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あなたも来るの?

 借りて来た猫のように、大人しくお姉さんの話を聞くこと数分。ちゃんとスベオロザウンのお店の位置が分かった。

 聞いてみて知ったことなのだが、お店と工房が一体化している場合は、お店と言うより、工房を優先するようで、俺の探していたスベオロザウンの鍛冶工房だそうだ。


 どっちでも良くねぇか? と思うが、鍛冶師連中は気難しい性格の人が多く、そのほとんどが商売っ気を嫌うので、お店と言うとへそを曲げる人もいるので、注意が必要らしい。


 そう言えば、スベオロザウン爺さんも、自分の店じゃなく、工房と言っていたな。

 見つけたのにも関わらず、へそを曲げて、お酒の約束を反故にされたら敵わないからな、気を付けよう。


「それにしても、意外とあっさり見つかったね」


「だね、ククッ、あんだけ次に会えたら運命だみたいな雰囲気出してたのに‥‥‥スベオロザウンの驚いた顔が見れると思うと、楽しくて仕方ないな」


 きっと目を見開いて、呆気に取られたような顔をして、目を逸らしたりするんだろうな。


「それにしても、あのダダライブさんのお兄さんだよね。どんな人なんだろう、顔とか似てるの?」


「まあね、相当似てるよ」


 かなりの偏屈爺なことを鑑みると、ダダライブさんの方が圧倒的に優しくて、物分かりが良い。性格は似てないかもな、きっと兄の背中を反面教師にしていたことだろう。


「そうかぁ、会うのが俄然楽しみになってきたね」

「そうそう、なんだかんだで再会を待ち望んでる自分がいるんだよな。一期一会の乗り合い馬車だったんだけどね」


 一週間も一緒だったからね、ちょっとした免許合宿の同じ部屋になった人となんて、もう会わないのにな。同郷だったとしても合う事は無いだろうけれど、年齢も出身も仕事も違う人とこうして、会うことになるとはね。


 しかも、自分から探すという主体性。成長したもんだねぇ~。なお、酒のためという下心は考慮しないものとする。


「僕も会うの楽しみだなぁ」

「いや本当にね、楽しみ‥‥‥えっ?」


 え?


「え? 来るの?」

「え? いくよ?」


「本当に?」

「うん、行くよ?」


「あ、そうなんだ」

「あれ? ダメだった?」


「いやいや、そんなことは無いよ?」

「だってせっかくランディが来てくれたのに、もっと遊びたいじゃん?」


「それもそっか」


 ‥‥‥。


 ‥‥‥。


 …‥‥脳内の俺たちィ!! 緊急招集! 緊急招集ーー!!

 議題は「いかにして、イヴの目を盗みながら酒を飲むか」だ!!


 これはまずいですよぉ。イヴの目の前でお酒を飲んだことがばれてみなさい。イヴは優しいから見逃してくれるだろうけど、見逃したイヴにも飛び火する可能性がある!


 それはダメだ! 貴族の御曹司の経歴に傷をつける行為、それすなわち、死罪になってもおかしくはない。


 そ・れ・に・だ! 相手はあのスベオロザウン、思いやりも忖度も、礼節も! 恐らくあの爺さんの辞書には載っていないだろう。 どうしたもんか、俺もスベオロザウンも、どちらかが下手をすれば、もろとも首が飛ぶぞ。物理的に。


 サルマンさんは優しいかもしれないけれど、平民対貴族の構図になったら、他の貴族も自分の立場を揺るがしかねないとして、口をはさんでくる可能性がありましてよ。


 こうなったら、スベオロザウンにあった瞬間に、酒を飲む約束を今日は無しという事を耳打ちすればいいか? 


 よし、それで行こう。帰る日にちょっと立ち寄って飲ませて貰えればそれでいい。


 あとは、スベオロザウンの態度だが‥‥‥俺が言ってどうにかなるのだろうか。彼は生粋の無鉄砲っぽいぞ。坊ちゃんより坊ちゃんなんだから。


 何か我慢してくれるようなメリットを提示すれば。‥‥‥何かってなんだ? ダメだ何も思い浮かばない。それか、俺が完璧な土下座を披露すれば、いや止めよう。笑われて酒の妻にされるだけで、改善される未来が見えない。


 考えろ、考えろ‥‥‥どうすれば、どうすれば‥‥‥


 ハッ!? そうだ!! 俺はいつもこうして乗り切ってきたじゃないか。


「それじゃあ、今日はもう帰って、明日のお昼ぐらいに行こうか」

「お昼? 朝じゃなくていいの?」


 イヴが不思議そうに尋ねてくる。

 そうだよな、普通そう思うよな。時間も限られてるし、行きたいなら早く言った方がいいって。でもね彼らは生活が違うのよ。


「なんかね、夜遅くまで飲んで、午前中は寝て、午後から働くのが鍛冶師の通なんだって.わけわかんないよね」


「ふふふ、なにそれ、変なの」


 ね、そう思うよね。でもね、働いてみるとね、これほど素敵な環境ってないんだよ。まだ働いたことないから言わないでおくけど。


「じゃあ、家に帰ろっか」


 そう言って歩き出すイヴの後について、おれもドットヒッチ邸に向かう。


 さて、俺のお思いついたあ解決策であるが、その名も「明日のことは明日の俺に託す大作戦」だ。いつもこれで乗り切ってきたからな!


 明日の俺は今日の俺と別人なんだ。きっと別人なんだ。さて、今日の俺はぐっすり眠ることとするかね。


 その前に、ドットヒッチ家で夕食だぁ。美味しい料理が出てくるのだろう、たのしみだなぁ。

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