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第61話 湖いっぱいの……水??

 ゴッツン湖は今までその存在が人々に知られていなかった。

 どうやらここの辺りは、フォレストベアの群生地の森を抜けないと来られない場所だったらしく、普通の人間は足を踏み入れない場所だったのだろう。


 また、水の魔王ベクデルがお気に里の場所だと言っていたくらいなので、何かの魔力阻害で場所を霧で隠すなり何なりしていたのかもしれない。


 ここから遠くを見るとフラット族の集落が遠くに見える。

 数キロ先にここの建設途中の水路が見えるので、ここの標高は大体海抜30メートルくらいなのだろう。


 この下の部分を全部切り拓いて平面式の水路を作るといった方法もあったが、それだと工期が更に長い間かかり、スエズとナカタ達に出し抜かれしまう。

 そうなると、ここの大型水路の存在意義が失われ、ここまで工事をした意味が無くなってしまう。

 下手すればサトウタケの輸送を強制的にスエズの大型水路を使わされる事になり、パナマさんの領地が豊かに暮らす事が出来なくされてしまう。


 それを避ける為にはゴッツン湖を通る水路を完成させないと、計画が頓挫してしまうのだ。


「さあ、それじゃあ一気に水を解き放つからね!」


 水の魔王ベクデルは、手を大きく掲げ、空中にいくつもの巨大な水の球を呼び出した。


「これは全部ウユニにあった水だから、コレを一気にここに解き放つからね!」


 水の魔王ベクデルは指をはじき、水の球を一気に普通の水に戻した。

 水飛沫が遠く離れたオレ達にかかる。

 少し舐めてみると、水は塩辛かった、どうやらこれが元々ウユニの土地にあった湖の水だったようだ。

 どうやらオレ達が行った時にはカラカラに枯れ果てていた水はあの水の魔王ベクデルが全て持ち去ったらしい。


 気が付くと、辺りは大雨か嵐にでもなったように一気に水がゴッツン湖を埋め尽くされていた。

 まさに天変地異ともいえるほどの魔力、アレが本気を出した魔王の力なのだろう。

 人間程度には決して超える事の出来ない壁をオレは感じていた。


 そして、ものの数分もせずに、ゴッツン湖は元の量の倍の水量となった。

 その広さは、はるか先の水平線まで見えない程だ、この湖の水量はかなりのものだと言える。

 ひょっとすると、水の魔王ベクデルはウユニにあった水を全部ここに持ってきたのかもしれない。

 これだけの水を自由自在に操れる魔王、それが水の魔王ベクデルの力なのか。


「ふう、終わったからね。後はアンタ達でどうにかするのね。そうそう、約束の事、忘れないでね」


 そう言うと水の魔王ベクデルはその場から姿を消した。

 本当に神出鬼没とは言ったもんだ、オレはベクデルが敵でなくて良かった事をつくづく実感していた。


 だが、ずっと乾季の度にあの水の魔王ベクデルの力を頼りにするのも危険だ。

 今はまだ関係が良好だからいいが、下手に関係が悪化すると途端にこの水路が使えなくなってしまう。

 また、下手に敵対していなくてももし何かの形でまた誰かに封印でもされたらその時にもベクデルの力は当てに出来なくなる。


 そう考えると、ペクデルに頼らず、このゴッツン湖を水で一杯にし続ける必要がある。

 だが、一体どうすればそれを可能に出来るのか。

 オレはどうにかその方法を考える事にした。

 水を上にあげる方法、それは閘門式以外にも別の方法があったはず……オレは以前それをどこかで……そうだ!


 ――思い出した! 以前アンディ王子の離宮を改修工事した際に王子の居る塔への水の吸い上げで使ったのがアルキメディアンスクリュー、つまりスクリューポンプだった!


