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127. 小さな勇気

「ぶ、物理攻撃無効!?」


 俺は思わず宙を仰いだ――――。


 灯りかけた希望の光が、また消えていく。


「じゃ、何も手伝えないじゃないですか!?」


「いいから最後まで聞け!」


 レヴィアの声に、焦りの色が混じる。今はまだ交戦中なのだ、時間との戦いを感じさせる緊迫感が漂う。


「この先に湖がある。我がそこでワナ張って待つからお主、戦乙女ヴァルキュリをそこまで誘導して来い!」


「いやいやいやいや、待ってください!」


 俺は真っ赤になって必死に抗議する。


「ワープしてくる敵の攻撃なんて避けようないし、当たったら死ぬんですよ! そんなの無理ゲーじゃないですか!」


 レヴィアは喚く俺の顔をじっと見つめていた――――。


「お主……、ドロシーを、孤児院のみんなを守りたいんじゃろう?」


 レヴィアの声が、静かに、しかし力強く響く。


「え……?」


 その言葉に、俺の心が揺れる。


「我一人では無理なんじゃよ?」


 レヴィアの美しい碧眼が俺の目をのぞきこむ。


「くぅぅぅ……」


 俺はキュッと唇を噛み、うつむいた。大切な人々、そして未来への希望。全てを守るために、自分にできること――――。


「我らには、もう選択肢がないのじゃ。これが最後の賭けになる。お主の勇気が、この世界を救うのじゃ」


 レヴィアは熱を込めた目で諭す。


 そうなのだ。できるかどうかじゃない、やらなきゃ終わりなのだ。よく考えれば俺は一回死んでるし、さっきも死にかけたところをレヴィアに救われたのだ。死を恐れている場合ではない。


 恐怖と戸惑いの中で、俺の中に小さな勇気が芽生え始めた。


 目をつぶり、深く息を吐き出す――――。


 俺は決意を固めた。その瞬間、体の中に新たな力がみなぎるのを感じる。


「わかりました。やってみます」


 俺はグッとこぶしを握った。


 それを見てレヴィアの顔に、安堵の表情が浮かぶ。俺もその笑顔に不思議と勇気づけられる。


「よし!」


 レヴィアはパンパンと俺の肩を叩いた。


「とはいえ……、単身戦乙女ヴァルキュリ相手にしたら瞬殺じゃ……」


「だから言ってるじゃないですか……。ワープしてくる敵なんか避けようがないですって!」


 レヴィアはグッと俺を押しのける――――。


 そして、後ろで見ていたドロシーをジロリと見てひとみを鋭く光らせた。


「そこで、娘! お主の出番じゃ! お主を我の神殿に送るから、そこで戦乙女ヴァルキュリの動きを読め」


 突然の宣告にドロシーは青くなる。


「えっ!? わ、私……ですか?」


 いきなりのご指名に首を振りながら後ずさりするドロシー。


 その声には戸惑いと恐れが入り混じっていた。


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