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第97話

「あー、美代、心配すんな。お嬢様ってのは、こうして、無茶苦茶言ってくるもんなんだ」


 サリーが、少し茶化しながら、美代へ囁いた。


「まっ、ステファン様も居るし、カールさんも、適当に合わせてるだけかもしれねぇし、何とかなるって」


 楽天的なサリーに、美代は何も答える方ができない。


「じゃあ、カール準備お願いね。ああ、そこのメイド。着替えるから手伝って」


 カサンドラが、美代とサリーへ、ぞんざいに言った。


「カサンドラ嬢!」


 ステファンがキツイ顔つきでカサンドラを引き止める。


「あー、もう、ステファン様ったら、執事がやるって言ってるのよ?後は、任せればいいでしょ?」


「そういうことでは!!」


「じゃあ、どういうことなのかしら?」


 まるきり悪びれてないカサンドラの姿に、ステファンは、歯を食いしばる。


 やはり、オーランド商会の力は、計り知れない。それも、名代だと、言い切るカサンドラを、ステファンは、どう扱えば良いのか、心に迷いがあった。


 しかし、これは、無茶すぎる。それを、頼みの綱のカールが引き受けてしまった。そこも、何か引っかる。もしかしたら、カールに何か考えがあるのかもしれない。などと、深読みしてしまい、ステファンは、言葉が上手く発せないでいる。


「えっ?!何?なんなの?!」


 カサンドラが、いきなり歓声をあげた。キンキンと叫びの様なそれが、辺りに響き渡った。


「きゃー!!見て!!猫よ!!」


 喜ぶカサンドラの視線は、玄関ホールの中央、大階段の陰に定められている。


「猫?!」


 ステファンが、訝しみ、


「えっ?!シロじゃねぇか?!」


 サリーが、驚き、


「……シロちゃん?!」


 美代は、動揺して、つい、ステファンを見てしまう。


 ステファンも、その視線に気がついて、ハッとしているが、カサンドラの動きは速かった。


「ねぇ、ステファン様!あの猫、私が飼うわ!見て!あの美しい白い毛並み!ふさふさの尻尾!私にふさわしい気品が備わっていると思わない?」


 きゃっと、カサンドラは弾かている。


「あ、あの、あの猫は野良猫で!時々遊びに来るだけなので、飼えません!」


 美代が、必死に言った。ここで、四郎がカサンドラの手に渡ってしまうと、人の言葉を操る隠密猫であるとバレてしまう。それはそれで厄介な事になるはず。


「あら、野良猫なら、ちょうど良いじゃない?やっぱり、私が飼うわ!!ねっ、ステファン様!」


 カサンドラが、弾けた。


「いえ、野良猫です。とても飼えるものではありませんよ!カサンドラ嬢!」


 ステファンも、美代の言わんとすることを読み取ったのか、カサンドラを説得し始める。


「まあ!何をおっしゃるの?あんなに可愛いのに!ちょっと、あの猫を捕まえてちょうだい!!」


 カサンドラは、ステファンの言う事に耳を貸す訳でもなく、美代とサリーに命じた。


「美代、捕まえよう」


「え?サリーさん、そ、それは……」


「美代、確かに、シロは可愛い。オレ達で飼う事になっていた。だからこそだ。とりあえず、カサンドラに渡して、頃合いみて、逃がしてやろう。どうせ、シロの世話は、オレ達がすることになる。カサンドラに、猫の世話なんか出来る訳が無いだろ?」


「サリーさん。それ……」


「おう、とりあえずだな、今を何とか収めないと!」


 確かにそうた。サリーの言う事も正しい。ここは、カサンドラの気分を収めることが先にかもしれない。


「サリーさん、シロちゃん、捕まえましょう」


「おう、行くぞ」


 サリーは、勇ましく大階段を背に警戒している四郎へ向かった。


 美代も、その後に続く。


「美代さん?!」


 ステファンが驚くが、


「すぐ、捕まえますから」


 言う美代の冷静な答えに、言葉が続かない。


「そうそう、ごちゃごちゃ言わないで、さっさと捕まえなさい!」


 カサンドラだけは、高飛車な態度をかえていない。


「カサンドラ嬢!!あの猫は、野良猫、この屋敷では飼えません!!」


 ついに、ステファンがキレた。


「我儘も、いい加減になさい!!」


 このステファンのキツイ態度に、


「な。なんですの?!たかが猫

一匹に!!」


 カサンドラは叫び涙目になった。


「ですから、そのたたが猫にあなたは!」


 ステファンが全て言い終わらない内に、サリーがうわっと叫んだ。


 毛を逆立て威嚇しながら、四郎が、サリーの足元をすり抜けたのだ。余りの勢いに、サリーは、驚きを隠せなず、おまわず、よろけて尻もちをついた。


「サリーさん!」


 美代は、サリーへかけよるが、四郎は、何かとりつかれたように一目散に駆けている。


 美代は、思う。


 口にカメラケースを咥えた四郎は、屋敷から出ようとしているのではないかと。


 カメラケースを持ち出す為に、必死になっているのではなかろうか。


 そう、四郎は、自分の役目を果たしているのだ。


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