 アルキメディアンスクリューとは、螺旋状の円盤を筒の中に入れて回転させると液体でも個体でも上に巻き上げる事が出来る原始的な作りのポンプの一種だ。

 これは原始的な作りでそこまで難しいものでは無いので、元の世界でも海水のくみ上げや水害の多い場所で見かけられるモノだった。

 それにこれの工事なら何度か請け負った事があるので、今のオレでも施工可能だ。


 そうだ、あの方法があれば水を上に持ち上げる事が出来る。

 それで海水を長い斜めの水路で大型のスクリュー円盤を使って持ち上げる事が出来れば、雨季乾季関係なく海の水をゴッツン湖に持ち上げる事が出来る!


 オレはついに問題の解決方法を見つける事が出来た。


「こばやしっ、どうしたっ? なんだかにやにやしてちょっとこわいっ」

「え? あ、ああ。すまない。実はちょっと考え事をしていて」

「コバヤシが何か考える時は、いい方法が思いついたのであるか?」

「ああ、思いついた。とっておきの方法がな!」


 その後オレは、フラット族の集落の人達と話し合い、この海岸からゴッツン湖までの大型スクリューポンプを作る計画を伝えた。

 すると、集落の村長はそのやり方を聞き、大変驚いていたがスクリューを回すのに村の衆を使ってもらっていいと言ってくれた。


 集落にいた鍛冶屋の末裔達がそれらのスクリューは作ってくれるという話だ。

 残念だがここにはモッカがよく呼び出してくれたカエンオオトカゲが住んでいなかったので助かった。


 これでどうにか計画が進みそうだ。

 だが、大型スクリューを使って水を持ち上げる計画は、それほど簡単に進むものではなかった。


「ダメです。とてもこれ以上体力が……」

「何だと、それでもお前達はフラット族の戦士の末裔か!」

「無理ですや、こんなの人間に動かせるもんじゃない……」


 造ったスクリューの設置はコンゴウやコンクリートゴーレムのおかげで問題なく進んだのだが、それをいざ回してみる実験をすると、その駆動は人力ではとても賄えるものではなかった。


 やはり人力では出来る事の限度があるのか……。

 まあ海の潮流から水を吸い上げる為の大型ポンプは、人力ではとても動かせるものではない。

 それに、そのスクリューは大きすぎて、人力で回すには危険度が高い。

 下手に巻き込まれたらミンチ確定の巨大な物体だ。


 これを安全に動かす方法か……やはりそうなると電力で大型発電機を作るしかないのかな。

 しかし、動力をどうするか……潮力を利用した波力発電でどうにか電気を作ってそれを動力にしてみるか。

 この世界にはエネルギーを生み出す魔鉱石があり、それを使った魔鉱石パネルはナカタが以前発電施設を作っていたが、この施設を作るにはかなりの土地の広さと大量の魔鉱石が必要となる。


 それにこの魔鉱石パネルでの発電所は辺りの木々を伐採して場所を用意する必要があるので、水はけが悪くなり、更に経年劣化での故障個所の取り換えが非常に困難という欠点がある。


 だから魔鉱石パネルでの発電が出来ない今、ここで発電機を回す方法は潮力を利用した波力発電という事になるワケだ。

 コンゴウやコンクリートゴーレムのおかげでアルキメディアンスクリューを作る事は出来そうだ。

 だが、その回転させるための動力を生み出す波力発電、この発電所を動かすためのタービンをどうやって作るかが問題だと言えるだろうな。

 困った、誰かオレ以外にこの発電機のシステムを理解できる人はいないのだろうか。

 あくまでもオレは知っているだけで実際にそういった装置を作り出すといった作業には携わっていなかったんだよな。


 うーむ、誰か……この電気を生み出す発電機を作れる技師はどこかにいないものだろうか。


 発電機さえ作り方がわかれば、後はそれを大型化して設置すればどうにかなるはずなんだが。

 仕方ない、誰かそういった解決法がわかる人がいるかサトウタケ精製プラントの所にいる老人に聞いてみるとしよう。


 運が良ければもともと錬金術師だったとか学者だったって人がいるかもしれないからな。


 オレはいったんゴッツン湖を離れ、サトウタケ精製プラントの所に戻る事にした。

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