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126. 65535

「レ、レヴィア様ぁ……」


 俺はポロポロと涙をこぼしながらガックリと肩を落とす。


「なんじゃ?」


 その時、突如としてどこかから声が聞こえた。


「……? 空耳……?」


 俺は慌てて辺りを見回す――――。


「何やっとる! 作戦会議をするぞ!」


 なんと、足元からレヴィアの声がするではないか! 心臓がおどり、息が止まる。


「えっ!?」


 見おろせば、レヴィアが俺の掘ったトンネルの中にいる!?


 その姿は、先ほどまでの巨大な龍とは打って変わって、あの愛らしいおかっぱ頭の少女の姿だった。金色の髪が、暗闇の中でかすかに輝いている。


「あ、あれ? あのドラゴンは?」


 俺が間抜けな声を出して聞くと、レヴィアはフンッと鼻で嗤った。


「あれはただのデコイじゃ。攻撃の時以外は囮を見せておくのは常套手段……。奴も囮だったようじゃな」


「えっ! じゃあ彼女もノーダメージってこと?」


 俺は神々の戦いの裏に広がる高度な騙し合いに、思わずため息をついた。


戦乙女ヴァルキュリはヤバい、ちょいと工夫せんと倒せん。お主も手伝え!」


 レヴィアは鋭い視線でパンと俺の肩を叩く。


「え!? 手伝えって言っても……」


 俺は戸惑いを隠せない。自分が戦闘で役に立つイメージなんて全く持てなかったのだ。


「俺はもう一般人ですよ? チート能力なんてないんです……」


「つべこべ言うな! 死ぬかやるかじゃ! どっちじゃ!?」


 レヴィアの真紅の瞳がギラっと光を放つ。


「や、やりますよぉ……。でも……」


 やらなきゃ死ぬと言われたらやる以外ないのだが……、あんな神々の戦いでは足手まといにしかなれないだろう。


「ステータスならカンストさせてやる!」


 レヴィアがそう言うと同時に、突如として頭の中でピロロン! ピロロン! とレベルアップの音が延々と鳴り響き始めた。その懐かしい音は、まるで祝福の鐘のように心地よく響きわたる。


 刹那、全身に力がみなぎっていく――――。


「うっ、うっほぉぉぉ!!」


 驚いてステータスを確認すると、


ユータ 時空を超えし者

商人 レベル:65535


 と、信じられないほどのレベルに到達していた。目を疑うような数字が、俺の新たな現実となる。


「え!? 六万!?」


 驚愕の声を上げる俺に、レヴィアは首を振り、冷静に説明を始めた。


「レベルなんぞ戦乙女ヴァルキュリ相手にはあまり意味がない。あ奴は【物理攻撃無効】の属性がついとるからお主の攻撃は一切効かん。でも、攻撃受けたらお主は死ぬし、あ奴はワープしてくる」


 その重い冷徹な口調に、俺は息を呑んだ。

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