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144. 最果ての惑星

 しばらく行くと、突き当りに漆黒の壁……いや、星が見える。


「おぉ! 窓だ!」


 俺は急いで駆けよった。


 強化ガラスを思わせる分厚ぶあつい透明な壁が、宇宙空間との境界を作っている。窓の外は壮大な大宇宙、満点の星々――――。


 ふと下を見て思わず息が止まった。


 おわぁ!


 なんとそこには紺碧こんぺきの巨大な青い惑星の水平線が広がっていたのだ。どこまでも澄みとおる美しい青は心にしみる清涼さを伴い、表面にかすかに流れる縞模様は星の息づかいを感じさせる。渦を巻く大気の流れは、悠久ゆうきゅうの時を刻む天体の鼓動こどうのようだった。


「おぉぉぉ……。これが……、海王星ですか?」


 俺は畏怖いふの念にとらわれながらレヴィアに聞いた。


「そうじゃよ。太陽系最果ての惑星、地球の十七倍の大きさの巨大なガスの星じゃ」


「美しい……、ですね……」


 俺は思わず見入ってしまった。言葉では言い表せない荘厳そうごんさに、魂が震えるのを感じる。


 壮大な水平線の向こうには薄い環が美しい円弧を描き、十万キロにおよぶ壮大なアートを展開している。氷の粒子が織りなす環は、神秘的な光の帯となって惑星を演出していた。


 よく見ると満天の星々には濃い天の川がかかり、見慣れた夏の大三角形や白鳥座が地球と同様に浮かんでいた。ただ……、上の方に見慣れない星がひときわ明るく輝いている。


「あの星は……、何ですか?」


 俺が首をかしげながら聞くと、レヴィアの瞳がたのしげに輝いた。


「わははは! お主も知ってる一番身近な星じゃぞ、分らんのか?」


「身近な星……?」


 俺は首をひねった。あんなに明るく輝く星ならば恒星に違いないが……、そんな星が身近にあっただろうか?


「太陽系で一番明るい星は何じゃ?」


 レヴィアはニヤニヤしながら俺の顔をのぞきこむ。豊満な胸がその存在を誇示していた。


「一番明るいって……輝いてるのは太陽しか……。へっ!? もしかして……太陽!?」


 俺は驚いて太陽をガン見した。


「そうじゃよ。遠すぎてもはや普通の星にしか見えんのじゃ」


「えーーーーっ!?」


 地球では決して直視できない灼熱の星が、ここではただの輝点きてんとなっている。


 点にしか見えない星、太陽。そして、その弱い光に浮かび上がる紺碧こんぺきの美しき惑星、海王星。俺が生まれて育った地球はこのあおき星で生まれたのだ。ここが俺のふるさと……らしい。


 あまりピンとこないが……。


「それで、コンピューターはどこにあるんですか?」


 俺は目を凝らして辺りを見たが、データセンターらしき構造物は見当たらない。


「ここは宇宙港じゃ、港にサーバーなんかある訳ないじゃろ。あそこじゃ」


 そう言ってレヴィアは紺碧こんぺきに輝く海王星を指した。


「え!? ガスの星ってさっき言ってたじゃないですか、サーバーなんてどこに置くんですか?」


 ガスの中にサーバーを置くなど意味が分からない。地球の常識では考えられない状況に、思考が追いつかなかった。


「ふぅ……。行けば分かる」


 レヴィアは金髪をらしながら、肩をすくめた。子供の質問に辟易へきえきした大人のようである。


「……。で、どうやって行くんですか?」


 俺が聞くと、レヴィアは面倒くさそうに無言で天井を指さした。

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