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第62話 魔技師の……爺さん??

 困った困った……。

 どうにかこうにかでアルキメディアンスクリューの大型ポンプを造る事は出来たものの、それを動かす動力が圧倒的に足りない。

 これをゴーレムに回させ続ける事は可能かもしれないが、それだとオレがここを離れた途端にゴーレムが土や元の素材に戻ってしまうのでオレがここから動けなくなる。


 でもここでコンゴウにスクリューを回させると力が強すぎてポンプの方が破損してしまう。


 だからと言って人力ではとてもこの大型螺旋スクリューを回すのは無理。

 そうなるとやはり蒸気機関なり石油なりのエネルギーによる発電が必要になってくるのだろうか……。


 うーん、オレはナカタとは違うので、ここの世界の環境汚染はあまりやりたくないんだけどな、石油や石炭に頼ってしまうとどうしてもそうなってしまう。

 だからと言って国が管理している魔鉱石をどのように使えるか、この事を下手に申請すればその話がナカタやスエズの耳に入ってしまい、この計画に邪魔が入りかねない。


 今のアイツらはオレ達が辺鄙な場所に飛ばされて何も出来ないと思い込んでいるからこそこれだけ自由に大型の工事が進められているからな、

 下手にこれが工事完遂前にアイツらに情報が漏れてしまうと、工作員を潜り込ませてあの手この手で作業員の事故を併発されたりどんな手を使われるかわかったもんじゃない。


 あのナカタというヤツはそれくらい平気でやりかねない奴だ、何故ならアイツは強欲な悪徳村長に放射性物質を渡して、利権を潰されるくらいなら汚染水にしてしまいその場所を人の住めない土地にしてしまおうとすら考える腐れ外道だ。


