死の淵に立たされた俺は自問する。俺は正しくやれていただろうか――――?
チートという異常な力を得て、好き勝手な生活を送ってきた。ドロシーとの結婚、奪還含めてすべては俺の
鉛のような重さの心を持て余していると、ふいに回転が緩やかになってくる。
あれ……?
「ヨッシャー! 我にかかればこんなもんよ!」
レヴィアの
緩やかに回転が止まり、シャトルの姿勢が安定してくる。制御パネルの警告音も弱まり、温度計の数値が徐々に下降線を辿っていた。
ボシュッ! という湿った空気の膜を突き破るような音と共に、シャトルは雲海から顔を出す。
突如として、
果てしない水平線が弧を描き、
おぉぉぉぉ……。
思わず息を呑む。眼下に広がる海王星の広大な界面は、まるで永遠を湛えているかのように静かに横たわっている。
追跡者の影はもう見えない。レヴィアの破天荒な選択と卓越した操縦技術が、俺たちを死地から救い出してくれたのだ。さすが数千年生きた龍、ただものではなかった。
ふと、心の中で澱んでいた思考が晴れていく。よく考えればこの事態は、単に俺の
悩む時間は終わった。ここまで来たからには、この
世界の
シャトルは静かに、大気の海を泳ぐように飛び続ける。陽の光を受けて輝く雲海が、俺たちの行く手を祝福するかのように、優しく道を開いていった――――。
◇
ドロシーは一人寂しく画面を眺めていた。
二人が向かったという場所は海王星――――。
別の星へ行くと言ってポッドに入ってしまった二人。なぜ、ポッドに入ると他の星へと行けるのか皆目見当はつかないが、ユータは全て分かっているようだった。
空間を自在に裂くドラゴンの姿。そして、ドラゴンの
「帰ってきたら全部教えてもらうんだから……」
ドロシーは頬を膨らませ、テーブルに肘をつく。それでも不満げな声音の奥には、深い愛情と信頼が潜んでいた。
ピチョン……、ピチョン……。
洞窟の奥深くから、水滴の落ちる音が
テーブルに額を付け、ドロシーはまるでジェットコースターのような今日の出来事を反芻する。自分が
まるで神話の一頁のような出来事が、確かな現実として心に刻まれている。この神殿こそが、世界の命運を決する最前線。ポッドに横たわる二人の身体を守ることが、人類の未来を左右する。そしてその重責は、今まさに自分の双肩にかかっているのだ。
孤児院で育った十八歳の少女が、まさか世界の命運を握るような立場に立つとはとても想像できなかった。
日々の糧を得て、愛する人と共に暮らすことだけを夢見てきたどこにでもいる女の子。しかし世界は、そんな牧歌的な傍観を許さなかった。
ユータと共に生きることを選んだ時から、覚悟はしていたはずなのに――――。
想像をはるかに超える重圧が、今、ドロシーの肩に圧し掛かっていた。