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葉月VS劣情

 葉月は腐敗の王と繋がっている。


 腐敗の王は、ボイス・チェンジャーごしに何度も警告の言葉を発していた。


 新興宗教団体・絡新婦は、何らかの理由によって、特殊犯罪捜査課を狙っている。潰したがっている。そして自分達のグループもだと。


 だからこそ、こちらからも反撃する必要がある。

 葉月は妙に心が落ち着いていた。


 これから戦争になるだろう。きっと、大きな戦争になる。

 腐敗の王達のグループは、特殊犯罪捜査課に協力を仰ぎ、こちら側も腐敗の王達と情報交換を行っている。


 崎原は独自に『ワー・ウルフ』の正体を追っている。

 スワンソングもそうなのだと聞く。

 崎原やスワンソングの話によると、シリアルキラー『ワー・ウルフ』の正体は…………。

 葉月は、息を飲む。


 怖ろしい程に、最悪の盤面へと近付いていた。

 もはや、日本という国において、サイコキラー、シリアルキラーというのは、ある種のパンデミックの象徴でさえあった。



 夜の上野公園は肌寒い。

 年が明けて、数十年来の寒波が訪れていた。


 昼宵葉月は、その地に佇んでいた。

 背中にギターケースを背負って、その人物を待っていた。


「此処は、腐敗の王がセッティングした場所だ」

 巫女装束を纏った女は幽鬼のように現れる。


「先日。吸血鬼ブラッディ・メリーにも接触した。お前がネクロマンサー、昼宵葉月か」

 その口調は哄笑しているかのようだった。


「そうね。私がネクロマンサー。貴方が絡新婦かしら?」

 葉月は薄ら笑いを浮かべる。


「私は宗教団体、絡新婦の党首である、絡新婦、東弓劣情だ。お手並み拝見したい」


 ぞわりっ、と、闇が笑う。


 周囲に悪意が満ち満ちていく。

 巨大な人魂が生まれる。それらは骸骨の紋様を象った蜘蛛からボール状に宙に浮かんで、全身から発火しているみたいだった。彼女の左右両隣に、人魂は浮かんでいた。


 その余りにも分かりやすい怪異に対して、改めて昼宵葉月は、特殊犯罪捜査課及び自らが対峙している者達は、現代日本における異能者である事を認識する。葉月はさりげなくギターケースからシャベルと反魂香の線香を取り出す。葉月自身が手にする武器と異能を……。


「ネクロマンサー。私の式神に対して、どう対処する?」

 劣情は嘲り、問う。


「そうね…………。逃げるとするわ」

 葉月はそう告げると、走った。


 劣情は少し拍子抜けといった顔になる。そして、容赦なく人魂を葉月へとぶつけていく。人魂が命中した場所が爆散する。


「隠れたか? しばらく爆撃させて貰うぞ」

 劣情は、次々と人魂の爆弾ボールを生み出していく。小型地雷程の威力だがマトモに命中すれば四肢の一、二本くらいは軽く吹き飛ぶだろう。


 どうやら、葉月は窓を割って博物館の中へと逃げ込んだみたいだった。

 劣情は、葉月の逃げた場所へと追い打ちをかけようとする。


 蓮の香りが、一面に漂い始めていた。


「……何か仕掛けているな」

 劣情は身構える。


 博物館のホール内に激震が走った。


 血肉で肉付けされた巨大なティラノサウルスの模型が、動き回っていた。ティラノサウルスの背中には翼竜の翼が接合され、強大なアンデッドのドラゴンとして蘇っていた。


「ほう? なんと、なんと面白い事をやってくれるもんだなっ!」

 劣情は笑っていた。


 巨大な白骨のドラゴンが、劣情を飲み込もうとする。

 劣情はせせら笑っていた。

 ドラゴンの口腔に彼女が飲み込まれていく。巨大な牙によりめりめり、と、人体を破壊する音が響き渡る。


 辺りには煙が立ち込めていた。


「さて。どう出るのかしら?」

 葉月は油断慢心せず、ドラゴンの背中に乗りながら劣情の行動を警戒していた。明らかに攻撃を受けたのはブラフだ。葉月は思考する。


 明らかに自分の力がパワーアップしている。

 死霊術により、土から虫や草木の死骸を吸い上げる事によって恐竜の骨格標本を肉付けする事が出来た。生まれた怪物を動かすのはまだまだ改良の余地があるが、今の処は次第点といった処だろう。


