『癒しの森』のロッティの小屋に入ってすぐ、コンセプシオンは顔をしかめた。
「まだ『
「あー…そっか、もうそんな季節なのね」
ロッティは「しまった…」と
「メイブがおらんと、家事が回らんようだな」
「ええ。なんでもメイブが取り仕切ってくれてるから、安心して色々忘れてられるってものよ」
くすっとロッティは笑い、コンセプシオンは肩をすくめた。
冬の祭典『
『癒しの森』も例外ではなく、小屋の中ではリビング、玄関に大きなもみの木を置いて豪華に飾る。毎年飾りつけはメイブを中心に、
鉢植えに植えた小さなもみの木も飾りつけをして、ロッティとメイブのそれぞれの寝室に置く。そして『癒しの森』は夜になると自ら光の玉を木々に灯し、『
「私が眠ってる間は何もしなかった、って言ってたから、今年はレオンとフィンリーの部屋用のもみの木を用意してあげなきゃね」
「家人が増えると大変だな」
「世話する楽しみが増えたかも」
「そんなものか…」
何とも言えない
コンセプシオンはメイブ捜索のために、早々に『癒しの森』へ駆けつけてくれた。
『隣人の扉』魔法を使って、予想以上に早く来てくれた。なので肝心のフィンリーの仕度がまだである。
「ええっと…これとお…」
「傷薬の薬瓶はこれだ」
「すんません」
差し出された瓶をレオンから受け取り、フィンリーは小さな鞄に入れる。
「便利だな、その鞄」
「でしょう。見た目はこんな小さいのに、何でも入れられちゃう魔法の鞄です!」
「私も欲しいな…」
革製でウエストポーチのような小さい鞄だ。
ロッティも布製の巾着袋をよく提げているが、巾着袋にも魔法がかけられている。
「団長も言ってみれば、用意してくれますよ。師匠の身体に負担のかからない程度の魔法なんだそうです」
「そうか、なら買い物用に用意してもらおうかな」
ロッティが目を覚ましてからは、メイブとフィンリーは外へ『フェニックスの羽根』探しに頻繁に出かけるようになっていた。そのため買い物や薬を届ける仕事を、レオンが代わって担当する機会も増えている。
人間であるレオンに、外の世界との繋がりを断たせないためだとロッティは考えていた。そのことについては、レオンは知らない。
「コンセプシオン殿が一緒なら大丈夫だと思うが、私も一緒に行こうか?」
「ダメですよ団長。師匠の傍についててあげてください。なんせもうすぐ『ヴォルプリエの夜』がくるんですか……ら…」
「『ヴォルプリエの夜』?」
「うわっ!」
フィンリーは跳び上がり、慌てて部屋を出て行ってしまった。
「なんだどうした!?」
一瞬目を丸くしたが、レオンも慌てて追いかけた。
「ししょおおおおお!」
「仕度終わった?」
「それどころじゃないんです!」
ドタドタ小屋の中を駆けながら、フィンリーはリビングに飛び込んだ。
「俺肝心なことを言い忘れてました!」
「…言ってごらんなさい」
「”壮麗の魔女”さんから教えてもらったんです、もうすぐ『ヴォルプリエの夜』が来るって!」
「ああ、もうそんな時期なのか」
紅茶を啜りながらコンセプシオンが呟く。
「……ナンカ昔聞いたことがあったような…」
「500年前に師匠に話したって”壮麗の魔女”さん言ってました」
ロッティは腕を組んで、斜め上に天井を見上げる。そして「あ」と掌を打ち付けた。
「そういえば、そんなことブランディーヌ言ってたかも」
色々思い出しながらロッティは頷いた。
「『ヴォルプリエの夜』の日にアデリナちゃんを復活させられるくらいに、魔力がバーンっと大きくなるとかナントカ。魔女にとって「良い日」みたいです」
「魔力や魔法効果のリミッターが外れるんだ。0時から4時までの短い時間だが、魔女たちは例外なく最強になる。
『ヴォルプリエの夜』になれば、ロッティの体調も復活するし、魔力も増幅される。『フェニックスの羽根』がなくとも”覆しの魔女”の呪いも祓えるだろう」
「マジ…」
ロッティは目を丸くしてコンセプシオンを凝視した。
「大マジだ。何かを成し遂げたい魔女にとっては、最高の日になるだろう。まあもっとも、わらわには用のナイ日だがな。別にすることもしたいこともナイ」
「はは…」
薄く笑いながらロッティは俯く。
(アデリナを助けられる…今度こそ確実に…)
「『ヴォルプリエの夜』って正確にはいつなんです?」
フィンリーはカレンダーを指さす。
「『
「じゃあ、一週間後かあ」
コンセプシオンは立ち上がった。
「フィンリー、用意はできたのか?」
「あ、はい!」
「では行くか。詳細は道々話してもらおう」
「了解でっす」
ちょっと考え事をしていたロッティは、慌てて立ち上がった。
「コンセプシオン、フィンリー、メイブをお願いね」
「ああ、任せてもらおう」
「必ず助けてくる!」
ガッツポーズをするフィンリーに、
「フィンリー、忘れ物だ」
レオンが片手剣を投げた。
「お、ありがとう団長!」
「気をつけてな」
「はい!」
「お主たちが移動魔法を使った場所に飛べ。そこからメイブの行方を辿る」
「行きます」
フィンリーとコンセプシオンは飛んだ。
「お願いね、2人とも」
祈る様に呟くロッティの肩を、レオンは優しく抱いた。