 あんな奴をのさばらせない為にも、オレはここでアイツを出し抜いておかないといけない。

 それはオレの為だけではなく、この世界に住む人達がナカタの手の上で踊らされて搾取される未来を食い止める為だ。

 下手すればあのナカタは貴族だけでなく、魔族、魔王ですら操ってこの世界を牛耳ろうとしかねない。

 アイツにはそれだけの狡猾さと現代技術の知識がある。


 それに対してオレは、現代技術の知識は理工学部での知識と仕事の経験といったところなので、ある程度には対抗可能だが、それを実施するとなると協力者が必要になる。

 つまり、システムの原理や作り方は説明できるが、それその物を作れと言われると、建築

分野の経験があるもの以外はからっきしといったとこか。


 まあたとえ話でいえば、陶芸や土器作りのやり方は知っているが、それを実際にプロレベルで出来るかと言われれば無理だって事だ。


 それなので誰か優秀な技術者がいてくれれば、オレの発案した道具を作れるんだが、今の時点でそれを頼める人がいない。

 あー、誰かあの老人の中に元錬金術師だとか技術屋のスペシャリストとかいてくれれば非常に助かるんだけどな……。


 オレはそんな事を考えながらサトウタケの精製プラントに足を運んだ。


 モッカ、カシマール、フォルンマイヤーさんは別行動で今はパナマさんの屋敷で少し休んでもらっている。


 老人達は仕事に慣れてきたようで、無理をしない程度に体を動かしてサトウタケを精製した砂糖にする仕事を進めてくれている。

 仕事は決まった時間働けばいいので、それ以外の時間は自由にしていいと伝えてあるので、今はローテーションで休んでいる人達が宿舎の中にいるはずだ。


 オレが建てた宿舎は長屋のような造りで、一つ一つの部屋が一人の持ち部屋になっている。

 その中で使う道具とかはある程度に支給はしてやりたいが、まだ今ここの土地が裕福になったとは言い切れないので食事の提供くらいで止まっている。


 だが、その長屋の一つに足を踏み入れた時、オレは凄い物を見る事になった。

 なんと、何もなかったはずの部屋で、色々な家具、そして小道具が配置されていたのだ。


「こ、これは?」

「あ、コレはあの爺様が作った道具です。爺様のおかげでワシ等は快適な暮らしが出来ておるんですわい」

「爺様??」


 どうやら長屋にいた人に話を聞くと、ここにいる爺さんが発明好きらしく、小さなガラクタを使っては便利な道具に作り替えてくれるらしい。


「その爺さんはどこに?」

「今は仕事の時間でもうすぐ戻ってくると思いますわい」

「そうですか、それではここで待たせてもらいます」


 その爺さん、元々錬金術師か発明家か何かだったのか。


「あ、ファラデー爺さんが帰って来ましたわい」


 オレが帰ってきた人物の方に目を向けると、そこにいたのは白髪の目つきの鋭い爺さんだった。


「ン? わ、わしに何か用ですか?」

「あなたがファラデーさんですか? お話を聞かせてほしいのですがよろしいですか」

「わ、分かった。あ、アンタは確か、コ、コバヤシって言われてたここのあ、主様では?」


 どうやらファラデーさんはオレの事を知っていたようだ、それなら話は早い。


「ファラデーさん、あなたはここにいる人達に色々と道具を作ってあげていたみたいですが、どうしてそんな事を?」

「わ、わしは……わ、悪い事したのか?」

「いいえ、そういうワケじゃありませんよ。単にどうしてそういう事をしていたのか、それに興味があったんです」


 ファラデーさんはオレに対する警戒を解き、話を続けてくれた。


「わ、わしは……む、昔からモノ作りがすきでな、そ、それで……み、みんなの便利になりそうな、も、ものを作っておったんです」


 この人、あまり他人と話すのは得意ではなさそうな感じの孤高の職人タイプかな。

 まあ実際現場でもこういった人は見かけた事があるので、話せない相手ではないけど。

 こういった相手は、こちらから一方的に話すより、相手の会話を引き出す形でほめながら話す方が効果的だ。


「そうなんですね、皆の為に動けるって素晴らしいです! どのような物を作ったのか見せてもらう事は出来ますか?」

「わ、わかりました。こ、ここにあるものでよければ、お、お見せします」


 やはり職人は自分の仕事を誉めてもらうのが一番嬉しいらしい。

 ファラデー爺さんは喜んで魔鉱石を使ったポットなどをオレに見せてくれた。

 その出来は、素人仕事とは思えない程良い出来栄えだった。


 どうやらこのファラデー爺さん、話によると昔はかなり名のある魔技師だったらしい。

 だが、誤解の中で誤って人を殺してしまう事になり、この土地に流刑されたそうだ。

 今考えると技術をねたんだ誰かに陥れられたのかもと本人は言っている。


 なるほど、元魔技師だったらあの小道具を色々と作れるスキルも納得だ。

 そうだ、試しにファラデーさんにオレの考案した道具を作ってみてもらおう。

 これが成功すればこの世界でも電気を使った技術が可能になる。


「ファラデーさん、あなたは魔技師だったんですよね、それでしたらオレの提案する道具を作ってもらう事は出来るのでしょうか?」

「ど、道具? そ、それはどんな物だ?」

「コイルと磁石を使った発電機です、コレが作れればここをもっと良い場所にする事が出来るんですよ」

「ハ、ハツデンキ? き、聞いた事も無い道具だ」


 オレの考えが正しければ、ファラデー爺さんは発電機を作る事が出来る。

 これが成功すれば、それをプロトタイプにしてあの大型スクリューを回せる発電機を作れるようになるかもしれない。


 オレはファラデー爺さんに発電機の仕組みと作り方を説明した。

 すると、ファラデー爺さんは魔技師の血が燃えたのか、オレの話を目もそらさずに聞き続けてくれた。


「そ、そうか。そ、それがハ、ハツデンキというものなんだな」


 ファラデー爺さんは自身ありげにオレの話を元に何かを作り出そうとしていた。

 この人なら本当に発電機を作ってくれるかもしれない!

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