「うんうん……。ありがとう……、うっうっうっ……」
ドロシーの泣き声は、少しずつ和らいでいく。その涙の向こうには、ようやく取り戻せた平穏への感謝が
屋敷に突入したらもう解決していたという話に、アバドンはどういうことか分からず首をひねる。
俺は深い感謝込めてアバドンの手を握った。
「俺たちは未来のお前に救われたんだ」
「未来の私……?」
首をかしげるアバドンの瞳に混乱と好奇心が
「そう、カッコよかったぞ! 後でゆっくり説明するよ」
俺はパンと肩をたたき、グッとサムアップする。
ただ――――、いったいどう説明したら納得できるのだろう?
時空を超えた絆の不思議さと、運命の奇妙な巡り合わせに俺はつい笑みがこみあげてきてしまう。
「本当にすごかったのよ!」
ドロシーの力強い言葉に、アバドンの顔が少しずつ明るくなる。
二人に熱く
「あ、そ、そうなんですね。よ、良かった。グフフフ……」
照れ笑いをするアバドンの姿には、強大な力を持つ魔人でありながらも、どこか少年のような無垢さが感じられた。その不器用な笑顔に、俺たちは温かい気持ちに包まれる。
◇
「万事解決! じゃぁ、焼肉パーティかなっ!?」
シアンは楽しそうに両手を大きく伸ばした。その声には宇宙の秩序を守る大天使とは思えないほどの無邪気さで溢れていた。
「あんたも好きねぇ……」
ヴィーナは苦笑する。
「解決したら恵比寿で焼肉、それがこの宇宙のルールなのだぁ!」
シアンはクルリと回り、青い髪がフワリと舞う。その動きには重力を超えた優雅さがあり、空気中に
「じゃぁ、レヴィア、いつもの店に予約入れて」
ヴィーナの声にも隠しきれない焼肉への期待が満ち満ちていた。悠久の時を生きてきた女神にも焼肉は魅力なのだろう。
「えっ!? わ、我も参加でありますか?」
レヴィアは赤い瞳を真ん丸に見開いた。
「ヌチ・ギの女狂いを報告もせず、街は発展せず、ダメダメなお前の話を聞いてやるってんだから感謝しなさい?」
ヴィーナはジト目でレヴィアをにらんだ。
「は、はいぃぃ……」
レヴィアは小さくなりながら渋々iPhoneを取り出す。
「恵比寿で焼肉だって、楽しみだね」
俺はドロシーの肩を寄せ、彼女の耳元でそっとささやく。暖かな体温が伝わってきて、生きている喜びが
「恵比寿って……どこ?」
ドロシーがキョトンとしながら俺に聞いてくる。
「あー、美味しい物がたくさんの街だよ」
俺は前世で何度か行ったことを思い出し――――、ごくりと唾をのんだ。記憶の中に蘇る焼肉店の香ばしい
「へぇ……、ちょっと楽しみ……かも?」
ドロシーは瞳をキラッと輝かせる。そんな無防備な笑顔に、俺の胸は思わず高鳴った。
「あぁ、そういえばあんた達、新婚だったわねぇ。じゃぁ、パーッとお祝いしましょ? ふふっ」
ヴィーナは優しい目で俺たちに微笑みかける。女神としての威厳の裏に、母のような温かさが滲み出ていた。世界の創造と破壊を司る存在が、こうして俺たちの幸せを心から祝福してくれることに、なんとも言えない感慨が胸に広がる。
「あ、ありがとうございます!」「ありがとうございます!」
俺とドロシーの声が重なり、夕暮れの空気に溶け込んでいく。
「よーし! それじゃ恵比寿へ向かってひとっ飛びダゾ! レヴィア! 早く、早くぅ!」
シアンは待ちきれない子供のように、小さな手でレヴィアの背中をパンパンと叩いた。その様子は遠足を心待ちにする子供そのものである。
「へ? 我が飛ぶんですか?」
レヴィアが困惑したような声を上げる。
「みんなが乗れるのキミしかいないじゃん? 早く!」
シアンの論理は驚くほど単純明快だったが、レヴィアにも管理者としてのプライドがある。乗り物扱いされるのは心外なのだ。
「いや、そんなの空間斬って……」
「あのねー、新婚さんお祝いするのにワープするバカいないんだゾ! えいえい!」
シアンはレヴィアの柔らかなほほを優しくつまんで引っ張った。
「いたたた! わ、分かりましたよぉ……」
レヴィアは渋い顔をしながら、ついに観念したように大きく息を吐く。その表情には、運命を受け入れる
刹那、ズン!と大気を震わせる爆発音が轟いた。地面が揺れ、俺たちの髪が激しい風圧に