目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

腐敗の王のアジトにて……。

 エンジェル・メーカーは、自分自身の事が何者なのかを知らない。

 何処から来て、どうやって生きていたのかも分からない。

 ただ、気付けば、腐敗の王という者が自分の世話を焼いてくれていた。


 エンジェル・メーカーは身体付きこそ完全に男性なのだが、染色体上の性別は女性だった。自分がなんで、そのような性別なのかも分からない。自分は化け物だ。彼はずっとそう思っていた。


“彼”の記憶は混濁していて、全てが何なのか分からない。

 ただ、腐敗の王は優しかった。

 彼の為に、美術館を作りたいと言ってくれた。


 幼い頃の記憶がほとんどない。

 きっと、辛い幼少期を送っていた事だろう。分かっている。


 自分達は不幸の中で生きている。


 彼は、自嘲的な笑みがこぼれてきた。

 何もかも馬鹿馬鹿しくて滑稽だ。

 混濁した瞳から見えるのは、全て虚無だった。


 自分は一体、何の為に生まれてきたのか分からない。

 だからこそ、赤ん坊に執着しているのか。堕胎児達の亡骸を手に入れて、それをオブジェとして加工しているのか。


 エンジェル・メーカー、空杭は自分を笑う。ただただ、笑う。

 複数の人格によって形成された彼は、もはや、元の自分が一体、何なのか分からない。ならば、狂気と共に行こう。それら全てを肯定してくれる腐敗の王と同じ道へ。


 ……お前、俺に付いてくるか?


 ……うん。


 想い出すのは、あの日の会話だ。


 アジトの中では、積み重なっている。

 空杭が生み出した、オブジェが。


 胎児の塔。

 それらは産婦人科から盗んで修復してきたものだった。元々は原型なんて留めていなかった。空杭が断片を加工して、美しい鳥の翼を付けて、天使として加工した。


 空杭は、親のぬくもりを知らない。

 故に、おかしくなった。まともな人格形成も有していない。

 故に、人の心というものを知らない。


 腐敗の王だけが、彼の道標なのだ。


 天使を創造する事によって、自分の生きた証になる。その信念だけを貫き通せばいい。



 エンジェル・メーカーが生み出した創造物。

 ブラッディ・メリーの生み出した創造物。

 アンダイイングの生み出した創造物。

 スワンソングの生み出した創造物。

 そして、腐敗の王の生み出した創造物がアジトにはあった。


 菅原剛真は、自分も何かを残したいと考えていた。

 自分もかつては、裏社会の殺し屋だった。

 様々な憎しみに満ちた現場(シーン)を見てきた。


 自分はどうしようもない程に異常で、裏社会からも疎まれる存在。菅原はずっと自分の事をそう考えていた。だが、蓋を開けると、異常な人間は幾らでもいた。


「牙口令谷。果たして、お前は復讐を果たせるのか?」

 彼は煙草を吸いながら、一人呟く。

 シルバー・ファングには、同情する。

 だが、今は腐敗の王の仲間として自分は動いている。

 冷徹な仕事人。

 王の為に生きる者。


「俺は朔にも化座にも、幸せになって欲しいんだ。……違った生き方が出来れば、どんなに良いと思うんだけどな」

 彼は一人呟く。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?