ギュァァァァーー!
夕暮れの大地に、腹の底を揺らす重低音の
山々にこだまする威厳に満ちたその叫びには、「どうじゃ、これが我の真の姿じゃ!」と言わんばかりの
「おぉぉぉ……」「うわぁ……」
夕陽に照らされたレヴィアの姿は、伝説の一幕のように神々しい。
俺はドロシーの手を握りながら、これから始まる新しい人生への期待にぐんと胸が膨らむのを感じる。彼女の手から伝わる温かさは、未来への希望そのものだった。
転生し、最強の力を手に入れ、宇宙の真実を知り、そして今――――、最愛の人と共に新たな一歩を踏み出そうとしている。この瞬間の幸せを、俺は一生忘れることはないだろう。
◇
「よぉし! 目標、恵比寿! 披露宴パレード出発!!」
シアンはレヴィアの首のすぐ後ろに乗ってパシンと鱗を叩いた。
「はいはい……。では、離陸しますよ。落ちないでくださいよ」
ドラゴンは渋い顔をしながら後ろ足に力を込め、巨大な翼を振り下ろすと同時にぐぅんと一気に宙に飛び上がる――――。その動きは
「うっひょー!」「うわぁ!」「うはぁぁ!」
一行はドラゴンに乗って一気に夕暮れの諏訪の上空へと舞い上がっていく。風が頬を打ち、髪を乱し、心臓が高鳴る。地上がぐんぐんと遠ざかり、世界が小さくなっていく感覚に、子供のような歓声が上がった。
真っ赤な夕日に染まる大地――――。諏訪湖が
その時だった――――。
「えっ? あれ……は?」
ドロシーが指さす先からはオオハクチョウやガンなどの鳥の群れが迫ってくる。いくつものV字編隊を組んで飛来する姿は、まるで大自然が俺たちを祝福しに来たかのようだった。
「渡り鳥だねぇ……えっ!? まさか……」
鳥たちはなんとドラゴンの周りを取り囲むように一緒になって飛び始めたのだ。まるで古の伝説が現実となったような光景に、俺たちは息を飲む。
真っ赤な夕日に輝く翼を優雅にはためかせ、鳥たちは楽しそうにドラゴンとランデブーする。その姿は自然と超自然の境界線が溶け合う、幻想的な一幕だった。グァッ!グアッ!と鳥たちの鳴き声が空に響き、それはまるで祝福の歌のように聞こえる。
「おぉ! いいねいいね!」
シアンは青い光をまとい、ぴょんと飛び上がると一緒になって少し前を飛ぶ――――。
そして、iPhoneを取り出して、鳥に囲まれたドラゴンの一行へとカメラを向けて手を振った。
「はいっ! 写真撮るよーー!」
「えっ!? この格好で……?」
ドロシーは煤こけたボロボロの衣服を眺めながら困惑する。戦いの痕跡が残る姿は新婚の晴れ姿とは程遠かったのだ。
「シアンはこういうところ雑よね……。はいっ」
ヴィーナはため息をつきながらパチンと指を鳴らした。その音は夕空に高く響く――――。
刹那、ボロボロの衣服は純白のウェディングドレスとなり、夕日を浴びて赤く輝きだす。
「うわぁ……」「綺麗だ……」「姐さん素敵です!」
その見事な女神の御業に俺たちは圧倒され感嘆の声が漏れた。
ドロシーの銀髪が夕陽を受けて黄金色に輝き、その姿はまさに天上の花嫁である。
見れば俺もいつの間にかネイビーのタキシード姿になっていた。
直後、キラキラと煌めく花吹雪が一行を包む――――。花びらが風に舞い、夕陽の光を反射しながら螺旋を描いて降り注ぐ。それは自然界ではありえない、神の祝福そのものだった。
「はーい、シャッターチャンスよ!」
「いくよーー! はい! チーズ!!」
パシャーッ!
