セラスとシノの両親は、いわゆる、分かりやすい毒親だった。
セラスとシノは、別々の父親で、同じ母の胎内から生まれた。
母親は、中卒。風俗で日銭を稼いで、ホストクラブに金を突っ込むような女だった。
家の中の記憶と言えば、ゴミ袋ばかりが広がる部屋を想い出す。
ゴキブリや蠅、ナメクジを初めとした様々な虫が家の中に入ってきた。
いわゆる、ゴミ屋敷と呼ばれる場所で二人、寄り添うように生きてきた。
中学校も高校もまともに行っていない。
母親はヒステリックな性格で、酒を飲みながら錆びた剃刀で何度も自傷行為を繰り返しては、あらゆる刃物で二人を傷付けた。
二人にとって、死は眼の前にあるものでしかなかった。
変な注射器が家の中に転がっていたり、酒瓶の破片が部屋の中に並んでいた。
何故か、狭いアパートの中に干からびたインコや頭部の無い猫の死体が転がっていた。
二人は空腹の余り、コンビニやスーパーでの万引きをして飢えをしのぎ続けた。監視カメラや従業員の視線をかいくぐる為の技術は、生きる為に自然と身に付いた。
セラスの名前は、聖剣と書いてセラスと呼ぶ。変な名前だと常々、思っているのだが、母親が名前を付けた意図は良く分からない。あるいは父親だったのかもしれない。
二人が十歳の頃に、いよいよ、母親を殺さなければ自分達が殺されると思い始めた。
だから、二年後に二人は母親を海で殺害した…………。
崖から海の中へと突き落としたのだ。
そして、海で溺れていく母親を眺めながら、二人は自分達の生き方を決めるしかなかった。
世界が残酷なのは当たり前だ。
奪うか奪われるかでしかない。
二人には、それ以外のルールが分からない。
幼い頃の極貧生活と、虐待の記憶が幾度となくフラッシュバックする。
それらの傷を癒やす為に、誰かを供物に捧げるしかない。
消えてしまえ、こんな世界。
そればかりが二人にとっての祈りであり願いだった。
海の水で身体を洗った時、虐待の痕が映し出される。
シノはいつも泣いていた。
海こそが二人にとって、救いの場所だった。
†
セラスの母親は、不同意性交によって……つまり、性被害によってセラスを産んだ。生まれてしまった命だからと言うべきで、母親はセラスを産んだらしいが。父親が性犯罪者というだけでセラスは耐えられなかった。
シノの父親は、ホストをしていたらしい。
貢いでいるホストの気を惹きたくて、シノは産まれた。
結局、父親の方は母を最後まで金づるとしか思っておらず、最後は暴力を振るった挙句、借金漬けの母親を捨てたらしい。
二人は母親から望まれずに、この世界に生まれた人間だった。
そんな人間達に、愛情や、倫理観を説いたとしても通じるわけがない。
殺人によって、身内が殺される事の家族の痛みを聞かされる度に、二人はまるでおとぎ話でも聞かされているような気分になった。
†
「何故。セイレーンは“演奏会”を行うのか? それは、彼らが天と海に祈りを捧げているから。海は子宮の象徴、そして、死者は海への供物ね。このサイコパスは、母親を強く憎んでいる。多分、既に殺しているけど、母親の妄執に囚われているわね」
葉月は、この連続殺人犯に対してある種の共振的なものを感じていた。
自分自身と怜子の歪な形を、写し鏡のように見せられたような気分だ。
だが、セイレーンとの戦いは、絡新婦との戦いに比べれば取るに足らないものだ。全てに抗争の火花が落とされた今となっては、特殊犯罪捜査課の刑事として動く理由なんて無い。
劣情は自分に刺客を差し向けてくるだろうか。
仏教系カルトの長である黄金猿ハヌマーンとも間違いなく戦争になる。
既に“満月のピース”は揃いつつある。
月は満ちていく。
狼男の遠吠えが聞こえる時間だ。
サイコキラー達も刑事達も、各々、この戦争で自らの立場を決めつつある。何か大きなものに飲み込まれない為に。
「この戦争によって、この国で沢山の人が死ぬわね」
葉月は夜道を歩いていた。
腐敗の王からの情報によると、黒社会。チャイニーズ・マフィア達も刺客の中には入っている。生き残りをかけたデス・ゲームは始まっている。