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第23話 絶倫領主、遺跡に仕掛けられた陣を踏む

 ルーシの背に乗って遺跡をさらに潜る。

夜目が利くルーシーを頼りに、俺たちは暗闇をどんどんと進んだ。


「こないなけったいな造りになっとったんえ。長いこと棲んどったけど、こないになっとるとは、知らんかったわぁ……」


「けったいな造り? なにかあるのかルーシー?」


「石造りの人形がずらりと並んどります。ひょっとせんでも、霊廟やわ……」


 霊廟とは、たしか東洋の王族の墓だ。

 西洋では王族の墓はシンプルだが、東洋では死後も王に対し敬意を払い、その功績に相応しい墓を建てる。時にそれは大きな都市にさえなるという。


 また、霊廟には、王の魂を慰撫するために、多くの宝物が納められる。

 死後も贅沢をしたいのだろう。


 ただし、納められた宝物を狙い、霊廟に忍び込む輩も多くいる。

 そんな不逞の輩のために、設計者たちはあの手この手で遠ざける方法を考える。


 つまるところ――罠だ。

 さきほどの咆哮ももしかすると、その一つかもしれない。


「ガーゴイル……か? 廟内にあってもおかしくないな?」


「旦那さま? がぁごいるとはいったいどのようなものなのですか?」


「が~ごいるぅ~⁉ おに~ちゃん、なぁ~に、それぇ~⁉」


「あぁ、魔法で造る動く石像でな。こういう重要施設の防衛のために置かれるんだ。もしかすると、並んでいる石像がそれかもしれない。突然動き出すかも知れないぞ……」


 まぁ、ここは東洋だ。

 あるとはちょっと思えないが。


 しかし、まさかモロルドの領内に、霊廟があったとは知らなかった。

 いったいどのような人物が埋葬されているのだろう。


 偉大な王だろうか。


 いや、王ばかりとは限らない。

 王の血族や有力諸侯の墓の可能性もある。

 とくに島は、流刑になる貴族も多いからな。


 だとしたら、俺と同じ境遇か――。


 そう思うと、途端に怖さが和らぐから不思議だ。


「どないしはります旦那はん? もうちょっとだけ進んでみはる?」


「あぁ、行けるところまで行ってみてくれ」


「も、もうかえろうよ、おに~ちゃん! が~ごいるさんがいるかもなんだよ!」


「そうです。霊廟だと分かっただけでも、大きな収穫ではありませんか」


「むぅ、そうか……?」


 霊廟をもう少し奥まで探りたい、俺。

 引き返したい、セリンとステラ。

 どちらでもないルーシー。


 ルーシーのおかげで調査はできた。

 不気味な咆哮は聞こえたが、特に脅威の陰はない。

 遺跡の入り口を誰かに見張らせて、新都から近衛隊を引き連れ本格的な調査をする――というのが、現実的な落とし所かもな。


 なにより、ステラも怖がっている。

 まだ年端もいかない少女に、遺跡の探索は酷だったか。

 一寸先も見えない闇の中、俺にしがみついて震える第二夫人に――。


「よし、撤退しよう。ルーシー、ありがとう。ここで引き返してくれ」


 俺は遺跡からの撤退を決意した。


「わかりましたえ。そんならみなはん、全速で地上に帰るさかいあんじょう気いつけはってな? 振り落とされてもしらんえ?」


「誰に言っているんですか!」


「ぴぃっ! おに~ちゃん! おててつないでてぇ~ッ!」


「ルーシー。そんなに急がなくても大丈夫……」


 きっと冗談で言ったのだろう。

 半笑いで俺は頼りになる愛人に釘を刺そうとした。


 しかし――。


「…………あれは、なんだ?」


 彼女の肩越し。

 視界に入った天井に謎の紋様が浮かんでいる。


 思わず喉が鳴った。


 東洋でよく見る図柄。

 しかしながら、あきらかに邪悪な気配がする。

 赤く発光して八角形を描いたそれは、隣を歩く人の顔も見えない闇の中で妖しく輝く。


 摩訶不思議とはこのこと。

 さらにさらに――。


「紋様? なんのことですか?」


「ぴぇッ! おに~ちゃん! おどろかさないでぇ~ッ!」


「なんも見えはらへんけど? 旦那はん、何か見えはるのん?」


 俺以外には見えていない。


 これは凶兆か、それとも吉兆か。

 いいや、どう考えても凶兆だ。

 だとして、なぜ俺だけに見えるのか。


「まさか、母さんに関係があるのか……?」


 独りごちったまさにその時、赤い八角形のい紋様が眩く発光した。

 そして――。


「汝、その姿は九龍山の登仙なりや! この地に眠るは、金華洞の猿叫大師なり! 師の秘宝・秘術は誰であっても渡すまじ――!」


「なっ⁉ い、いきなり何を……⁉」


「食らうがいい! これなるは猿叫大師が生み出しし秘術が一つ! 烙魂機天陣!」


 謎の声とともに、俺たちは赤い光に包まれた――!

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