シャッター音が空に響き渡る――――。
「ありがとうございます!」「ありがとうです……」
パチパチパチパチと、諏訪の上空に拍手が響き渡った。神々の祝福、友人たちの笑顔、そして大自然の
その全く想像もしていなかった展開に俺のほほを知らぬ間に涙が伝っていた。転生前の自分が、まさかこんな祝福を受けるとは夢にも思わなかっただろう。失意の死から始まった第二の人生が、今、最高の形で花開いた。
そんな俺にドロシーも目を潤ませながら身を寄せてくる。その温もりが、すべての不安を溶かしていった。
俺は夕日に照らされキラキラと赤くきらめくドロシーの銀髪を優しくなでながら瞳を見つめた。その瞳には、俺への深い愛情と、共に歩む未来への期待が宿っている。
「さぁて! では東京上空へ転移するよー!」
レヴィアの首へと戻ってきたシアンは上機嫌に腕を突き上げる。
「ちょ、ちょっと待ってください! このまま東京を飛ぶんですか?」
レヴィアは慌てて声を上げる。巨大なドラゴンが首都上空を飛行するなんて、どう考えても大騒ぎになる。
「いいじゃない。何が問題?」
シアンは
「いやいやいやいや、自衛隊の戦闘機がスクランブル発進して来ますって!」
レヴィアの必死の訴えに、ヴィーナが
「じゃあ、自衛隊対応はユータ、あなたやりなさい」
ヴィーナはニヤッと笑うと楽しそうに俺を見た。その瞳には、後継者を試すような期待と、少しの茶目っ気が混じっていた。
「へっ!? わ、私ですか!?」
「あなたさっき啖呵切ってたじゃない。これしきの事が出来なくて管理人なんて務まらないわよ。OJTよOJT。やってみなさい」
「自衛隊機なんてどうしたら……」
俺が言葉を失っているとシアンが振り返る。
「そんなの撃ち落としちゃえ! きゃははは!」
「いや、ちょっと、さすがにそれは……」
「じゃぁどうしたらいいと思う?」
ヴィーナは俺の顔を覗き込むその琥珀色の美しい瞳にはどこか温かさがあった。
「レーダーを壊す……いや、レーダーに反応しないようにすればいいのか。でもそれって……」
「ふふっ、覚悟決まった?」
「ぶ、ぶっつけ本番ですか?」
「テロリストはこっちの都合を待ってはくれないのよ?」
ヴィーナは鋭い視線で俺を射抜く。
「くっ……」
奥歯をかみしめる俺の手をドロシーがキュッと握った。
「大丈夫、私もついているわ」
「ドロシー……」
その柔らかな手から伝わる力強さに、不思議と勇気が湧いてくる。
「あなたは星を救った救世主なのよ? なんだってできるわ」
ドロシーが俺をまっすぐに見つめている――――。
「ははっ! 新婦の方が堂々としているわよ?」
ヴィーナの軽快な
「はぁぁぁ……。分かりました。自衛隊ドンとこいですよ!」
俺はそういうとドロシーの手を握り直し、キュッと口を結んだ。新たな管理者としての決意が、胸の内で固まっていく。
「それじゃ転移よーい!! 五、四……」
シアンが楽しそうにカウントダウンを始める。
「へっ! もうですか!?」
「ユータ、覚悟を決めんかい……」
レヴィアは遠い目をしながら力なく羽ばたいた。
「二、一、GOーー!!」
「うひぃぃぃ!」「きゃぁぁぁ!」
空間が
こうして宇宙をつかさどる一行はドラゴンに乗って東京の限りなくにぎやかな夜へと飛び込んでいった。
「うわぁ……、凄い! 一面の宝石みたいだわ……」
「ユータ! 入間基地のレーダーに映ってるわよ!」
「ひぃぃぃ! ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃぃ!」
「早くしないと僕が撃ち落としちゃうぞぉ! きゃははは!」
「もぉ! 止めてください!! えーっと、どうするんだったかな、えーっと、えーっと……」
「あなた、大丈夫。落ち着いて……」
「ドロシー……」
「ひよっ子め! 我が手伝ってやろうか? カッカッカ」
「大丈夫……です!」
「ユータ! ダンスの時を思い出しなさい」
「へ? ダンス……ですか? ……。関係ないと……思うんですが?」
「ははっ、そこまで落ち着いてるなら大丈夫! ほら! 頑張んなさい」
「あーもう、こんな時に試したりしないでくださいよぉ!」
「お、高輪ゲートウェイがもうオープンしてるゾ! レッツゴー!」
「シ、シアン様! 何するんですか!! 勝手に力かけちゃダメですって! あわわわ」
「それそれそれ~! うっひょー! きゃははは!」
「うはぁ……綺麗……ですねぇ。グフフフ……」
「みんなちょっと静かにしてください!!」
「あなた、テロリストは待ってくれないのよ?」
「ドロシー……」
「大丈夫、あなたならできるわ」
「……。オッケー! 俺はできる! ヨシッ!」
「あなた、見かけによらず凄いわねぇ……」
「うちの妻は最高なんです! って、あと……もうちょい……」
「あなた、頑張って!」
「あっ! シアン様! ダメ! 落ちる落ちるって!! うわぁぁぁ」
「ひぃぃぃ!」「うひゃぁぁ!」「もう! ちょっと止めてくださいって! うわぁぁぁ」
「うっひょー! たーのしー!!」
こうして思い出深い披露宴の夜が始まった――――。
その後、二人は娘を
了