アレスには負けたものの、その実力を認められて無事協力関係を築くことができた。しかしそれは
あー面倒くさい…! 絶対ややこしい展開になるー…!どうせ私達が女だからとか下らない理由で掛け合ってもらえないやつじゃん…。
私達って何しにここへ来たんだっけ…? 石版入手して魔物倒しに来たんだよね…? 今のところ病治して…
っで次は頭の固そうなベテラン共を説得…? ──森に入らせてくれよォォォ…、いつになったら入れんだよ森によォォォ…。
「着いたぞ、ここにベテラン連中の筆頭が居る」
「酒場…、これから酔っ払いと話すんのかよ私…」
アレスに案内された場所は〝
しかもロイスによるとその人物は〝一等星〟らしい…。──そんなこと言われたって分かんねェよなァ…! 私ハンターじゃねェし…! 今のうちに聞いとこ。
≪ハンター≫
依頼を受けて護衛や危険生物の討伐を引き受ける職業──〝無等星〟〝四等星〟〝三等星〟〝二等星〟〝一等星〟の五階級に分かれている。
なるほど…男尊女卑な思考も持つと思われる酔っ払いか…、面倒だなぁ…。あー丸投げしたい…アクアスに全部任せたい…。あっダメだ…アクアス入れねェ…。
ここまでの不安や嫌気を全て吐き出すような大きなため息をつき…全てを諦めて私達は酒場の扉を開いた。
-
店内はそこまで広くなく、丸テーブルが6つとカウンター席が7つだけのこぢんまりとした酒場。いわゆる常連達で賑わうタイプの店だ。
壁の至る所に
そんな店内のカウンター席で1人、酒を飲む人物の背中があった。
「──おん…? 誰かと思えば…何しに来たガキ共…。その女はなんだ? 彼女ができた報告でもしに来たのか?」
「そんなわけねェだろ…! 例の件で話をしに来たんだ…!」
「またその話か…何度来ても返答は同じだ、魔物討伐にオマエ等は連れてかねェ! 黙って留守番してやがれ!!」
これはだいぶ苦戦しそうな予感…、そんでもってアレスと似たり寄ったりな雰囲気を感じる…。ロイスタイプが良かったなぁ…。
ほんで私がアレスの彼女だとか言いやがったな…! もうあのジジイ嫌いです…! 見た感じ50代だけど知らねェ…! あのジジイ嫌いだァ…!
「オイッロイス! さっさとそのバカ連れて帰れ! 話だか何だか知らねェが…何のつもりで女なんざ連れて来やがった!」
「まあまあ落ち着いてくださいよ〝ムルク〟さん、実は話があるのは彼女達も同じなんです。先にしちゃいなよ」
「この流れで…!? あっえっと…この2人から魔物討伐をする件を聞きまして、私達も協力させてほしいなと──」
「却下、回れ右、帰る、以上!」
はーいコイツクソでーす…!! アレスと同格かそれ以上のクソでーす…!! 椅子しこたまぶん投げてやりたいわ今…!
クソォ…私が女だからと舐めやがってェ…、オマエ等がむざむざ魔物に
「アレス! ロイス! 俺が昔オメェ等に言ったこと忘れてねェよなァ…?! 生意気に意見しやがる上に…まさか女連れてくるほどの腑抜けになるとはなァ!」
「コイツ等は俺やロイスと同等の実力を持ってるし、魔物討伐の経験もある! そこらのか弱い乙女とは違ェ!」
「 乙女だ…!