 問題は劣情の反撃の仕方が分からない。

 明らかにやられたフリをして、何かを狙っている。


 葉月は辺り一面を見渡した。


「なるほど…………。そうか…………………」

 葉月は、ドラゴンの背中から飛び降りて、その場から離れる事にした。気付けば、博物館中に何か“結界”のようなものが張り巡らされている。


 博物館内全てに方陣のようなものが張られている。

 それは葉月の力を封じ込めるものだった。

 葉月は即座に白骨ドラゴンから離れて、博物館の外へと向かう。


 ドラゴンの頭部が吹き飛んでいく。


 何か式神のようなものを周りに浮かせてエアバッグのように纏った無傷の劣情が、相変わらず、嫌味ったらしい表情でせせら笑っていた。


「さて。次はどう来る? よもやその程度で私に勝とうなどとは笑止千万なんだがなあ」

 劣情は不敵な笑いを浮かべていた。



 おそらくは、小手調べで来たという処なのだろう。

 葉月は逃げの一手を考えていた。

 絡新婦、劣情はとてつもなく強い。


 そして彼女は特殊犯罪捜査課と腐敗の王のグループの両方を潰したがっている。

 彼女達の組織にとって、どちらも、不都合極まりない集団なのだろうか?

 なんにしろ、反撃の手段を考えなければならない。


 ……さて、私だったら、どう考えるかしら?

 葉月は緻密に計略を練っていた。

 化け物との戦いというのは、化け物の正体を暴く上でのプロファイリングに通じるものがある。


 今は生かしておくべきだろうか?

 泳がせておくべきだろうか?

 今が始末時なのだろうか?


 葉月は考える。

 ……今は挑発に来たと踏むべきだな。こちらの能力を分析しに来たのか? なら、自分の手札を可能な限り晒さない事と。敵の手札を可能な限り晒させる事か。


 強力な糸のようなものが辺り一面を切断していく。

 隠れられそうな木々などが見事に破砕されていく。……本気でこちらを殺すつもりなのだろうか? 分からない。だが、葉月は逃走経路を探し続けていた。



「ほう。ただの腰抜けだったか」

 劣情は、飄々としながら『ネクロマンサー』の姿を探していた。

 もう少し、挑発に乗ってくれれば面白いと思ったが、意外にも冷静だ。


 どんどん劣情の射程距離から離れていっている。

 どう次の手を打ったものだろうか。

 このまま見逃すか?

 今日は顔合わせを行っただけに過ぎない。


「もう少し、骨があればと思ったのだがなあ」

 劣情は挑発の言葉を放つ。

 闇の中、虚空の中から何者かが答えたように思えた。


 ざわり、と、闇が揺らめく。


 劣情は少しだけ背筋がざわめいた。

 何かが来る………………。

 彼女は四方に、式神を生み出して防御の光芒を張った。


 闇の中から、巨大な骸骨の蛇が現れる。さながらそれは神話のヒドラのようだった。蛇達の頭は劣情へと向かっていく。劣情は蛇の頭部を、手にした式神を発火させて爆裂させていく。


 どうやら、ネクロマンサーは逃げ延びたみたいだった。

 小手調べは終わった。

 劣情は見事に逃げられた事に関心していた。


「本格的な戦争を楽しみにしているよ」

 劣情は心躍る気分だった。

 そう言えば、特殊犯罪捜査課には牙口令谷もいたか。それからあの幻霊生輪もうろつき回っていると聞く。とても楽しい馳走が眼の前に迫っているのだろう。彼女は皿の底まで喰らうつもりだった。


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