「今日からはまたランディも一緒だね」
「こうやって、放課後にイヴと竜舎に行くのも久しぶりな気がするよ」
二週間ぐらいだろうか。ダンスの練習したり、王都に行ってたりしたので、寝る前以外で、こうしてゆっくりと二人で話すのも久しぶりな気がする。
「そういえば、夏休みはどうするの? イヴは実家に戻るの?」
「そうだね~。お父さんからも戻って来いよって言われてるし、僕も家族に会いたいからね」
竜舎の大きな扉を開けて、空気の入れ替えをしながら、それぞれ担当の海竜の部屋の掃除を行うための、壁に立てかけてある道具を取る。
「ランディはどうするの?」
「俺も戻る予定だよ。会いたい海竜がいるんだ。勿論家族にもだけどね」
少しぐら付いている柵を開けて、中に入る。イヴも海竜の柵を開けて、外に向かわせ、しっかりと海の方まで遊びに行ったのを確認すると、中に入って掃除を始める。
「でも、大丈夫なの? ランディが王都に向かってた時も毎日ランディのこと探して鳴いてたよ?」
そうなんだよな~。今も部屋の中の掃除を邪魔して、ちょっかいかけてくるし。あ、そこどいて、干し草変えちゃうから。
ちゃんとどいてくれたフィオナは、何を思ったのか、俺の髪の毛をムシャムシャと齧りついて来た。止めてくれ、まだ禿げたくない。
「どうしようね、本当に。でもフィオナを連れていく訳にはいかないだろうしな~」
「ん~、一応フィオナも学校所有の魔物だから無理だとは思うけど、冒険者ギルドで従魔登録をすれば、一応は外の街に連れ出せるんじゃない?」
あ~、たしかに。それが出来たら一番楽な方法ではあるかもね。
「でもな~、そもそも、絶対にいう事を聞いてくれるって訳じゃないし、客観的にある程度までいう事できますよっていう裏付けも無いしな」
ちなみに証言は裏付けに含まれません。だって簡単に裏切ってくるからね、この子は。
「フィオナ、髪の毛ガジガジしないでね」
「ぴぃ」
「いや、だからと言って頭そのものをガジガジしないで、ちょっと食い込んでるから」
ほら、全くいう事を聞いてくれない。俺の頭って美味しいのか? 間違ってサクッといかないでくれよ? スナック菓子みたいに。
「だ、大丈夫?」
イヴが塀の上からぴょこんと頭を覗かせて、こちらを心配してくれている。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。本気で噛まれたことないから。まだ、ね」
「まだって‥‥‥。僕も手伝おうか? 掃除なら得意だよ?」
あ、なんか今のセリフ、良いお嫁さんになりそう。新婚旅行はどこがいいかね? ふ、王都なら紹介できるぞ。‥‥‥一度行っただけだけど。
「じゃあお願いしちゃおっかな。フィオナは俺が引き付けておくから」
イヴの魔力は俺とは桁違いなので、大量に高圧力の水を放水できる。そう、高圧洗浄機だ。ちょっとイメージを教えただけで直ぐにできるようになってしまった。これが才能の差か。
あらかたの物の移動と片づけをして、俺はフィオナの部屋の柵をどけてやり、そのまま外に出してやる。しびしぶと、俺から離れて、竜舎の外に出るも、扉のすぐそばから中を覗き込んでいる。
「あはは、本当にフィオナはランディのことが好きだね」
「全く‥‥‥。心配になるよ、夏休みのこともそうだけど、俺が卒業したあととか、どうするんだろう。案外慣れてしまうのかな?」
それはそれで、寂しいかもしれないが、その感情は完全にこっちのエゴだから文句も言えまい。前世の動画で見たことあるのは、幼いころに保護した野生動物を、他の施設に移して、久しぶりに会うという感動系の動画。あんな感じで、たまに会いに行って、思い出を懐かしむので我慢しよう。
「そうだ、ランディを誘いたかったんだ」
「ん? 何が?」
何がきっかけで思いだしたのかは分からないが、なんで糞を掃除しているときに思いだしたんだろうか。いや、深く考えるのはよそう。きっとたまたまだ。
「ランディ、夏休みの間にウチに来ない? 近くに今開発中の観光地も作ってる最中なんだけど、どうかな? 魔法の本もいっぱいあるよ?」
「え、いいの? 行きたい!」
「ふふふ、じゃあお父さんに手紙出しておくから、また日程を決めようね」
おぉ、やったぜ。イヴの言っていた観光地というのも話には聞いていたが、どうやら近くで温泉が湧いたらしい。その源流を活用して、温泉街を作ろうとしているのだとか。地元が温泉地って憧れたよなぁ。
そんな感じで、俺とイヴが二人だけで盛り上がっていたからだろうか、フィオナが首を伸ばしてこちらを覗きこもうとしていた。気にはなるけど、入っちゃダメと言われて、ちゃんと扉の境界線から足を踏み入れてないところがかわいく思える。
本当に大きな犬みたいだな。犬科じゃないけど。
「さて、あらかた掃除も終えたし、フィオナたちを竜舎に戻そうか」
「うん、じゃあちょっと呼んでくるよ」
「あ、ちょっとまって。フィオナー! 外に出てる海竜呼んできて~」
俺が呼びかけると、フィオナは直ぐに身を翻して、ノッシノッシと呼びに行ってくれた。
「あ、え? そんなことできるの?」
「自分でも半信半疑だったけど、出来ちゃったね」
「えぇ!? す、すごいね。はぇ~便利~」
なんか、子供にお手伝いしてもらってる感覚だ。以前、他の海竜たちが沖の方まで行こうとしてたのを、諫めてるのを見て、制止しにいってたから、もしかしたら元群れの長として、そういうところを弁えてるんじゃなかろうかと思ってはいたが、やっぱり出来るんだな。
でも、その後にちゃんと褒めないとちょっと拗ねるけど、そこがまたかわいい。