十二月も、ちょうど半ばに差し掛かっていた。
「重要な事なんだ。俺がやる事に関係がある」
腐敗の王は自らが家族と呼んでいる部下にあたる者達を、食卓のあるリビングに呼び出す。
新宿の区域にある、あるビルの写真を、白金、化座、菅原の三人は見せられる。
そして、百五十枚近くの人間の顔を三人に見せる。
「腐敗の王。何を考えている?」
白金は首を傾げる。
「それは俺一人でやるべき事だ。お前達には自由にさせている。だから、俺も自由にさせろ。確認するが、この中に、身内や友人の類はいるか?」
化座は写真を一枚一枚確認していく。
「いないわね」
彼女は首を横に振る。
「俺もいないな」
菅原は答える。
「じゃあ。何も問題無いな」
腐敗の王はソファーから立ち上がった。
「彼らは?」
白金は訊ねる。
「この世に必要無い人間共だ。それ以上、聞く意味は無いな?」
腐敗の王はフードの下で笑った。
「処でお前ら。誰か、俺達の画廊に、音楽を演奏出来る人間を用意出来ないか? 殺人犯の類で無くてもいい」
腐敗の王は、三人の顔を一通り眺める。
「私は人間関係が希薄なのよ。分かるでしょ? 友達いないし」
化座は鼻を鳴らす。
「俺の知り合いに音楽関係者なんていないぜ」
菅原は禁煙パイプを噛みながら答える。
「……………。一応、僕に心当たりはありますが」
白金は少し戸惑っているみたいだった。
「まあ。気が向いたらでいい。俺達のメンバーに加えたい。俺達の組織には、別に殺人犯以外も必要だな。俺はギャラリーを完成させたい」
そう言うと、王は、会議室のようになっているリビングルームを出ていった。
「王は何を考えているの?」
化座は首を傾げる。
「僕達に好きにしろって事じゃないか? 実際、好きにしている」
「王も変人だな。だが、お前ら同様にイカれている。きっと、何かやらかすんだろうぜ」
そう言うと、菅原はソファーに寝っ転がった。
†
十二月も中頃になった。
あるカルト教団の一支部である新宿のビルが爆破された。
『ゴールデン・エイプ教団』だ。
黄金色のマンドリルの像が特徴的だった。
数百人が丸ごと重軽傷を負い、そのうち、百名以上が死亡した。
余りにも鮮やかな手口だった。
天井が崩れ落ち、大量の人間が死に絶えた。
腐敗の王は惨状を見て満足そうに笑った。
そして、自らのアジトに変える。
入り口には白金がいた。
「貴方はやったのか……? 新宿支部カルト教団爆破事件は……?」
白金は息を飲んでいた。
「ああ。この俺がやった。一瞬だったなあ。巨大な花火が上がったのは」
「何をしたの?」
奥には化座が腕を組んでいた。
「俺は昔、工作員をしていた。若い頃だな。だから、分かるだろう? 爆弾を仕掛けてやった」
腐敗の王は二人に不敵な笑みを浮かべる。
「我々もカルト教団みたいなものだろ? なら、他の宗教団体よりも優れていると考えたい。だから、プレゼントを送ってやった。教団の首領がどんな顔をしているか見てみたいものだなっ!」
そう言って、彼は楽しそうに笑っていた。