃんはショルダーバックの中からスマートフォンを取り出します。


「3泊? 5泊? 一週間? それとも、1カ月? どれぐらい病院に入っていたいかしら? 入院日数のご希望によって呼ぶ人を選ぶから。一週間?」


 スマートフォンの画面を指先でスイスイいじりながら、桃華ちゃんが聞きます。主は手首だけでなく、腕と肩までがっちり決め始めました。


「いだだだだだ… オイ、帰ろう!!」


「… す、少しぐらい可愛いからって、調子になるなよ」


 主がパッと手を放すと、解放された男は腕をさすりながらもう一人の男の人と走って逃げました。


「あら、綺麗な薔薇ばらには棘があるのは常識でしょう?」


 そんな男の人達に、桃華ちゃんは鼻で笑いながら言いました。


「お騒がせしました」


 いつの間にか集まり始めていたギャラリーにペコリとお辞儀をして、主と桃華ちゃんはデートを再開しました。


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