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おやおや‥‥‥

「絶対やった方がいいよ。そんだけの価値があるよ!」

「コリーさんの言う通りだ。スキルを持ってたらこれから仕事に困ることはほぼねぇよ」


「い、いやぁ‥‥‥」


 なぜかグイグイ来られると、行く気がなくなってしまう。何故なら絶対に面倒事に発展しそうだからだ。それに、俺の知っているスキル持ちはそれで苦労している。あまりいい感触を得ない。


「仕事はククルカ島で海竜調教師だってほぼ決定してますし、それに仮にスキルを持っていたとして、それがバレて余計な仕事が増えるのは御免ですよ」


 パチクリと呆れたように瞬きをするご両人。狙ったかのように二人は同時に前のめりになっていた身体を元に戻し、コリーおばさんは背もたれに深く座り、ヒナバンガは皿洗いを続けた。


「欲がないというか、何というか。子供らしくないねぇ」

「俺がまだガキの時は、スキル持ちに夢を見たもんだけどなぁ」


「いいですよ別に。人生適度にサボるのが一番。例えスキルがあったとしても、海竜たちと仲良くのんびりできたら儲けもんぐらいにしか考えてないですからね」


「アタシゃこの子が50代のおっさんに見えてしまうよ」


 惜しい、ニアピンです。


「そろそろ夜も更けて来たし、明日から学校だろう? そろそろ帰ろうか」

「そうですね。コリーおばさんご馳走になります!」

「ふふ、いいんだよ」


 お代を財布から出して、会計を済ませ、扉を開けて外に出ると、なぜかヒナバンガも一緒に出てきた。店の看板を準備中にして店に戻るのかと思ったが、そうでもない。俺たちの後ろを陣取り動かない。


「え?」

「ん?」


 何をしているのかと目線で訴えかけると、素直に答えてくれた。


「いや、この辺は夜になると面倒なやつらが動き出すからな。大通りまでは見送ってやるよ」

「パパぁ」

「だれがパパだ、誰が。俺はまだ二十九歳だ」

「‥‥‥!?」


 どう見ても三十後半の顔付き。ジーっと、見ながら俺たちは歩き始めた。


「なんだよ、失礼な目しやがって」

「いやいや、ありがたいなぁ、と。それにしてもアラサーだったんですね」

「‥‥‥まだ二十代だ」


 気にしてるんだ。全然そういうの気にしなそう感じしてるのに。それに二十九って結婚して子供がいてもおかしくないよな。


「ヒナバンガさんは結婚とか考えてないんですか?」

「うっ‥‥‥それは、そうだなぁ‥‥‥考えてないこともないが」

「ククク、何を躊躇してるんだかね。さっさと告白すればいいものを」


 ここでコリーおばさんからの暴露。俺も思わず大きな声を出してしまった。


「え!? ヒナバンガさん好きな人いるの!? 誰!?」

「コリーさん‥‥‥」


 諫めるようにコリーおばさんの背中を見るヒナバンガ、しかし彼女は全く気にも留めずにそのまま歩調を乱さずに、むしろ快活に笑って見せた。


「いいじゃないかい。早くしないと私みたいになっちゃうよ。それに他の男に取られてもいいのかい?」


 コリーおばさんの意地悪な質問に返す言葉を見つけられず、「ぐぅ」と言葉を詰まらせていた。ぐうの音は出るんだと少し感動していると、ヒナバンガはその相手のことを喋り始めた。


「最初に会ったのはもう五年くらい前か。俺が自分の店を始めたてのころでさ、仕入れ先の開拓をしてた時に知り合った人の娘さんなんだ。ありきたりなんだけど、疲れたところに差し入れを持ってきてくれてよ、そっから気になるというか、なんというか‥‥‥」


 優しさにクラっと来てしまったわけですね? ヒナバンガさん、悪ガキだったって話だし、褒められたり、優しくされることに慣れてなさそうだもんな。意外にチョロいのか?


「てことは、相手は商人、それか農家ですか?」

「農家だな。俺みたいな小さな店は自分で仕入れられるところは自分で仕入れないとな。それに野菜の質も自分で見極めたいんだ」


「すっかり、料理人だねぇ。嬉しいよ」

「よしてくださいよ」


 恥ずかしそうに自分の頭に手をやるヒナバンガをよそに、こそっと俺はコリーおばさんに尋ねてみた。


「実際どうなんですかね? 上手く行きそうなんですか?」

「そうさねぇ、アタシの見立てじゃ、そこまで無しという訳でもなさそうだけどねぇ」

「ほえー」


 ヒナバンガさんのこれから次第って感じかな? 手料理でも作ってあげたらいいのに、そしたら俺だったらイチコロなのに。毎日美味しいご飯を作ってくださいってなりそう。


 あとは、そのお相手のお父さん次第じゃなかろうか。昔悪ガキだったのを知っているなら、娘をやるのに少し悩んでも仕方ない。


 良い人なら、ちゃんと今のヒナバンガさんの内面を見てくれるだろうし、そうでもない人なら、外聞だけで判断してしまいそう。ま、俺がどうこういう事はないけどね。自分の好きな人の家族を、外側の人間にどうこう言われたくないだろうし。


「オッホン‥‥‥まぁ、俺は俺でぼちぼちやるよ」

「頑張ってくださいね。応援してますよ」


「ありがとな。お、そろそろ大通りだ、じゃあ元気でな。また来いよ」


 いつのまにか大通りに辿り着いた。結構話こんでしまっていたようで、あっと言う間だ。

 ヒナバンガに別れを告げ、俺たちは学園に戻った。


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