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第60話 新生活の始まり

〇熊井旅館  



「それでは、お世話になりました」


「いえ、本当はもっとゆっくりして頂きたかったのですが・・」


そう悲しそうな笑みを見せる月奈さんがそっと俺の手をとって自分の大きすぎる胸に添える


「私は何時でも進さんの事を歓迎しますから・・・好きな時に尋ねてきてくださいね」


「はいはいはい、そこまでねぇぇ私も自分の母親の女の顔を見るのは辛いわ~」


そう言いながら星奈さんが俺と月奈さんの間に手をいれ引き離す


「まぁ星奈!女は幾つになっても恋心を忘れない生き物なの!お母さんだってまだまだ」


「ああああ聞こえない聞こえない、雑音は気にせず行くわよ進!」


強引に背中を押され由利さんが運転するワゴンの後部座席に押し込まれる


「あ、月奈さん・・また必ず泊まりにきますから~!」


星奈さんの頭の上から振り返り月奈さんにお別れの挨拶をすると、月奈さんはクスリと笑い小さく手を振ってくれた


「い―――く―――よ―――!」


後部座席のスライドドアが閉まりワゴン車は出発する


「・・・たく・・お母さんには困ったもんだわ・・娘の・・ゴニョゴニョ」


横の席の星奈さんはさっきからブツブツとなにか文句を言ってる


「進さん?コンビニでバイトしてたんだよね?」


運転しながらバックミラー越しに俺を見ながら由利さんが声を掛けてくる


「あ、はいコンビニバイトだけは結構自分に合ってたみたいで長い事続けてました」


「一応パパに話通してもらって、ホテルに併設してるコンビニのアルバイトとして働ける様にお願いしてるから」


「何から何まで有難う御座います、俺頑張ります」


ミラーの奥の由利さんは満足そうに頷いて微笑んでくれた


暫く3人で雑談をしながら車を走らせていると、海岸線にそった道沿いに大きなホテルが見えてきた


「あ、あそこが私の家が経営するホテルよ」


由利さんは従業員用と書いてある案内表示の入り口に車を入れホテルの裏口に車を停車させた


「到着~ぅ」


車から降りると海辺の風から磯の香りがする、海などあんまり行った記憶がないので新鮮だ


後ろから皆の荷物を下ろしていると、裏口から少し太めの男性と若い女性が現れ此方に向って来た


「由利・・・よく帰ってきたね」


「まぁ由利も星奈ちゃんも久しぶりね・・えっと其方が由利の言っていた・・」


俺は二人の前に立ち頭を下げると


「初めまして、由利さんと星奈さんにお世話になってます、龍道 進と申します・・・えっと由利さんのお父さんとお姉さんですよね?」


「ふふ。私由利の母親で由美(ゆみ)と申します」


「!?え・・・お母さん・・・ですか?」


驚く俺を見て星奈さんが白い目でみる


「ねぇこのくだりうちの旅館でも聞いたわよ・・・たく・・」


「君が由利の命の恩人の龍道君だね・・私は由利の父の笹本 克樹(かつき)だ、この度は娘を救って頂き有難う御座います」


そう言うと2人とも俺に向って頭をさげる


「本当言うと、お客さんとして家に泊まって欲しいんだが・・・龍道君のたっての頼みと言う事で従業員用の部屋を用意させて貰ったよ」


「はい、有難う御座います、改めまして本日よりお世話になります」


「ああ、そんな畏まらないで良いよ、我々を家族と思って困った事があれば何でも言ってほしい」


「積る話も有るし、今日は是非一緒に食事でもどうかな?星奈ちゃんも」


「有難う小父さん、お言葉に甘えるねそれじゃ進、先にお世話になるコンビニの店長に挨拶にいこ」


「ああそっか、じゃぁ案内は由利と星奈ちゃんに任せてもいいかな?」


「ええ、大丈夫パパもママも夕飯の時にお話ししましょう」


少しだけ由利さんと話した笹本夫婦は、俺にもう一度軽く頭をさげるとホテルの中に戻って行った


「それじゃコンビニに案内するね」


自分の荷物を肩にかけホテルの中へと案内してくれた、ホテルの中は豪華なインテリアで飾られており高級感を感じさせる作りになっている


「コンビニは1Fのロビーの奥にあるの・・ほらあそこ」


由利さんが指差す方向には、俺が努めていたチェーン店の青がイメージカラーのコンビニ「ワーソン」だった


「あ、俺ワーソンでアルバイトしてたんです、懐かしいなぁ」


「じゃぁ即戦力だね」


星奈さんが嬉しそうに俺の腕に抱き付く


「えっと・・前と店長が変わってなかったら・・・・あ居た、鰐淵さん!」


由利さんに呼ばれた女性がこちらを振り向く


「おう由利ちゃん、久しぶりこっちに戻ってきてたのか?」


此方に歩いてくる女性は俺と同い年位の女性だった、身長が低く150㎝位だろうか茶髪が短く切りそろえられておりボーイッシュな雰囲気がある


スレンダーな体系でしゃべり方も雰囲気も何処か男らしさを感じる、動きやすいシンプルな服装も相まってイケメン美男子と言われても納得してしまう


化粧も申し訳程度だったがそれがまた自然な雰囲気で親しみを覚える、大きな瞳と笑顔の時にできるえくぼが好印象だった


「この人がパパが言っていた・・・」


「龍道君だろ?・・・アタイはこの店で店長してる 鰐淵(わにぶち)佳代(かよ)てんだ、最近バイトが辞めてアタイ一人だったんで龍道君が来てくれて本当にたすかるぜ」


そう微笑んでくれた


「(えくぼが可愛いな・・・っていかん)あ、あ、はい龍道 進です!これからお世話になります!」


そう言って頭を下げる


「あはは、よろしくな明日から早速出勤してもらえるか?」


「はい!頑張ります!」


俺はその場で簡単に手続きと制服のサイズを伝え、鰐淵さんに挨拶してから由利さんに従業員の部屋に案内してもらった


従業員の部屋は1Fのロビーの裏から入った所にあり、10部屋程が並んでいる


「じゃ進さんの部屋はこの101号室ね、はいこれ鍵ね」


部屋の鍵を由利さんから手渡され鍵を開けて部屋に入る


「おおお、広い部屋ですね!」


部屋は1LDKで家具も家電も揃っていた


「有難う御座います、こんな立派な部屋を用意してもらって」


「ふふ、じゃ私らも荷物を置いてくるから夕飯の時間までゆっくりしててね」


そういうと二人は手を振りながらロビーの方へ消えていった、俺は荷物を置くとベッドの上に寝転がり天井を見上げる


「此処から俺の新しい生活が始まるんだな・・・・しかし・・・気になるのはオロチの事だ・・・復活が本当の事なら・・」


不安と期待の入り交じる新生活が始まる




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