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御伽噺と嘘。

 葉月と腐敗の王達の間では、互いに知らされていない情報も多い。

 腐敗の王達の資金源。彼らは何か暴力団組織と繋がっていると思うのだが、それは葉月には教えてくれない。葉月は、幾つかの有名な反社会勢力に目星を付けているのだが、分からない……。


 ……マンドレイクは、留置所で未だ口を割っていない。もし、腐敗の王が繋がっている暴力団組織に過去にマンドレイクが所属していたとなれば、後々、面倒な事になるかもしれない。


 ひとまず、葉月が知らされている他の重要な情報は、腐敗の王達がとあるカルト宗教団体からある薬物を盗み出して、それを人間が摂取すると“異能者になる”という事と、それをきっかけの一つとして、過去の確執の事もあり、東弓劣情が特殊犯罪捜査課を腐敗の王のメンバーと共に叩き潰したいという事だった。


 生輪を通して、いずれ二つのカルト組織との抗争になるであろう事は令谷にも伝えてある。東弓劣情が、上野で挨拶の為に現れた時に、あれは正面からは戦えないと思った。策を練り込む必要がある。


 葉月は、ある人物へと電話をかけた。


「……要件は、分かるわね? 我々、特殊犯罪捜査課は、マンドレイクを捕まえたわ。“警察署長さん”。マンドレイクと繋がっている組織が必ずある筈。それに関して、心当たりがある筈なんじゃないかしら? マンドレイクは、暴力団組織と繋がっていた筈」


 電話の向こうの人物は、明確に答えなかった。

 話を色々とはぐらかされてしまった。


 葉月は、当初、警察の裏金問題の資料を手に入れて、警察を脅して自分が起こした事件を追跡出来ないようにした。結局の処、葉月に弱みを握られている警察の上層部としては、葉月の罪を見逃し、特殊犯罪捜査課の一員として受け入れるしかなかったのだ。


 だが、もしかすると、自分を有用な存在として踊らせる、という目的があったのかもしれない。


 もし、踊らされているとしたら、令谷が、一番、馬鹿を見ているという事になる。

 警察組織の上層部が暴力団組織と………………あるいは、カルト宗教と繋がっているとすれば、盛大なマッチポンプにならないか?


 やはり、ワー・ウルフの正体の方も…………。

 葉月は、頭を悩まされていた。



 東弓劣情と灰黄陽声の二人は、六本木のビルの屋上から夜景を見下ろしていた。

 人間達が、都市に沢山、ひしめいている。

「人間は多過ぎると思わないかね」

「まったくもって、その通りだ」

 一人の闇の王と、闇の女王が人々の犇めく地上を見下ろしていた。


「腐敗の王に、俺の猿共が沢山、殺された。どう報復をしようか考えている」

 陽声は、こつこつ、と指先で頭を叩いていた。

 ゴールデン・エイプの信者達が集まる会場を破壊したのは、腐敗の王だという事を陽声は調べ上げている。彼はその件に関して、静かに怒りを孕んでいた。


「私は『特殊犯罪捜査課』が、少し煩すぎると思う。もう少し挑発してみようか」

 劣情は、愉悦を押し殺していた。

 ネクロマンサーに対しては宣戦布告に行った。

 他のメンバーで遊んでも構わないだろう。


「刺客を送る。禍斗か縊鬼がいいな」

 劣情は、都会のネオンライトを見下ろしていた。

 人間の数を減らしても一向に構わないだろうと、彼女は考えている。


 吐古四会を挑発してみてもいい。

 いや、むしろ自分達がいかに卑小であるかを反社会勢力組織に分からせるべきだ。それこそが日本を牛耳る組織である絡新婦の威光を示せるというものだ。


 もうすぐ、新年度が始まる。

 桜の木が一面に広がる。

 空を見ると、満月に近付いていた。

今月も『ワー・ウルフ』は、事件を起こすだろう。

 少し満月に満たない月を二人眺めながら、世界を嘲り笑っていた。

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