乙女ニ…! 」
魔物討伐経験をぶら下げてみても、ムルクのジジイは一切首を縦には振らない。どうやらアレス以上の頑固者らしいな…。
意固地を形成しているのはベテランのプライドだろうか…。こういう長年の経験と勘が培われている奴は…何があっても己の考えを変えない傾向がある…。
こういうタイプは説得という言葉と正反対の世界に生きている…、よほどのきっかけが無ければ聞く耳すら持たないだろう…。
──じゃあどうすればいいんだ…? あれ詰んだ…? この頑固者の首を縦に振らせる方法が全然浮かばねェ…。
「ムルクさん、彼女達は魔物を安全に指定の場所へおびき寄せる術を知っていて、そこを担当してくれるんです。戦闘に関わらないのなら、問題はありませんよね?」
えっ? ああ嘘ね…ビックリしたわ…。これ以上場が混乱する前にそれとなく話の全貌を伝える感じか…オッケーオッケー…。
「安全におびき寄せるだァ? 方法は?」
「ネブルヘイナ大森林に落下した石版を使うようです。どうやら魔物討伐にも欠かせない物らしく、それが無くては魔物を倒せないとか…。ですので僕等が石版を取ってくるまで、魔物討伐は先延ばしにしてください」
「──あーあーもう分かった、オメェ等の好きにすればいい。ただしオメェ等の討伐参加は認めねェ! ガキ共は大人のお膳立てだけしてりゃいい! 話が終わったんならさっさと出てけ!!」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
頭固過ぎおじさんに半ば追い出される形で私達は酒場を出た。石版入手までは大人しくしてくれそうだが…協力関係は築けなかった…。
私の人生の中でも一位二位を争うほどにぶれない人だったな…。芯が強いと言えば聞こえこそいいが…初対面の身からするとただの老害に見えたぜ…。
「どうでしたかカカ様? お話しは上手くいきましたか?」
「いやー…それはもう酷かったぞ…。ロイスのおかげで穏便に済んだけど…私と荒男だけだったら間違いなく殴り合いに発展してた自信がある…」
「俺を巻き込むんじゃねェよ荒女…」
予期せぬ結果で半強制終了となってしまった説得だが…、協力関係を築くまでの猶予が伸びたと考えるべきだろうか…。
腹立つジジイではあるが…一等星ハンターは戦力に絶対欲しい逸材だ。石版を入手するまでにどうにか取り入る方法を見出さなければな…。
「まあ色々あったニけど、とりあえずやるべき事は大体終わったよニ? これからどうするニ? 早速森入っちゃうニ?」
「そうだな、ここまでで結構足止め食っちゃったしな。少しだけミクルスの容体確認したら森に入るか」
「待て待て…急ぐ気持ちは分かるが、もうじき入相ですぐに日も沈む…。俺達だって準備が必要だし、出発は明日の明朝だ、これは従ってもらうぞ」
私達は出発する気満々だったが、アレスとロイスに止められた。夜の森は危険だし、今から入っても大して進めないからとのこと。
ニキがどうかは知らんが、私とアクアスは森に関して完全初心者。特に私は王都育ちの都会っ子、がっつり森に入るのはこれが初めてだ。
ここは大人しく経験豊富な現地民の指示に従い、しっかり準備を整えて明日森に入ることにした。アレス達とも一度別れた。
準備するったって何が必要なのか全然分かんねェけど…とりあえず多めに虫除け香水持っていけば大丈夫かな? 帰りにマルベイで帰っていこ。
──翌日の
<〔Persp
「ん~♪ 美味し~♪ やっぱりアクアス君の料理はレベルが違うね! 病み上がりの体がグングン元気になるよ!」
「ありがとうございますミクルス様、おかわりもしてくださいね」
「丸一日太陽光浴び続けただけで治るとは…素晴らしい種族だことよ…」
「羨ましいニ…」
朝早く起き、
森にミクルス様は連れていかない予定でしたし、元気になったようで安心しました。これで心置きなく森に入って行けます。
持ち物の最終確認をし、ミクルス様を飛空艇に遺していよいよ出発──っという場面でミクルス様がカカ様の肩に手を置いた。
「ねェカカ…? 約束…忘れてないよね…? ボクがトラウマを押さえつけてまで飛空艇に乗った対価…まだ貰ってないな~?」
「うっ…! クソ…覚えてやがったか…、えェー…ほんとにやんのぉー…? はいはい分かりましたよ…、じゃあオマエ等…ちょっと外で待っててくれ…」
