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第24話 絶倫領主、仙人の秘術に触れる

 気がつけば俺たちは明るい部屋の中にいた。


 さきほどまでいた暗い遺跡とは真反対。


 磨き上げられた廊下に朱色に塗られた柱。

 どこまでも続く長い長い廊下。

 欄干の向こうには清流が流れる庭園が広がっている。


 それが異常な光景だと気づくのに、そう時間はかからなかった。


「これはいったい? 夢でも見ているのか?」


「ぴぃっ! きれ~なおにわさ~んッ!」


「ほんまや、これは見事やなぁ。けど、なんやろかこの胸騒ぎは……?」


 騒ぐ俺たちをよそに、セリンが一人黙り込む。

 その顔は、夜伽やルーシーとの戦いでも見たことがないほど、青ざめていた。


 これは、間違いなく何かを知っている――。


「……この異様な光景! そして、空気中に満ちる仙気! 間違いない!」


「セリン? なにか知っているのか?」


「場所については覚えはありませんが――術については心得が!」


「術?」


「はい! これこそは東洋の神仙が使う――結界術です!」


 神仙の術か。

 一応、知識としては知っているが、こんな空間までも作りあげるとは。

 西洋の魔法と異なり、東洋の術はなんでもありだな。


 ただ、素直に感心していいものではないのだろう。

 脂汗を滲ませ、気を張るセリンの様子から、それは明らかだった。


 きっと危険な術なのだ。

 こんなにも美しく幻想的だというのに。


「陣と呼ばれる結界術は、神仙が秘術の集大成。つまり、必殺の技にございます。結界内に引きずり込まれれば、これを破ることはできません」


「…………なんだと?」


「あらあら、そんなけったいなものなんえ」


「おね~ちゃん、しんぱいしすぎなのぉ~! こんなにきれいなおにわだよぉ~?」


「ダメです! ステラさん、外に出ないで!」


 ひょいと庭に飛び出すステラ。

 その瞬間、青々とした空に巨大な鉄の棒が生えた。

 肝を冷やす暇もなく、それはステラに振り下ろされる。


 巨人が棍棒を振り下ろすかの如く。

 小さなセイレーンを打擲せんと、無骨な鉄柱が空を裂く。


「ぴっ、ぴぇええええっ! なになに! なんなのぉ~!」


 セイレーンだからよかった。

 ステラは迫り来る鉄柱をひょいとかわしてみせた。

 しかし、それで終わりではない。


 かわした先から次々に、鉄の棒が宙から現れる。

 宙を舞うステラを打ち据えんと、怒濤の攻撃を仕掛けてくる。

 まさに鉄棒の雨あられだ。


「ぴぃっ! ぴぃいいッ! おね~ちゃん! おに~ちゃん! 助けてぇッ!」


 まったく状況は分からぬが、とにかくステラを助けねば。

 とはいえ、どうすればいい?


 逡巡する俺の横で、セリンとルーシーが廊下の縁に立つ。

 セリンが得意の術を練り、雷光を空に向かって放てば――それは、ステラに向かって飛来する鉄棒を爆散させた。


 微かにできた活路に、ステラが勢いよく飛び込む。

 俺たちのいる廊下まであと少し――。


「ぴぃっ⁉ よ、横からぁッ⁉」


 その瞬間、まるで狙いすましたように、横薙ぎに鉄棒がステラを襲う。

 俺たちに向かって飛び込んできたせいで、逆に軌道を読まれたのだ。


「ステラ!!!!」


 万事休すか。

 思わず叫ぶ俺の横で。


「ほんに、子供のお世話は大変やわ」


 ルーシーの豪腕――下半身の盛り上がった前足が、ステラを襲った鉄柱を弾いた。


 危機一髪。

 セイレーンは海竜の娘と絡新婦の二人によって救われた。

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