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121. 美の権化

 レヴィアの顔が歪む――――。


 怒りと深い悲しみが、その表情に浮かぶ。幾千年の時を生きてきた者の、哀愁あいしゅうに満ちた表情だ。


「ヌチ・ギよ、本当にそこまでするつもりか?」


 レヴィアの寂しげな声が低く響く。その声には、かつての同僚へのなつかしさが混ざっている。


「はっ! いつもそうやって訳知り顔で偉そうに……。もううんざりなんだよ! ロリババアがっ!」


 ヌチ・ギは狂気にうなされたように喚く。そこには長年積み重なった鬱憤うっぷんが滲み出ていた。


「ほう? どうやら教育を間違えたようじゃ……。性根を……叩き直してやるわ!」


 レヴィアは全身に気合を込め、黄金色の輝きを纏う。その激しい怒りに金髪は逆立ち、真紅の瞳は光り輝いた。それは神話に描かれる怒れる神獣そのものだった。


 その圧倒的な闘気に当てられ、さすがのヌチ・ギも顔をしかめる。


 俺は息を呑む。管理者同士の戦争の幕開けを目の当たりにしているのだ。一歩間違えればこの星を吹き飛ばしかねない巨頭同士のぶつかり合いに俺は震えた。そこはもう人間が入り込める世界ではない。


「くっ! 戦乙女ヴァルキュリ来い!」


 ヌチ・ギの開いた空間の裂け目が、生命を宿したかのように蠢き始める。その向こう側から何かが押し広げ、裂け目は徐々に広がっていく。異世界との門が開かれていくかのようだ。


 突如、眩いばかりの光が溢れ出し、その中から一人の巨大な女性兵士が飛び出す。


 長い髪をなびかせながら現れた彼女は、まさに美の権化ごんげそのものだった。均整の取れた目鼻立ち、チェリーのような魅惑的な唇。黒い革のビキニアーマーが、彼女の曲線美きょくせんびを際立たせている。その肌は真珠のように輝き、まるで神々の彫像のように見えた。


 彼女は無表情のまま、優雅に地上へと降り立つ――――。


 激しい地響きと共に砂煙が立ち上った。その巨躯きょくは二十メートルを優に超え、体重は五十トンを下らないだろう。芸術品のような美しき巨兵がついに起動してしまったのだ。


 事前に見つけていながらも、結局ヌチ・ギの手から救うことができなかった。その思いが、俺の胸に痛切つうせつな後悔を呼び起こす。


 もし味方だったなら、どれほど心強かっただろう――――。


 俺はギリッと奥歯を鳴らした。


「こらまた、面妖な物を作りおったな……」


 レヴィアの声には呆れと共に僅かな憐憫れんびんの色が滲んでいる。まるで、悪戯をする子供を見守る親のような口調だ。


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