「えっ…?」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──アアアアアアアアアッ…!!!」
「キャアアアアアアアアアッ…♡♡♡」
決して共存しないと思っていた声が飛空艇から響いてきます…。ミクルス様の艶やかな声と…カカ様の絶叫…、一体何をしてるのでしょうか…。
少し待っていると…幸せそうな顔をしたミクルス様と明らかにやつれたカカ様が出てきました…。目に光がありません…。
「待たせたな…そんじゃ行こうか…。──いや待てよ…? ちょうどいい機会だ、オマエ等もミクルスに診てもらえよ、何か見つかるかもしれねェし」
「えェー?! 嫌ニ…! 断固拒否するニ…!」
「
ミクルス様の
「オマエ等なぁ…気持ちは痛いほど分かるが私と同じ目に遭いたいのか…?」
「そうだぞ2人共、──いいんだよ…? 舐めるのは別に手でなくとも…」
「手で…! 手でお願いしますニ…!」
「
凄まじい怖気に負け…
手でこれなら…絶叫していたカカ様は一体どこを舐められたのでしょうか…、想像するのも恐ろしい話です…。
「ふむふむ、ニキさんは問題なしだね、健康そのものだよ! アクアス君も体調に問題はないけど…若干免疫力が落ちているね、栄養をしっかり摂った方がいいよ」
「だってよアクアス、良かったな風邪引く前に指摘されて。ほらカミルドリンクやるから、これ飲んで石版探し中に体調崩さないようにしろよ」
「はい…ありがとうございます…」
<〔Persp
「おっ居た居た! おはよう荒男にロイス、こっちは準備オッケーだぜ。そっちは…──行くのはオマエ等だけか?」
ミクルスと別れて集合場所に向かうと、そこにはアレスとロイスの2人だけしか居なかった。昨日の
「石版探しは俺達だけで、他の連中はお留守番だ。
「
町を囲う壁の向こう…何が待ち受けているか分からない危険いっぱいの森にいよいよ入る…! 今朝の出来事は忘れて気を引き締めないとな…!
毒生成物やら食虫植物やらキモい蟲やら
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
イントレイスを後にし、私達は目の前に広がる広大な森へと踏み入れた。背の高い木々や草が青々と生い茂り、あちこちから鳥のさえずりが聞こえる。
まるで別世界に迷い込んだかのよう…、吹き抜けるそよ風がとても気持ちいい。とても危険が潜んでいるようには見えず…何だか気が抜けそうだ…。
「アレス、進路はどうする?」
「とりあえず
「んっ? ネブルヘイナ大森林抜けた先に集落があんのか? ってか半日足らずで抜けられる程度の広さしかないのか?」
抜けるのに半日掛かるのはそこそこ広いのだろうが、前回が広大過ぎる砂漠だっただけに狭く感じてしまうな。
「この森は〝
「ネブルヘイナ大森林みてェな危険地帯のすぐそばに町なんざ築くかよ…」
私は余計な一言を吐いたアレスをキッと睨み付けた。しかしそうか…まだネブルヘイナ大森林じゃなかったのか。
だから森全体がこんな穏やかな雰囲気だったのか、納得納得。今回は意外と楽に済みそうだと思ったが…そうはならなさそうだ…。
「森に入る前に、向こう側に山脈が見えたでしょ? その麓に第一目標地点の〝
「そこからじゃねェと、ネブルヘイナ大森林に入れねェからな」
山脈と山脈に囲まれてできた隔絶された大地のことを〝マウンテン・プール〟と言うらしく、その広大な隔絶空間にネブルヘイナ大森林は存在するらしい。
もとは国境付近の山脈に穴を開けてトンネルを作ろうとしたらしいが、その穴が偶然にもネブルヘイナ大森林と繋がったそう。言ってしまえば秘境だ。
当時そのトンネルを管理する人達が麓に仮家を建てて暮らしていたそうだが、やがて誰も管理しなくなった。
そんな捨てられた仮家に
山脈に囲まれた森に飛空艇を停められるような場所は無く、山の上に停めたとしても…険しい岩肌を下るのは危険が大きいらしい。
空から行くのはバカがすることだとアレスに言われた…コイツマジで一言多い…。
やはり諦めて地道に歩くしかないようだ…まあ山と砂漠を歩いたのだから、多少危険な森なんざ大したことはない。
先を歩くアレス達に続いて、私達は
──第101話 腑抜け〈終〉