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第59話:メイブ救出へ

 『癒しの森』のロッティの小屋に入ってすぐ、コンセプシオンは顔をしかめた。


「まだ『六花の聖夜りっかのせいや』の準備もしておらんのか」

「あー…そっか、もうそんな季節なのね」


 ロッティは「しまった…」と表情かおに書き込んだ。


「メイブがおらんと、家事が回らんようだな」

「ええ。なんでもメイブが取り仕切ってくれてるから、安心して色々忘れてられるってものよ」


 くすっとロッティは笑い、コンセプシオンは肩をすくめた。

 冬の祭典『六花の聖夜りっかのせいや』のシーズンになると、世界中が色とりどりのオーナメントを飾って賑わう。

 『癒しの森』も例外ではなく、小屋の中ではリビング、玄関に大きなもみの木を置いて豪華に飾る。毎年飾りつけはメイブを中心に、魔法生物ゴーレムたちがする。

 鉢植えに植えた小さなもみの木も飾りつけをして、ロッティとメイブのそれぞれの寝室に置く。そして『癒しの森』は夜になると自ら光の玉を木々に灯し、『六花の聖夜りっかのせいや』を祝った。


「私が眠ってる間は何もしなかった、って言ってたから、今年はレオンとフィンリーの部屋用のもみの木を用意してあげなきゃね」

「家人が増えると大変だな」

「世話する楽しみが増えたかも」

「そんなものか…」


 何とも言えない表情かおで、コンセプシオンはソファに座る。

 コンセプシオンはメイブ捜索のために、早々に『癒しの森』へ駆けつけてくれた。

 『隣人の扉』魔法を使って、予想以上に早く来てくれた。なので肝心のフィンリーの仕度がまだである。




「ええっと…これとお…」

「傷薬の薬瓶はこれだ」

「すんません」


 差し出された瓶をレオンから受け取り、フィンリーは小さな鞄に入れる。


「便利だな、その鞄」

「でしょう。見た目はこんな小さいのに、何でも入れられちゃう魔法の鞄です!」

「私も欲しいな…」


 革製でウエストポーチのような小さい鞄だ。

 ロッティも布製の巾着袋をよく提げているが、巾着袋にも魔法がかけられている。


「団長も言ってみれば、用意してくれますよ。師匠の身体に負担のかからない程度の魔法なんだそうです」

「そうか、なら買い物用に用意してもらおうかな」


 ロッティが目を覚ましてからは、メイブとフィンリーは外へ『フェニックスの羽根』探しに頻繁に出かけるようになっていた。そのため買い物や薬を届ける仕事を、レオンが代わって担当する機会も増えている。

 人間であるレオンに、外の世界との繋がりを断たせないためだとロッティは考えていた。そのことについては、レオンは知らない。


「コンセプシオン殿が一緒なら大丈夫だと思うが、私も一緒に行こうか?」

「ダメですよ団長。師匠の傍についててあげてください。なんせもうすぐ『ヴォルプリエの夜』がくるんですか……ら…」

「『ヴォルプリエの夜』?」

「うわっ!」


 フィンリーは跳び上がり、慌てて部屋を出て行ってしまった。


「なんだどうした!?」


 一瞬目を丸くしたが、レオンも慌てて追いかけた。




「ししょおおおおお!」

「仕度終わった?」

「それどころじゃないんです!」


 ドタドタ小屋の中を駆けながら、フィンリーはリビングに飛び込んだ。


「俺肝心なことを言い忘れてました!」

「…言ってごらんなさい」

「”壮麗の魔女”さんから教えてもらったんです、もうすぐ『ヴォルプリエの夜』が来るって!」

「ああ、もうそんな時期なのか」


 紅茶を啜りながらコンセプシオンが呟く。


「……ナンカ昔聞いたことがあったような…」

「500年前に師匠に話したって”壮麗の魔女”さん言ってました」


 ロッティは腕を組んで、斜め上に天井を見上げる。そして「あ」と掌を打ち付けた。


「そういえば、そんなことブランディーヌ言ってたかも」


 色々思い出しながらロッティは頷いた。


「『ヴォルプリエの夜』の日にアデリナちゃんを復活させられるくらいに、魔力がバーンっと大きくなるとかナントカ。魔女にとって「良い日」みたいです」

「魔力や魔法効果のリミッターが外れるんだ。0時から4時までの短い時間だが、魔女たちは例外なく最強になる。

 『ヴォルプリエの夜』になれば、ロッティの体調も復活するし、魔力も増幅される。『フェニックスの羽根』がなくとも”覆しの魔女”の呪いも祓えるだろう」

「マジ…」


 ロッティは目を丸くしてコンセプシオンを凝視した。


「大マジだ。何かを成し遂げたい魔女にとっては、最高の日になるだろう。まあもっとも、わらわには用のナイ日だがな。別にすることもしたいこともナイ」

「はは…」


 薄く笑いながらロッティは俯く。


(アデリナを助けられる…今度こそ確実に…)


「『ヴォルプリエの夜』って正確にはいつなんです?」


 フィンリーはカレンダーを指さす。


「『六花の聖夜りっかのせいや』と同じ日だな」

「じゃあ、一週間後かあ」


 コンセプシオンは立ち上がった。


「フィンリー、用意はできたのか?」

「あ、はい!」

「では行くか。詳細は道々話してもらおう」

「了解でっす」


 ちょっと考え事をしていたロッティは、慌てて立ち上がった。


「コンセプシオン、フィンリー、メイブをお願いね」

「ああ、任せてもらおう」

「必ず助けてくる!」


 ガッツポーズをするフィンリーに、


「フィンリー、忘れ物だ」


 レオンが片手剣を投げた。


「お、ありがとう団長!」

「気をつけてな」

「はい!」

「お主たちが移動魔法を使った場所に飛べ。そこからメイブの行方を辿る」

「行きます」


 フィンリーとコンセプシオンは飛んだ。


「お願いね、2人とも」


 祈る様に呟くロッティの肩を、レオンは優しく抱いた。

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